ハワイ大学の天文学者Duncan Farrahさんを中心とする研究チームは、ブラックホールと暗黒エネルギー(ダークエネルギー)を結び付ける初の観測的証拠が得られたとする研究成果を発表しました。
今回の成果は、まだ検証されるべき仮説の段階のもの。
でも、ブラックホールが暗黒エネルギーの源になっている可能性を示すものです。
ひょっとすると、ブラックホールの存在を再定義することになるのかもしれません。
私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。
さらに、おとめ座の方向約5500万光年の彼方に位置する楕円銀河“M87”の中心には、太陽の約65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。
このような超大質量ブラックホールは、どのようにして成長してきたのでしょうか?
天文学者は長年この謎に取り組んできましたが、まだよく理解されていないんですねー
ブラックホールが成長する(質量を増やす)には、接近した星やガスなどの物質を取り込む必要があります。
ただ、物質を取り込んで成長するペースには限界(エディントン限界)があります。
それでは、ブラックホールの成長を周囲からの物質の取り込みだけで説明できるのでしょうか?
このことを検証するため、研究チームは近年活動していない楕円銀河に着目して観測と分析を行っています。
天の川銀河やアンドロメダ銀河といった渦巻銀河には、星の材料となるガスが存在していて、新たな世代の星を生み出す星形成活動が起きています。
一方、古い星々が目立つ楕円銀河には、ガスがほとんど残っておらず、星形成活動は早い段階で止まってしまったと考えられています。
ブラックホールが成長するうえで物質を取り込む必要があるとすれば、ガスを失った楕円銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールの成長も、やはり早い段階で止まっているはずです。
そこで研究チームでは、古い時代に存在していた若い銀河と現在の楕円銀河の観測データを分析。
すると、超大質量ブラックホールの質量は90億年間で7~20倍に増えていたことが分かってきました。
ただ、この成長率は、物質の取り込みによる質量の増加や、ブラックホール同士の合体などでは説明できないもの。
そう、この結果は、ブラックホールが物質を取り込むこと以外の方法で成長してきた可能性があることを示していました。
そこで、研究チームが検証を進めたのは、ブラックホールの成長を“宇宙論的カップリング(Cosmological Coupling)”だけで説明できるかどうかでした。
宇宙論的カップリングはアルベルト・アインシュタインの重力理論をもとに新たに予測されていた現象。
特異点が存在しない代わりに、真空のエネルギー“Vacuum Energy”を内包するブラックホールと、膨張する宇宙が結びつくことで成り立つと考えられています。
宇宙が膨張するとブラックホールに内包されている真空のエネルギーが増加、それによりブラックホールの質量が増加することになります。
また、宇宙論的カップリングのもとでブラックホールの質量がどれくらい増加するのかは、膨張する宇宙とブラックホールの結びつきの強さに左右されるようです。
宇宙の大きさが現在の“2分の1”と“3分の1”だった時代の楕円銀河に存在していた超大質量ブラックホールに関するデータを、研究チームが分析した結果、結びつきの強さを示す変数“k”(宇宙論的カップリングにおけるブラックホールの質量増加を示すモデルに含まれる)の値は、ほぼ“3”であることが示されました。
この“k=3”という値は、今回の研究にも参加しているハワイ大学のKevin Crokerさん(当時は同大学の大学院生)とJoel Weiner教授が2019年に発表した研究成果でも予測されていて、宇宙最初の世代の星を起源とするブラックホールに内包されている真空のエネルギーの合計と、現在測定されている暗黒エネルギーの値が一致することを示していたようです。
真空のエネルギーの合計については、初期の宇宙で誕生したブラックホールの数をなるべく正確に推定するために、研究チームはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で得られた最初期の宇宙の星形成率に関する最新の測定値も利用。
数値がそろっていることを研究チームで確認しています。
宇宙の加速膨張をもたらしていると考えられている暗黒エネルギーについては、宇宙の約7割を占める成分だとされていますが、その正体はわかっていません。
暗黒エネルギーの有力な候補の一つが、アインシュタインの提唱した宇宙定数であり、宇宙定数は真空のエネルギー密度の絶対値を意味します。
今回の研究成果は、超大質量ブラックホールの成長に関する謎を解決するもの。
同時に、真空のエネルギーを内包するブラックホールが暗黒エネルギーの天体物理学的な供給源であり、なおかつブラックホールの中心に物理法則の適用できない特異点が存在しない可能性を示したことになります。
もし、今回の研究が示した理論が成り立つなら、宇宙論全体に革命を起こすことになるはず。
現在の宇宙が加速していることを説明する今回の測定データは、アインシュタインの重力理論の底力を垣間見せてくれました。
ただ、今回の研究成果はまだ仮説の段階。
検証には数年を要する可能性もあります。
果たして、人類はブラックホールや暗黒エネルギーの謎を解き明かす糸口をつかんだのでしょうか。
その答えが得られるのは、もう少し持つ必要がありそうですね。
こちらの記事もどうぞ
今回の成果は、まだ検証されるべき仮説の段階のもの。
でも、ブラックホールが暗黒エネルギーの源になっている可能性を示すものです。
ひょっとすると、ブラックホールの存在を再定義することになるのかもしれません。
超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech) |
ブラックホールは物質を取り込むこと以外の方法でも成長している
ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。
さらに、おとめ座の方向約5500万光年の彼方に位置する楕円銀河“M87”の中心には、太陽の約65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。
従来の説に基づいてブラックホールとその周辺を解説した図。(Credit: ESO, ESA/Hubble, M. Kornmesser/N. Bartmann) |
天文学者は長年この謎に取り組んできましたが、まだよく理解されていないんですねー
ブラックホールが成長する(質量を増やす)には、接近した星やガスなどの物質を取り込む必要があります。
ただ、物質を取り込んで成長するペースには限界(エディントン限界)があります。
“エディントン限界”とは、外側の放射圧と内側への重力とが釣り合う最大光度。天体の光度がある値を超えると光の圧力が重力を上回り、ガスが天体に落ちることができなくなる。
近年では、ビッグバンから10億年と経たない初期の宇宙にも、質量が太陽の数億~十数億倍もある超大質量ブラックホールが存在していたことを示す観測結果が得られていて、世界中の天文学者たちはブラックホールが急成長を遂げた理由の解明に取り組んでいます。それでは、ブラックホールの成長を周囲からの物質の取り込みだけで説明できるのでしょうか?
このことを検証するため、研究チームは近年活動していない楕円銀河に着目して観測と分析を行っています。
天の川銀河やアンドロメダ銀河といった渦巻銀河には、星の材料となるガスが存在していて、新たな世代の星を生み出す星形成活動が起きています。
一方、古い星々が目立つ楕円銀河には、ガスがほとんど残っておらず、星形成活動は早い段階で止まってしまったと考えられています。
ブラックホールが成長するうえで物質を取り込む必要があるとすれば、ガスを失った楕円銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールの成長も、やはり早い段階で止まっているはずです。
そこで研究チームでは、古い時代に存在していた若い銀河と現在の楕円銀河の観測データを分析。
すると、超大質量ブラックホールの質量は90億年間で7~20倍に増えていたことが分かってきました。
ただ、この成長率は、物質の取り込みによる質量の増加や、ブラックホール同士の合体などでは説明できないもの。
そう、この結果は、ブラックホールが物質を取り込むこと以外の方法で成長してきた可能性があることを示していました。
宇宙の膨張にあわせてブラックホールの質量も増えた可能性
おとめ座の方向約5000万光年彼方の楕円銀河“M59”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, P. Cote) |
宇宙論的カップリングはアルベルト・アインシュタインの重力理論をもとに新たに予測されていた現象。
特異点が存在しない代わりに、真空のエネルギー“Vacuum Energy”を内包するブラックホールと、膨張する宇宙が結びつくことで成り立つと考えられています。
宇宙が膨張するとブラックホールに内包されている真空のエネルギーが増加、それによりブラックホールの質量が増加することになります。
E=mc2(E:エネルギー、m:質量、c:光速)、すなわちエネルギーと質量は比例関係にあるため。
様々な時代に存在していた銀河を分析した結果、ブラックホールの成長は宇宙論的カップリングに基づく予測通りで、ブラックホールの質量と宇宙の大きさはよく一致する関係にあることが示されたそうです。また、宇宙論的カップリングのもとでブラックホールの質量がどれくらい増加するのかは、膨張する宇宙とブラックホールの結びつきの強さに左右されるようです。
宇宙の大きさが現在の“2分の1”と“3分の1”だった時代の楕円銀河に存在していた超大質量ブラックホールに関するデータを、研究チームが分析した結果、結びつきの強さを示す変数“k”(宇宙論的カップリングにおけるブラックホールの質量増加を示すモデルに含まれる)の値は、ほぼ“3”であることが示されました。
この“k=3”という値は、今回の研究にも参加しているハワイ大学のKevin Crokerさん(当時は同大学の大学院生)とJoel Weiner教授が2019年に発表した研究成果でも予測されていて、宇宙最初の世代の星を起源とするブラックホールに内包されている真空のエネルギーの合計と、現在測定されている暗黒エネルギーの値が一致することを示していたようです。
真空のエネルギーの合計については、初期の宇宙で誕生したブラックホールの数をなるべく正確に推定するために、研究チームはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で得られた最初期の宇宙の星形成率に関する最新の測定値も利用。
数値がそろっていることを研究チームで確認しています。
宇宙の加速膨張をもたらしていると考えられている暗黒エネルギーについては、宇宙の約7割を占める成分だとされていますが、その正体はわかっていません。
暗黒エネルギーの有力な候補の一つが、アインシュタインの提唱した宇宙定数であり、宇宙定数は真空のエネルギー密度の絶対値を意味します。
今回の研究成果は、超大質量ブラックホールの成長に関する謎を解決するもの。
同時に、真空のエネルギーを内包するブラックホールが暗黒エネルギーの天体物理学的な供給源であり、なおかつブラックホールの中心に物理法則の適用できない特異点が存在しない可能性を示したことになります。
もし、今回の研究が示した理論が成り立つなら、宇宙論全体に革命を起こすことになるはず。
現在の宇宙が加速していることを説明する今回の測定データは、アインシュタインの重力理論の底力を垣間見せてくれました。
ただ、今回の研究成果はまだ仮説の段階。
検証には数年を要する可能性もあります。
果たして、人類はブラックホールや暗黒エネルギーの謎を解き明かす糸口をつかんだのでしょうか。
その答えが得られるのは、もう少し持つ必要がありそうですね。
電波でとらえた天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*”。(Credit: EHT Collaboration) |
こちらの記事もどうぞ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます