銀河全体の恒星の数や質量などを正確に測定するには、暗くて見えにくい恒星の集団も見つける必要があります。
このような恒星の集団の多くは、本体の銀河を中心に公転している“伴銀河”の中に存在しています。
今回の研究では、紫外近赤外光学北方サーベイ(UNIONS; Ultraviolet Near Infrared Optical Northern Survey)のデータから、天の川銀河の伴銀河“おおぐま座矮小銀河III”を発見しています。
分かってきた“おおぐま座矮小銀河III”の明るさは絶対等級で2.2等級。
これは知られている中で最も暗い天の川銀河の伴銀河になるようです。
天の川銀河の周囲を公転するたくさんの銀河
銀河というと、多数の恒星が属する1つの集団を思い浮かべますよね。
でも、実際の銀河の周囲には、大小2つのマゼラン雲のように、銀河本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在しています。
このような恒星の集団は伴銀河(衛星銀河ともいう)と呼ばれ、重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河になります。
サイズが小さいことから、伴銀河のほとんどは矮小銀河に分類されます。
伴銀河の1つ1つは、本体の銀河と比べると質量も恒星の数も少ない矮小銀河です。
でも、伴銀河の数はたくさんあるので、それらを合計した場合の影響をを無視することはできないんですねー
これまでに天の川銀河で見つかっている伴銀河の数は50個以上もあります。
ただ、その数は理論的な予想よりも一桁以上少なく、またその空間分布は等方的ではなく偏りがありました。
一方、伴銀河の問題が普遍的なものなのか、それとも天の川銀河に特有の問題なのかは明らかになっていません。
なので、この問題を明らかにするには、天の川銀河の伴銀河をたくさん調べることが重要といえます。
でも、伴銀河の1つ1つは暗いうえに、明るい銀河のすぐ近くにあるので観測は困難になります。
知られている中で最も暗い伴銀河を発見
今回の研究では、北半球の掃天観測データをまとめた“UNIONS”のデータを分析しています。
“UNIONS”は、“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”と“パンスターズ(Pan-STARRS)”といった、アメリカのハワイ州に設置された望遠鏡のデータをまとめていて、主に天の川銀河の構造を調査する目的で使用されています。
研究では、おおぐま座の方向に恒星が密集したエリアを発見。
ただ、これが真に重力的に結合した恒星の集団なのか、それともたまたま見た目の恒星密度が高いだけなのかが分かりませんでした。
そこで、同じくハワイ州に設置された“W・M・ケック天文台”の望遠鏡やヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データから、恒星の運動方向や速度を推定。
その結果、恒星の運動方向や速度が一致していることが分かり、これが真に重力的に結合した恒星の集団であることが明らかになりました。
この恒星の集団は、おおぐま座の方向で発見された3番目の矮小銀河なので“おおぐま座矮小銀河III”と命名され、またUNIONSのデータから発見された初めての伴銀河ということもあり“UNIONS 1”とも呼ばれています。
“おおぐま座矮小銀河III”は非常に小さな伴銀河であり、直径は約20光年(全体の明るさの50%の範囲)、恒星の数はわずか50~60個程度(57 +21 -19個)、総質量は太陽の約16倍と推定されています。
このため、“おおぐま座矮小銀河III”の絶対等級は2.2等級となり、知られている中で最も暗い伴銀河になります。
太陽から“おおぐま座矮小銀河III”までの距離は約3万3000光年と推定されているので、見かけの等級は17.2等級と極めて暗い天体ということになります。
“おおぐま座矮小銀河III”が公転しているのは、天の川銀河の中心から最も近いときで約4万2000光年、最も遠いときで約8万5000光年離れた楕円軌道。
中心から約5万5000光年の位置で銀河円盤を通過していると推定されています。
また、“おおぐま座矮小銀河III”は形成から少なくとも110億年経っていて、所属する恒星は金属量(重い元素)が少ないと推定されます。
この性質は、“おおぐま座矮小銀河III”が天の川銀河の外側を薄く広く取り巻く“ハロー”を起源とすることを示唆しています。
“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれている
“おおぐま座矮小銀河III”のような見えにくい矮小銀河の発見は、見えない物質である暗黒物質“ダークマター”の量を推定する研究にも制約を課します。
暗黒物質は、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる正体不明の物質です。
研究チームによる別の論文では、“おおぐま座矮小銀河III”に暗黒物質が無いとすると、天の川銀河からの潮汐力で分解されてしまうので、わずか4億年程度で消えてしまうと推定していました。
この推定は、少なくとも110億年という“おおぐま座矮小銀河III”の推定年齢とは大幅にズレているものです。
このことから、“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれていることになります。
暗黒物質は今でも正体不明の謎の物質です。
でも、候補の1つとして、非常に重い粒子でできているという可能性が考えられています。
その場合、その粒子の崩壊によるガンマ線が放出されている可能性があります。
そこで、ストックホルム大学のMilena CrnogorčevićさんとTim Lindenさんの研究チームは、NASAのガンマ線天文衛星“フェルミ”による15年分のデータを調査。
そのような重い粒子の崩壊で生じたガンマ線が無いかを調べています。
調査の結果、過剰なガンマ線放射は見つからず…
このデータが示唆していたのは、暗黒物質の正体が運動エネルギーが高く、かつ重い粒子であるとしても(熱いWINP)、粒子の質量は1~4TeV(1~4兆電子ボルト/1~7×10のマイナス24乗kg)ではないことでした。
これは暗黒物質の正体を探る上で、候補を除外するデータの1つになります。
“おおぐま座矮小銀河III”は発見されたばかりの伴銀河です。
このため、発見報告やそれを元にした研究のいずれの論文も査読前のプレプリントの状態です。
“おおぐま座矮小銀河III”に関する各種データが正しいかどうかを確かめたり、より精度の高いデータを取得するには、さらなる追加観測が必要になりますね。
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このような恒星の集団の多くは、本体の銀河を中心に公転している“伴銀河”の中に存在しています。
今回の研究では、紫外近赤外光学北方サーベイ(UNIONS; Ultraviolet Near Infrared Optical Northern Survey)のデータから、天の川銀河の伴銀河“おおぐま座矮小銀河III”を発見しています。
分かってきた“おおぐま座矮小銀河III”の明るさは絶対等級で2.2等級。
これは知られている中で最も暗い天の川銀河の伴銀河になるようです。
この研究は、ビクトリア大学のSimon E. T. Smithさんたちの研究チームが進めています。
図1.“おおぐま座矮小銀河III”を中心とした恒星の分布図。点線の楕円は、全体の明るさの50%で定義される銀河の半径の2倍、4倍、6倍の範囲を示している。“おおぐま座矮小銀河III”は、一番小さな楕円の範囲内、青い点が密集しているエリアになる。(Credit: Simon E. T. Smith, et al.) |
天の川銀河の周囲を公転するたくさんの銀河
銀河というと、多数の恒星が属する1つの集団を思い浮かべますよね。
でも、実際の銀河の周囲には、大小2つのマゼラン雲のように、銀河本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在しています。
このような恒星の集団は伴銀河(衛星銀河ともいう)と呼ばれ、重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河になります。
サイズが小さいことから、伴銀河のほとんどは矮小銀河に分類されます。
伴銀河の1つ1つは、本体の銀河と比べると質量も恒星の数も少ない矮小銀河です。
でも、伴銀河の数はたくさんあるので、それらを合計した場合の影響をを無視することはできないんですねー
これまでに天の川銀河で見つかっている伴銀河の数は50個以上もあります。
ただ、その数は理論的な予想よりも一桁以上少なく、またその空間分布は等方的ではなく偏りがありました。
一方、伴銀河の問題が普遍的なものなのか、それとも天の川銀河に特有の問題なのかは明らかになっていません。
なので、この問題を明らかにするには、天の川銀河の伴銀河をたくさん調べることが重要といえます。
でも、伴銀河の1つ1つは暗いうえに、明るい銀河のすぐ近くにあるので観測は困難になります。
知られている中で最も暗い伴銀河を発見
今回の研究では、北半球の掃天観測データをまとめた“UNIONS”のデータを分析しています。
“UNIONS”は、“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”と“パンスターズ(Pan-STARRS)”といった、アメリカのハワイ州に設置された望遠鏡のデータをまとめていて、主に天の川銀河の構造を調査する目的で使用されています。
研究では、おおぐま座の方向に恒星が密集したエリアを発見。
ただ、これが真に重力的に結合した恒星の集団なのか、それともたまたま見た目の恒星密度が高いだけなのかが分かりませんでした。
そこで、同じくハワイ州に設置された“W・M・ケック天文台”の望遠鏡やヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データから、恒星の運動方向や速度を推定。
その結果、恒星の運動方向や速度が一致していることが分かり、これが真に重力的に結合した恒星の集団であることが明らかになりました。
図2.スローン・デジタル・スカイサーベイの画像における“おおぐま座矮小銀河III”の位置。この画像の通り視覚的に分かるような存在ではなかったので、恒星の運動方向など別の手段を使うことで恒星の集団を見つけることができた。(Credit: SDSS) |
“おおぐま座矮小銀河III”は非常に小さな伴銀河であり、直径は約20光年(全体の明るさの50%の範囲)、恒星の数はわずか50~60個程度(57 +21 -19個)、総質量は太陽の約16倍と推定されています。
このため、“おおぐま座矮小銀河III”の絶対等級は2.2等級となり、知られている中で最も暗い伴銀河になります。
太陽から“おおぐま座矮小銀河III”までの距離は約3万3000光年と推定されているので、見かけの等級は17.2等級と極めて暗い天体ということになります。
“おおぐま座矮小銀河III”が公転しているのは、天の川銀河の中心から最も近いときで約4万2000光年、最も遠いときで約8万5000光年離れた楕円軌道。
中心から約5万5000光年の位置で銀河円盤を通過していると推定されています。
また、“おおぐま座矮小銀河III”は形成から少なくとも110億年経っていて、所属する恒星は金属量(重い元素)が少ないと推定されます。
この性質は、“おおぐま座矮小銀河III”が天の川銀河の外側を薄く広く取り巻く“ハロー”を起源とすることを示唆しています。
“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれている
“おおぐま座矮小銀河III”のような見えにくい矮小銀河の発見は、見えない物質である暗黒物質“ダークマター”の量を推定する研究にも制約を課します。
暗黒物質は、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる正体不明の物質です。
研究チームによる別の論文では、“おおぐま座矮小銀河III”に暗黒物質が無いとすると、天の川銀河からの潮汐力で分解されてしまうので、わずか4億年程度で消えてしまうと推定していました。
この推定は、少なくとも110億年という“おおぐま座矮小銀河III”の推定年齢とは大幅にズレているものです。
このことから、“おおぐま座矮小銀河III”には大量の暗黒物質が含まれていることになります。
暗黒物質は今でも正体不明の謎の物質です。
でも、候補の1つとして、非常に重い粒子でできているという可能性が考えられています。
その場合、その粒子の崩壊によるガンマ線が放出されている可能性があります。
そこで、ストックホルム大学のMilena CrnogorčevićさんとTim Lindenさんの研究チームは、NASAのガンマ線天文衛星“フェルミ”による15年分のデータを調査。
そのような重い粒子の崩壊で生じたガンマ線が無いかを調べています。
調査の結果、過剰なガンマ線放射は見つからず…
このデータが示唆していたのは、暗黒物質の正体が運動エネルギーが高く、かつ重い粒子であるとしても(熱いWINP)、粒子の質量は1~4TeV(1~4兆電子ボルト/1~7×10のマイナス24乗kg)ではないことでした。
これは暗黒物質の正体を探る上で、候補を除外するデータの1つになります。
“おおぐま座矮小銀河III”は発見されたばかりの伴銀河です。
このため、発見報告やそれを元にした研究のいずれの論文も査読前のプレプリントの状態です。
“おおぐま座矮小銀河III”に関する各種データが正しいかどうかを確かめたり、より精度の高いデータを取得するには、さらなる追加観測が必要になりますね。
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