世界で初めて冥王星のフライバイを行ったNASAの探査機“ニューホライズンズ”は、その後もいくつかの延長ミッションを行っています。
その延長ミッションにおいて、“ニューホライズンズ”が今後調査するカイパーベルト天体の候補探しに、すばる望遠鏡の広く深い撮像観測が貢献しているんですねー
今回の研究では、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”によるカイパーベルト天体の探査画像に、独自の解析手法を適用。
その結果、カイパーベルトの領域を広げる可能性のある天体を発見しています。
“HSC”を用いたミッションチームによるカイパーベルト探しは今も続いていて、今後も北米グループを中心として、次々と論文が出版される予定です。
本研究は、それに先駆けて、日本の研究者が中心となり、日本で開発された手法で、カイパーベルトの領域を広げる可能性のある天体を発見したものです。
小惑星などの天体がリング状に分布している領域
太陽系の中で、既に私たちが知っている惑星たちよりも遠く先には何があるのでしょうか?
海王星の先には、小惑星などの天体(小天体)がリング状に分布している領域“カイパーベルト”があり、そこからオールト雲(※1)までを“太陽系外縁部”と呼んでいます。
でも、私たちの知識は、まだ太陽に近い領域に限られています。
それに比べると、広がりが50天文単位程度とされるカイパーベルトは、とてもコンパクトな存在と言えます。
現在の観測データを見ると、カイパーベルトの外端は50天文単位辺りで突然途切れているように見えています。
もし、この外端が原始太陽系星雲の外端に相当するなら、太陽系の惑星系円盤はとてもコンパクトな状態で生まれたことになります。
一方、カイパーベルトの外端がその外側の天体(惑星)の影響を受け、その後の進化の過程で切り取られてしまった可能性も考えられます。
これが本当なら、カイパーベルトのさらに遠方を観測すれば、円盤を切り取った天体や、もしかしたら第2のカイパーベルトが見つかる可能性もあります。
このように太陽系外縁部にある天体を見つけ、その分布を調べることは、太陽系の進化を知ることにも繋がります。
探査機“ニューホライズンズ”による太陽系外縁部の調査
NASAの探査機“ニューホライズンズ”は、そんな太陽系外縁部を調査するための計画です。
2015年に冥王星系をフライバイ(※3)しながら観測した“ニューホライズンズ”は、2019年にはカイパーベルト天体の一つ“アロコス(ArroKoth)”をフライバイ。
太陽系外縁天体の表層を初めて人類に垣間見せてくれました。
“ニューホライズンズ”が今後調査するカイパーベルト天体の候補探しには、すばる望遠鏡が協力しています。
50天文単位を超える軌道長半径を持つ天体
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”を用いたカイパーベルト天体探しは、“ニューホライズンズ”が飛行する方向の二視野(満月のおよそ18個分の広さに相当する領域)に絞って行われています。
これまでに行われた約30半夜の観測で、“ニューホライズンズ”のサイエンスチーム(ミッションチーム)が見つけているのは、240個以上の太陽系外縁天体でした。
本研究では、上記の観測で取得した画像を日本の研究者を中心とするチームが、ミッションチームとは異なる手法で解析。
これにより、新たに7個の太陽系外縁天体を発見しています。
決まった視野を一定期間撮り続けた“HSC”の観測データには、JAXAが開発した移動天体検出システムを適用できました。
このシステムは普段、近地球小惑星やスペースデブリの検出に使われていたものです。
これは32枚の連続した画像を、いくつもの方向でズラして重ね合わせることで、特定の速度で移動する天体を検出するもの。
高速処理のために独自の工夫がされていました。(図2)
研究チームが、この検出システムを用いて新たに発見した7天体のうち2つについては、おおよその軌道が求められ、国際天文学連合の小惑星センター(MPC)から仮符号が与えられています。(※4)
このため、カイパーベルトの外縁はその辺りにあると想像されていました。
ところが、今回仮符号を与えられた2つの天体の軌道長半径は、どちらも50天文単位を超えています。
ただ、これらの天体の軌道要素は、将来的に観測が蓄積するにつれて多少の変動ががあるかもしれません。
それでも、今後も似たような軌道を持つ天体が発見され続ければ、カイパーベルトはさらに先まで続いていると言えるかもしれません。(※5)
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その延長ミッションにおいて、“ニューホライズンズ”が今後調査するカイパーベルト天体の候補探しに、すばる望遠鏡の広く深い撮像観測が貢献しているんですねー
今回の研究では、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”によるカイパーベルト天体の探査画像に、独自の解析手法を適用。
その結果、カイパーベルトの領域を広げる可能性のある天体を発見しています。
“HSC”を用いたミッションチームによるカイパーベルト探しは今も続いていて、今後も北米グループを中心として、次々と論文が出版される予定です。
本研究は、それに先駆けて、日本の研究者が中心となり、日本で開発された手法で、カイパーベルトの領域を広げる可能性のある天体を発見したものです。
この研究は、千葉工業大学 惑星探査研究センター 非常勤研究員の吉田二美博士(産業医科大学 医学部 准教授兼任)、NAOJ天文シミュレーションプロジェクトの伊藤孝士講師たちの共同研究チームが進めています。
本研究の成果は、2024年5月29日発行の天文学と天体物理学の学術雑誌“欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)”に、Yoshida et al. "A deep analysis for New Horizons' KBO search images "として掲載されました。
本研究の成果は、2024年5月29日発行の天文学と天体物理学の学術雑誌“欧文研究報告(Publications of the Astronomical Society of Japan)”に、Yoshida et al. "A deep analysis for New Horizons' KBO search images "として掲載されました。
小惑星などの天体がリング状に分布している領域
太陽系の中で、既に私たちが知っている惑星たちよりも遠く先には何があるのでしょうか?
海王星の先には、小惑星などの天体(小天体)がリング状に分布している領域“カイパーベルト”があり、そこからオールト雲(※1)までを“太陽系外縁部”と呼んでいます。
でも、私たちの知識は、まだ太陽に近い領域に限られています。
※1.太陽系の最外端には巨大惑星が弾き飛ばした微惑星が、太陽を中心に球殻状分布していると理論的には想像されていて、そのような天体の分布する領域をオールと雲という。オールと雲は太陽から10万天文単位あたりまで広がっていると推定されている。
太陽系以外に目を向けると、一般的な惑星系円盤の広がりは、恒星から100天文単位(※2)くらいになります。それに比べると、広がりが50天文単位程度とされるカイパーベルトは、とてもコンパクトな存在と言えます。
※2.1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。
こうした比較から考えられるのは、太陽系が生まれる元となった星雲“原始太陽系星雲”が、現在のカイパーベルトよりさらに外側まで続いていた可能性です。現在の観測データを見ると、カイパーベルトの外端は50天文単位辺りで突然途切れているように見えています。
もし、この外端が原始太陽系星雲の外端に相当するなら、太陽系の惑星系円盤はとてもコンパクトな状態で生まれたことになります。
一方、カイパーベルトの外端がその外側の天体(惑星)の影響を受け、その後の進化の過程で切り取られてしまった可能性も考えられます。
これが本当なら、カイパーベルトのさらに遠方を観測すれば、円盤を切り取った天体や、もしかしたら第2のカイパーベルトが見つかる可能性もあります。
このように太陽系外縁部にある天体を見つけ、その分布を調べることは、太陽系の進化を知ることにも繋がります。
探査機“ニューホライズンズ”による太陽系外縁部の調査
NASAの探査機“ニューホライズンズ”は、そんな太陽系外縁部を調査するための計画です。
2015年に冥王星系をフライバイ(※3)しながら観測した“ニューホライズンズ”は、2019年にはカイパーベルト天体の一つ“アロコス(ArroKoth)”をフライバイ。
太陽系外縁天体の表層を初めて人類に垣間見せてくれました。
※3.探査機が、惑星の近傍を通過するとき、その惑星の重力や公転運動量などを利用して、速度や方向を変える飛行方式。これにより探査機は、燃料を消費せずに軌道変更と加速や減速が行える。積極的に軌道や速度を変更する場合をスイングバイ、観測に重点が置かれる場合をフライバイと言う。
そして、アロコスへのフライバイ後に始まったのが、“ニューホライズンズ”の延長ミッションでした。“ニューホライズンズ”が今後調査するカイパーベルト天体の候補探しには、すばる望遠鏡が協力しています。
50天文単位を超える軌道長半径を持つ天体
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”を用いたカイパーベルト天体探しは、“ニューホライズンズ”が飛行する方向の二視野(満月のおよそ18個分の広さに相当する領域)に絞って行われています。
これまでに行われた約30半夜の観測で、“ニューホライズンズ”のサイエンスチーム(ミッションチーム)が見つけているのは、240個以上の太陽系外縁天体でした。
本研究では、上記の観測で取得した画像を日本の研究者を中心とするチームが、ミッションチームとは異なる手法で解析。
これにより、新たに7個の太陽系外縁天体を発見しています。
決まった視野を一定期間撮り続けた“HSC”の観測データには、JAXAが開発した移動天体検出システムを適用できました。
このシステムは普段、近地球小惑星やスペースデブリの検出に使われていたものです。
これは32枚の連続した画像を、いくつもの方向でズラして重ね合わせることで、特定の速度で移動する天体を検出するもの。
高速処理のために独自の工夫がされていました。(図2)
研究チームが、この検出システムを用いて新たに発見した7天体のうち2つについては、おおよその軌道が求められ、国際天文学連合の小惑星センター(MPC)から仮符号が与えられています。(※4)
※4.仮符号がついた天体が、その後何度も観測されて、軌道が正確に決まると確定番号が付く。すると発見者(この場合は研究チーム)に天体の命名権が与えられる。天体の命名については国際天文学連合の定める決まりがあり、太陽系外縁天体の場合は神話にちなんだ名前が付けられる。
このため、カイパーベルトの外縁はその辺りにあると想像されていました。
ところが、今回仮符号を与えられた2つの天体の軌道長半径は、どちらも50天文単位を超えています。
ただ、これらの天体の軌道要素は、将来的に観測が蓄積するにつれて多少の変動ががあるかもしれません。
それでも、今後も似たような軌道を持つ天体が発見され続ければ、カイパーベルトはさらに先まで続いていると言えるかもしれません。(※5)
※5.ミッションチームが発見した天体の軌道分布や探査機のダストカウンターの測定値からも、カイパーベルトがさらに広がっている可能性が示されている。ミッションチームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC”を用いた観測を継続予定。
すばる望遠鏡と今もなお太陽系外縁部を飛行する“ニューホライズンズ”の協力により、まだ人類の目が未到である太陽系の深縁部へ探査の歩みが進むことが期待されます。こちらの記事もどうぞ
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