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初期の宇宙に、予想以上に窒素の比率が多い銀河を発見! 天の川銀河と比較しても3倍以上の多さになるようです

2024年01月15日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、129億年~134億年までの宇宙にある3つの銀河で、炭素と酸素に対して窒素が異常に多いことを明らかにしています。

研究では、ジェーズムウェッブ宇宙望遠鏡による赤外線観測で得られた非常に高い精度のデータを詳しく解析。
すると、測定された酸素、炭素に対する窒素の存在比(※1)が、現在の太陽系はもとより、私たちの天の川銀河と比べても3倍以上になりました。
※1.ガスを構成する炭素と窒素、酸素の原子の個数の比率を意味する。
このことが意味するのは、これまで一般的に考えられていた“恒星の内部で元素が作られ超新星爆発で宇宙空間に拡散する”といった、元素の主な供給メカニズムとは異なるプロセスが初期の宇宙で起こっていること。
ビッグバン直後の宇宙に新たな謎がもたらされたことになります。
この研究は、東京大学宇宙線研究所の磯部優樹大学院生と大内正巳教授たちによる研究グループが進めています。
図1.129億年~134億年前の初期宇宙にある3つの銀河のうち、ちょうこくしつ座の方向に位置する1つの銀河“GLASS_150008”とその周りの画像。これらの画像はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で撮影された。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)
図1.129億年~134億年前の初期宇宙にある3つの銀河のうち、ちょうこくしつ座の方向に位置する1つの銀河“GLASS_150008”とその周りの画像。これらの画像はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で撮影された。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)


誕生したばかりの宇宙には軽い元素しか存在しなかった

生命に必要な炭素や窒素、酸素の元素が宇宙においてどのように作られたのかを知ることは、宇宙の物質はもとより、人類の起源を知る上でも重要なことです。

宇宙がビッグバンで誕生した138億年前には、水素やヘリウム、リチウムなどの軽い元素しか存在しなかったと考えられています。

生命を形作るタンパク質に必須な炭素と窒素、酸素については、宇宙の中で誕生した恒星内部の核融合で作られ、やがて超新星爆発などで放出されたと考えられています。

これまでの研究から、初期の宇宙で酸素が急激に増えたことが明らかになっています。
でも、炭素や窒素については、いつ頃どの元素が多く作られてきたかについて分かっていませんでした。


初期宇宙の銀河に存在する炭素、酸素、窒素の存在比

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の高感度赤外線観測データを詳細に解析。
初期の宇宙にある71個の銀河に含まれるガスの炭素、窒素、酸素などの元素の存在比を調べています。

さらに、筑波大学計算科学研究センターの矢島秀伸準教授、福島肇助教たちの研究チームによる最新の数値シミュレーション結果とも比較研究を実施しました。

高感度観測のデータでも炭素や窒素ガスが放つ光(※2)の検出は難しく、元素の存在比を測定することは困難でしたが129億年~134億年前の初期の宇宙にある3つの明るい銀河(図1と図2)で輝線が検出されました。(図3)
※2.分光観測を行うことでスペクトルを得ることができる。スペクトルは、光の波長ごとの強度分布。スペクトルに現れる吸収線や輝線を合わせた呼称がスペクトル線。個々の元素は決まった波長の光を吸収したり放出したりする性質がある。その波長での光を吸収し強度が弱まると吸収線、光を放出し強まると輝線としてスペクトルに現れる。光の波長ごとの強度分布スペクトルに現れる吸収線や輝線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
図2.129億年~134億年前の初期宇宙にある3つの銀河の画像。左からそれぞれ、“GLASS_150008(ちょうこくしつ座)”、“CEERS_01019(うしかい座)”、“GN-z11(おおぐま座)”。左側の2つの銀河はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、右の1つの銀河はハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたもの。なお、本研究でカギとなる炭素と窒素、酸素の輝線については、これら3つの銀河全てで、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で得られた。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)
図2.129億年~134億年前の初期宇宙にある3つの銀河の画像。左からそれぞれ、“GLASS_150008(ちょうこくしつ座)”、“CEERS_01019(うしかい座)”、“GN-z11(おおぐま座)”。左側の2つの銀河はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡、右の1つの銀河はハッブル宇宙望遠鏡で撮影されたもの。なお、本研究でカギとなる炭素と窒素、酸素の輝線については、これら3つの銀河全てで、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で得られた。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)
図3.図1の銀河“GLASS_150008”のガスから放たれた炭素、窒素、酸素の輝線。黒の実線とヒートマップはそれぞれ、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で得られた一次元スペクトルと2次元スペクトルを表している。黒点線で示した盛り上がっている部分(黄色)が検出された輝線に対応する。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)
図3.図1の銀河“GLASS_150008”のガスから放たれた炭素、窒素、酸素の輝線。黒の実線とヒートマップはそれぞれ、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡で得られた一次元スペクトルと2次元スペクトルを表している。黒点線で示した盛り上がっている部分(黄色)が検出された輝線に対応する。(Credit: NASA, ESA, CSA, Isobe et al.)
炭素、酸素、窒素の輝線の光度などから、酸素に対する炭素および窒素の個数を調査して分かったのは、窒素が炭素や酸素に比べて異常に多いこと。
窒素の存在比は、太陽系はもとより、私たちの天の川銀河のガスと比べても3倍以上になりました。(図4)

また、他の68個の銀河も同様に、炭素や酸素に対して窒素が多い可能性があるようです。
図4.炭素に対する窒素の存在比(N/C)と水素に対する酸素の存在比(O/H)の関係。図2の3つの銀河は赤丸で示されている。天の川銀河のガス(黒点)や超新星爆発で供給されるガス(黄色の領域)の存在比と比べてはるかに窒素が豊富であり、星の外層のガスで見られる存在比(青色の領域)に近い値になっている。(Credit: Isobe et al.)
図4.炭素に対する窒素の存在比(N/C)と水素に対する酸素の存在比(O/H)の関係。図2の3つの銀河は赤丸で示されている。天の川銀河のガス(黒点)や超新星爆発で供給されるガス(黄色の領域)の存在比と比べてはるかに窒素が豊富であり、星の外層のガスで見られる存在比(青色の領域)に近い値になっている。(Credit: Isobe et al.)


初期の宇宙で働いた窒素を増やすメカニズム

炭素と酸素、窒素ガスは、宇宙の中で誕生した恒星の内部の核融合で作られ、やがて超新星爆発などで放出されたと考えられています。

でも、窒素の存在比が大きいガスが今回見つかったことで、話は変わってきます。
今回見つかったガスは、超新星爆発から放たれるガスより窒素の存在比がはるかに大きいことから(図4)、初期の宇宙では一般的に考えられている元素の主な供給メカニズムとは違うメカニズムが働いていた可能性が出てきた訳です。

研究では、今回見つかった炭素と酸素、窒素ガスの存在比が、恒星の外層にあるガスの成分(※3)に近いことが分かりました。
そのことから、恒星の外層にあるガスだけが流れ出たか、もしくはブラックホールによるガスの引き離しなどで、宇宙空間に放出されたのかもしれません。
※3.恒星の外層にあるガスの成分とは、水素が豊富に存在する星の外層において、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)を触媒として水素がヘリウムに変換される一連の反応のこと(CNOサイクルと呼ばれる)。CNOサイクルの主な反応の中では、窒素が酸素に変換される反応が進みづらいので、CNOサイクルが進むと炭素や酸素に対して窒素が多く溜まっていくことになる。
ただ、この場合でも、やがては超新星爆発が起こって、恒星内部のガスが大量に宇宙空間に出てきてしまうんですねー
このため、宇宙空間のガス全体としては普通の存在比になってしまいます。

恒星の内側のガスが撒き散らされないように、超新星爆発が弱かったり、場合によっては、恒星の内側が強い重力で潰れてブラックホールになったのかもしれません。

そうすると、初期の宇宙は多くのブラックホールで満ち満ちていたことに…
それは、それでやはり驚く状況だと言えます。

初期の宇宙に存在する銀河で、炭素や酸素に対して、窒素が多く存在することは理論的に予想されていなかったこと。
今回の観測を通して初めて明らかになったことでした。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡のおかげで、私たちが想像していなかった初期の宇宙の様子が明らかになりました。
研究では新たな謎も出てきましたが、更なる観測でこの謎にも挑んでいくようですよ。


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