史上初めて発見された恒星間彗星“ボリソフ彗星”。
アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の観測データから、“ボリソフ彗星”は太陽系の彗星と比べると一酸化炭素の量が非常に多いことが明らかになりました。
このことから“ボリソフ彗星”が生まれたのは、太陽系よりもはるかに寒い環境ということが分かってくるようです。
太陽系外で起こった惑星形成の情報
2019年8月、観測史上2例目の恒星間天体“ボリソフ彗星(2I/Borisov)”が発見されました。
恒星間天体とは、星間空間に存在して恒星などの天体に重力的に束縛されていない恒星以外の天体。特定の小惑星や彗星など、恒星間の軌道を持つが一時的に恒星の付近を通過している天体に対しても恒星間天体と呼ばれる。
周囲に噴き出したガスとチリが観測されたことで、“ボリソフ彗星”は彗星だと判明。
史上初の恒星間天体“オウムアムア”が、彗星なのか小惑星なのか、別の種類の天体なのかさえ判らなかったのとは対照的なことでした。
史上初の恒星間天体“オウムアムア”が発見されたのは2017年の10月。このとき“オウムアムア”は、すでに太陽から遠ざかりつつあり、詳しい観測ができなかった。
彗星は恒星から離れた低温の環境で長い時間を過ごす天体です。
誕生した時から内部が大きく変化していないと考えられているので、惑星が誕生した時の環境を冷凍保存した天体として注目されています。
発見から約3か月後の2019年12月8日に太陽に最接近した“ボリソフ彗星”は、別の恒星における惑星形成の情報を、私たちの手近なところへ届けるというという非常に貴重な機会を提供してくれることになります。
大量にあった一酸化炭素
この“ボリソフ彗星”の組成を詳細に調べるのに用いられたのはアルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡でした。
アルマ望遠鏡ではNASAゴダード宇宙飛行センターの研究チームによって、2019年12月15日と16日に観測を実施。
“ボリソフ彗星”から噴き出したガスから、水分子に対する一酸化炭素とシアン化水素の含有量が調べられます。
そして、これらの物質の量と、別の研究によって見積もられていた彗星から噴き出す水分子の量とを合わせた解析を行っています。
その結果分かったのは、“ボリソフ彗星”に含まれる一酸化炭素の量がかなり大量であること。
太陽から約3億キロ以内で測定された、太陽系の一般的な彗星の9~26倍もありました。
一方、シアン化水素の割合は太陽系の彗星と同程度でした。
ハッブル宇宙望遠鏡ではアメリカ・オーバーン大学の研究チームが、2019年11月から2020年1月にかけて4回“ボリソフ彗星”を観測。
彗星の核から放出された一酸化炭素を調べています。
その結果、一酸化炭素、水素、水を含む様々な混合物が太陽の熱によって昇華され、“ボリソフ彗星”の化学組成が短時間で変化することを確認。
“ボリソフ彗星”のコマ(核の周りのガス)には、少なくとも水蒸気の50%の一酸化炭素が含まれていました。
この値は太陽系の一般的な彗星の3倍以上…
これまでの観測では、核内部に一酸化炭素の氷が閉じ込められていたので分かっていなかったんですねー
それが、彗星が太陽に近づき水の氷が昇華したおかげで、一酸化炭素の量が明らかになったというわけです。
一酸化炭素の量が異なる理由
星間空間で最もありふれた分子の一つが一酸化炭素です。
太陽系の多くの彗星でも検出されていますが、その量には大きなばらつきがあります。
理由は明らかになっていませんが、彗星が太陽系のどこで作られたかに依存するのかもしれません。
あるいは、彗星が太陽に近づくと揮発性の高い物質から失われていくので、彗星がどれくらいの頻度で太陽に近づくかによっても一酸化炭素の量が異なる可能性があります。
水の氷は太陽から3億キロの距離まで昇華しません。
でも、一酸化炭素の氷は非常に揮発性が高く、太陽から約180億キロ離れた場所でも昇華します。
そのため、一般的な太陽系の彗星では、太陽から3億キロ以内に近づくと一酸化炭素よりも水の方が多く表面から放出されることになります。
こうした例と異なる太陽系の彗星にはパンスターズ彗星などがあるが、ほとんど検出されていない。
どのような環境で形成されたのか
“ボリソフ彗星”が生まれた惑星系とその中心の恒星については、まだほとんど分かっていません。
太陽系の場合、多くの氷天体が存在するエッジワース・カイパーベルトが海王星の外側に広がっています。
今回の観測結果から考えられるのは、“ボリソフ彗星”は赤色矮星の周りにある炭素が豊富な星周円盤から放出された可能性があること。
赤色矮星は太陽よりも暗く軽いので、その星周円盤は太陽系よりもはるかに低温の環境になるはずです。
また、赤色矮星の周囲の一酸化炭素が氷で存在するような冷たい領域を周回する、木星サイズの大きな惑星が“ボリソフ彗星”を追い出したとも考えられます。
今回の観測結果が“ボリソフ彗星”の形成場所の環境を反映しているのであれば、太陽系の彗星とは異なるメカニズムで作られたのかもしれません。
これまで、アルマ望遠鏡で観測されてきた原始惑星系円盤の多くは、太陽のような小質量星の若い頃に見られるものでした。
その多くは、太陽系で彗星が作られたと考えられている領域よりもずっと外側まで広がっていて、非常に大量のガスとチリを含んでいます。
“ボリソフ彗星”は、こうした巨大な原始惑星系円盤で作られたのかもしれません。
ただ、一酸化炭素の量は、“ボリソフ彗星”が太陽から遠ざかっていっても予想通りに小さくなりませんでした。
太陽に近づいても生き残った一酸化炭素氷の量から考えると、“ボリソフ彗星”は太陽系よりもはるかに寒く、そして非常に異なる恒星の周りのデブリ円盤から来たのかもしれませんね。
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もう二度と太陽系の内側には戻ってこない? 恒星間天体“アウムアムア”を赤外線で観測したけど…
アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の観測データから、“ボリソフ彗星”は太陽系の彗星と比べると一酸化炭素の量が非常に多いことが明らかになりました。
このことから“ボリソフ彗星”が生まれたのは、太陽系よりもはるかに寒い環境ということが分かってくるようです。
太陽系外で起こった惑星形成の情報
2019年8月、観測史上2例目の恒星間天体“ボリソフ彗星(2I/Borisov)”が発見されました。
恒星間天体とは、星間空間に存在して恒星などの天体に重力的に束縛されていない恒星以外の天体。特定の小惑星や彗星など、恒星間の軌道を持つが一時的に恒星の付近を通過している天体に対しても恒星間天体と呼ばれる。
周囲に噴き出したガスとチリが観測されたことで、“ボリソフ彗星”は彗星だと判明。
史上初の恒星間天体“オウムアムア”が、彗星なのか小惑星なのか、別の種類の天体なのかさえ判らなかったのとは対照的なことでした。
史上初の恒星間天体“オウムアムア”が発見されたのは2017年の10月。このとき“オウムアムア”は、すでに太陽から遠ざかりつつあり、詳しい観測ができなかった。
“ボリソフ彗星”のイメージ図。本体核の大きさは1キロ程度と見積もられている。(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello) |
誕生した時から内部が大きく変化していないと考えられているので、惑星が誕生した時の環境を冷凍保存した天体として注目されています。
発見から約3か月後の2019年12月8日に太陽に最接近した“ボリソフ彗星”は、別の恒星における惑星形成の情報を、私たちの手近なところへ届けるというという非常に貴重な機会を提供してくれることになります。
大量にあった一酸化炭素
この“ボリソフ彗星”の組成を詳細に調べるのに用いられたのはアルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡でした。
アルマ望遠鏡ではNASAゴダード宇宙飛行センターの研究チームによって、2019年12月15日と16日に観測を実施。
“ボリソフ彗星”から噴き出したガスから、水分子に対する一酸化炭素とシアン化水素の含有量が調べられます。
そして、これらの物質の量と、別の研究によって見積もられていた彗星から噴き出す水分子の量とを合わせた解析を行っています。
その結果分かったのは、“ボリソフ彗星”に含まれる一酸化炭素の量がかなり大量であること。
太陽から約3億キロ以内で測定された、太陽系の一般的な彗星の9~26倍もありました。
一方、シアン化水素の割合は太陽系の彗星と同程度でした。
アルマ望遠鏡が観測した、“ボリソフ彗星”から噴き出したシアン化水素(左)と一酸化炭素(右)。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Cordiner & S. Milam; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello) |
彗星の核から放出された一酸化炭素を調べています。
その結果、一酸化炭素、水素、水を含む様々な混合物が太陽の熱によって昇華され、“ボリソフ彗星”の化学組成が短時間で変化することを確認。
“ボリソフ彗星”のコマ(核の周りのガス)には、少なくとも水蒸気の50%の一酸化炭素が含まれていました。
この値は太陽系の一般的な彗星の3倍以上…
これまでの観測では、核内部に一酸化炭素の氷が閉じ込められていたので分かっていなかったんですねー
それが、彗星が太陽に近づき水の氷が昇華したおかげで、一酸化炭素の量が明らかになったというわけです。
ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された“ボリソフ彗星”2019年12月9日から2020年2月24日に撮影された37枚の画像を合成。(Credit: NASA,ESA,K. Meech (University of Hawaii), and D. Jewitt (UCLA)) |
一酸化炭素の量が異なる理由
星間空間で最もありふれた分子の一つが一酸化炭素です。
太陽系の多くの彗星でも検出されていますが、その量には大きなばらつきがあります。
理由は明らかになっていませんが、彗星が太陽系のどこで作られたかに依存するのかもしれません。
あるいは、彗星が太陽に近づくと揮発性の高い物質から失われていくので、彗星がどれくらいの頻度で太陽に近づくかによっても一酸化炭素の量が異なる可能性があります。
水の氷は太陽から3億キロの距離まで昇華しません。
でも、一酸化炭素の氷は非常に揮発性が高く、太陽から約180億キロ離れた場所でも昇華します。
そのため、一般的な太陽系の彗星では、太陽から3億キロ以内に近づくと一酸化炭素よりも水の方が多く表面から放出されることになります。
こうした例と異なる太陽系の彗星にはパンスターズ彗星などがあるが、ほとんど検出されていない。
どのような環境で形成されたのか
“ボリソフ彗星”が生まれた惑星系とその中心の恒星については、まだほとんど分かっていません。
太陽系の場合、多くの氷天体が存在するエッジワース・カイパーベルトが海王星の外側に広がっています。
今回の観測結果から考えられるのは、“ボリソフ彗星”は赤色矮星の周りにある炭素が豊富な星周円盤から放出された可能性があること。
赤色矮星は太陽よりも暗く軽いので、その星周円盤は太陽系よりもはるかに低温の環境になるはずです。
また、赤色矮星の周囲の一酸化炭素が氷で存在するような冷たい領域を周回する、木星サイズの大きな惑星が“ボリソフ彗星”を追い出したとも考えられます。
今回の観測結果が“ボリソフ彗星”の形成場所の環境を反映しているのであれば、太陽系の彗星とは異なるメカニズムで作られたのかもしれません。
これまで、アルマ望遠鏡で観測されてきた原始惑星系円盤の多くは、太陽のような小質量星の若い頃に見られるものでした。
その多くは、太陽系で彗星が作られたと考えられている領域よりもずっと外側まで広がっていて、非常に大量のガスとチリを含んでいます。
“ボリソフ彗星”は、こうした巨大な原始惑星系円盤で作られたのかもしれません。
ただ、一酸化炭素の量は、“ボリソフ彗星”が太陽から遠ざかっていっても予想通りに小さくなりませんでした。
太陽に近づいても生き残った一酸化炭素氷の量から考えると、“ボリソフ彗星”は太陽系よりもはるかに寒く、そして非常に異なる恒星の周りのデブリ円盤から来たのかもしれませんね。
こちらの記事もどうぞ
もう二度と太陽系の内側には戻ってこない? 恒星間天体“アウムアムア”を赤外線で観測したけど…
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