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“JADES-GS-z14-0”が観測史上最も遠い銀河の記録を更新! 初期の宇宙では恒星の誕生や銀河の進化は想像以上に速かった

2024年06月17日 | 銀河・銀河団
宇宙に無数に存在する銀河は、いつ誕生したのでしょうか?

このことは、よく分かっていないんですねー
ただ、初期の宇宙に存在する銀河の数や大きさは、宇宙がどのように誕生したのかを探る上での基礎的な情報となります。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測によって、観測史上最も遠い銀河“JADES-GS-z14‐0”と、2番目に遠い銀河“JADES-GS-z14-1”を発見したことを報告しています。

特に、“JADES-GS-z14‐0”は、その距離にもかかわらず非常に明るい銀河なので、宇宙における銀河の形成過程を見直す必要があるのかもしれません。
この研究は、ピサ高等師範学校のStefano Carnianiさんを筆頭とする国際研究チームが進めています。
本研究の内容は、特定の科学誌に論文が掲載される前のプレプリントに基づいているので、正式な論文が投稿された場合、掲載内容と論文とにズレが生じる可能性があります。
図1.拡大領域の赤い部分が銀河“JADES-GS-z14‐0”。左上に無関係な銀河が重なって見えていることが分析を困難にした。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、Brant Robertson(UC Santa Cruz)、Ben Johnson(CfA)、Sandro Tacchella(Cambridge)& Phill Cargile(CfA))
図1.拡大領域の赤い部分が銀河“JADES-GS-z14‐0”。左上に無関係な銀河が重なって見えていることが分析を困難にした。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、Brant Robertson(UC Santa Cruz)、Ben Johnson(CfA)、Sandro Tacchella(Cambridge)& Phill Cargile(CfA))


赤外線で初期の銀河を観測する

現在の宇宙には恒星が無数に存在していて、その恒星が集団となった銀河もまた無数に存在しています。

銀河は、物質が高密度に集合して恒星が多数誕生する現場となっています。
また、寿命を迎えた恒星からは重元素が拡散することから、銀河は惑星や生命の誕生にも間接的ながら重要な役割を果たしていると言えます。

では、銀河は宇宙誕生後、どの段階で誕生し進化したのでしょうか?

銀河がどのように形成されて進化してきたのかを探るには、初期の銀河を探ることが重要となります。
でも、初期の銀河からの光は非常に暗い上に、宇宙の膨張により遠方銀河からの光ほど赤方偏移(※1)するため、発した時は可視光線であっても地球に届くまでに赤外線にまで波長が引き伸ばされてしまいます。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
そのため、“初期銀河”のようなビッグバンから数億年後に誕生したと予測される銀河を観測するには、赤外線での観測が必須となるんですねー

そこに登場したのが、NASAが中心となって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用の“ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡”です。

2022年に本格的な運用を開始したジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により、遠方宇宙においてこれまでの望遠鏡と比べて10倍から1000倍も高い感度での観測が可能になり、個別の遠方銀河の性質を詳細に調べることが可能になりました。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された非常に遠い銀河の候補。右側に行くほど遠い位置にあることを示している。ただ、きちんと距離が分析されたのは赤い点のみ。残りの青い点は候補で、この先の研究で距離が変更される可能性がある。(Credit: Stefano Carniani, et al.)
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で観測された非常に遠い銀河の候補。右側に行くほど遠い位置にあることを示している。ただ、きちんと距離が分析されたのは赤い点のみ。残りの青い点は候補で、この先の研究で距離が変更される可能性がある。(Credit: Stefano Carniani, et al.)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、観測開始の初年度に宇宙誕生から約6億5000万年以内の時代に存在したと見られている銀河を数百個発見しています。

その中には、今回の研究成果が発表されるまで観測史上最も遠い銀河だった“JADES-GS-z13‐0”も含まれていました。

ただ、赤方偏移の強い銀河であるように見えても、実際にはもっと近い距離にある天体を誤認している可能性もあります。
距離が正しいかどうかは、赤方偏移以外の性質を詳細に調べる必要があり、大幅に間違った推定をしていたことが、その作業の過程で発覚した天体もありました。

例えば、“CEERS-93316”という天体は、2022年7月の発見当初は観測史上最も遠い天体として発表されています。
でも、2023年5月になって、実際にはその後の作業過程でずっと近い天体だと発表されています。


観測史上最も遠い銀河の記録を更新

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測プログラムの一つ“JADES(JWST Advanced Deep Extragalactic Survey)”では、“JADES-GS-z13‐0”を含め、非常に遠方にあると思われる銀河が複数見つかっています。

その中に含まれていたのは、“JADES-GS-z13‐0”の赤方偏移の値13.20を上回る、14以上と推定された3個の天体。
これらの天体は、いずれも2022年にジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線カメラ“NIRCam”と近赤外線分光装置“NIRSpec”を用いて得られた観測データを元に推定されていました。

この3個の天体は、単純に考えれば観測史上最も遠い銀河の記録を更新することになります。

でも、この記録は確定的では無かったんですねー
特に、3個の中で最も遠いかもしれない銀河の候補は、より近い距離にあると推定される別の銀河が部分的に重なっていたので、慎重な分析が必要とされたからです。

2023年10月には、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“NIRSpec”と中間赤外線観測装置“MIRI”を使用して観測を実施。
別の銀河が重なっている候補を含む3個とも、実際に遠方の天体である可能性が高まったものの、まだ決定的ではありませんでした。


赤方偏移の値が14を超える2つの銀河

今回の研究では、2024年1月に実施した“NIRSpec”による合計10時間の追加観測で得られたデータと、過去の観測データを組み合わせて分析を行い、決定的な答えを得ています。

まず、3個のうち1個の天体は、詳しい分析を行うのに必要なデータの一部が不完全なことで、分析から除外されることになります。
次に、残りの2個は分析を行えるだけのデータが揃っていたので、暫定的に“JADES-GS-z14‐0”および“JADES-GS-z14-1”と名付けられました。(※2)
※2.この暫定名が付けられるまで、“JADES-GS-z14‐0”には“JADES-GS-53.08294-27.85563”、“JADES-GS-z14‐1”にはJADES-GS-53.07427‐27.88592“”というIDが付与されていた。後ろの長い数字の部分は、天球における座標を表している。
詳しい分析で分かってきたのは、それぞれの赤方偏移の値が“JADES-GS-z14‐0”は約14.32、“JADES-GS-z14‐1”は約13.90ということ。
このことから、“JADES-GS-z14‐0”は地球から約338.1億光年彼方に位置する135.0憶年前の宇宙に存在、“JADES-GS-z14‐1”は地球から約336.2億光年彼方に位置する134.9憶年前の宇宙に存在、で間違いないという結論が得られています。

これらの値は、これまで最遠記録となっていた“JADES-GS-z13‐0”(地球から約333.0億光年彼方に位置する134.7憶年前の宇宙に存在)を上回るもの。
このため、観測史上最遠の銀河は“JADES-GS-z14‐0”、2番目は“JADES-GS-z14‐1”となりました。
図3.“JADES-GS-z14‐0”の赤外線スペクトル(光の波長ごとの強度分布)。赤い線は水素から発せられる放射で、赤方偏移による波長のズレから距離が推定できる。(Credit: NASA、ESA、CSA & Joseph Olmsted(STScI))
図3.“JADES-GS-z14‐0”の赤外線スペクトル(光の波長ごとの強度分布)。赤い線は水素から発せられる放射で、赤方偏移による波長のズレから距離が推定できる。(Credit: NASA、ESA、CSA & Joseph Olmsted(STScI))


恒星の誕生や銀河の進化は想像以上に速かった

この2つの銀河のうち、特に注目されるのは観測史上最も遠い銀河となった“JADES-GS-z14‐0”でした。

まず、“JADES-GS-z14‐0”で注目されるのは、その大きさです。
“JADES-GS-z14‐0”の直径は、現在の宇宙における銀河と比べれば、かなり小ぶりな約1700光年(260±20パーセク)。
でも、この大きさは、宇宙誕生からわずか約2億9000万年後に存在した銀河としては、驚異的なものになるんですねー

また、“JADES-GS-z14‐0”はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の“MIRI”による2023年10月の観測でもとらえられていて、赤方偏移によって引き伸ばされた可視光線領域のスペクトルを復元することに成功しています。

その結果、“JADES-GS-z14‐0”には水素と酸素の電離したガスが存在することが示されました。
宇宙誕生直後から存在する水素はともかく、恒星の内部での核融合反応でしか生成されない酸素が、恒星から離脱した状態で大量に存在するというのは驚くべき発見でした。

恒星内部の核融合反応で生成された酸素などの重元素(※3)は、恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくので、宇宙の重元素量は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。
※3.水素とヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼ぶ。重元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で生成され、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されると考えられている。
なので、大量の酸素の存在は、約2億9000万年後の宇宙では、いくつかの恒星がすでに寿命を終え世代交代が進んでいることを意味し、恒星内部の核融合反応で生成された重元素がばら撒かれることで、豊富に存在するということです。

“JADES-GS-z14‐0”の大きさと酸素の存在は、これまでの推定よりも恒星の誕生や銀河の進化が速かったことを示しています。

また、非常に良く似た銀河である“JADES-GS-z14‐1”が見つかっていることを考えると、宇宙誕生から約3億年後の宇宙には、これまでの推定の10倍以上もの銀河が存在したようです。
これらは、これまでの理論モデルやシミュレーションでは全く説明がつかないことです。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測は、これから10年かけて様々なものが予定されています。
特に、初期宇宙の観測に関しては、他の望遠鏡が何年もかけて行ってきた観測を、わずか数時間で終わらせるほどの性能を誇っているんですねー
なので、今後数年かけて“JADES-GS-z14‐0”のような銀河を多数観測すれば、初期宇宙の見方を完全に書き換えてくれるはずです。
そして、“観測史上最も遠い銀河”の座は、今後何度も更新されていくのでしょうね。


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