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宇宙で最初に生まれた星々の中には太陽140個よりも重い巨大質量星が存在していた! 電子対生成型超新星の痕跡で分かったこと

2023年06月25日 | 宇宙 space
国立天文台と中国国家天文台などの研究チームは、すばる望遠鏡を用いた観測により、宇宙で最初に生まれた星々の中には太陽140個分以上の重さの巨大質量星が存在したことを初めて明確に示しました。

ビッグバン後の宇宙で、どのように星が生まれてくるのかを理解するうえで重要な研究成果になるようです。
図1.巨大質量の初代星による超新星爆発のイメージ図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられる。(Credit: 中国国家天文台)
図1.巨大質量の初代星による超新星爆発のイメージ図。星団のなかで最も質量の大きな星が最初に爆発し、周囲に物質を放出すると考えられる。(Credit: 中国国家天文台)

初代星には大質量星が多く含まれていた

宇宙で最初に生まれたのは、どんな星だったのでしょうか?

このことは、ビッグバン後の宇宙でどのように物質が集まって天体を形成するようになったのかを、解き明かすうえで最大の疑問のひとつになっています。
最初の天体形成は、ビッグバン後の宇宙に存在した物質密度の不均一から始まる。膨張する宇宙のなかで、密度の高いところには重力の作用でますます物質が集まり星が生まれる。
最初の星々(初代星)は、水素とヘリウムのみから成るガス雲から生まれ、星の中の核融合や超新星爆発によって新たな元素を作り出し、多様な物質の世界を形作る最初の一歩になりました。

そんな初代星には、現在の宇宙にはほとんど存在しない大質量星が多く含まれていた可能性が理論的に示されています。

太陽の140倍を超える質量の星は、強烈な紫外線放射で星の周囲だけでなく宇宙全体の環境を変えるとともに、爆発エネルギーの大きな超新星(電子対生成型超新星)爆発を引き起こして、次世代の星の形成にも大きな影響を与えた可能性があります。
これまでの“すばる望遠鏡”の観測でも、通常の重力崩壊型超新星では説明できない特異な組成を持つ星が見つかっていて、巨大質量星の存在は示唆されていたが、超新星の理論モデルで説明しきれない問題も残されていた。(ハワイ観測所 2014年8月21日 観測成果)

ビッグバン後まもなく誕生した低金属星の組成

大質量星の存在を示す明確な観測的証拠を求めて、遠方の銀河や銀河間物質の観測とともに、天の川銀河の中の年齢の高い星の観測が行われてきました。

年齢の高い星はビッグバン後まもなく誕生し、水素とヘリウム以外の元素をわずかしか含まないのが特徴で、“低金属星”とも呼ばれます。

低金属星の中には、初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれてきた“第2世代”とも呼べる星もあり、その星の元素組成は初代星の超新星が作り出した物質を記録しています。

特に巨大質量星が起こす電子対生成型超新星は、通常の重力崩壊型超新星とは大きく異なる元素組成を作り出します。
なので、低金属星の組成を測定すると、その痕跡を見分けることができると考えられています。
太陽質量の数十倍の大質量星は、進化の最期に中心部の崩壊とともに大爆発(重力崩壊型超新星)を起こし、ブラックホールもしくは中性子星を形成する。その際に放出するのが、炭素から鉄までの多様な元素になる。これに対し、太陽質量の140倍以上の大質量星では、中心部があまりに高温になるので、電子・陽電子対を形成して崩壊し、その際に起こる核融合の暴走で爆発(電子対生成型超新星)する。さらに、太陽質量の300倍を超えると核融合の暴走でも星の崩壊を止めきれず、ブラックホールになるとされている。

巨大質量星が起こす電子対生成型超新星の痕跡

国立天文台と中国国家天文台などの研究者からなる国際研究チームは、中国の分光探査望遠鏡“LAMOST”で天の川銀河のなかの低金属星を多数見つけ出し、すばる望遠鏡を用いた観測で詳細な元素組成を測定する研究を積み重ねてきました。

そして、そのうちの1つである“LAMOST J101051.9+235850.2”が、電子対生成型超新星が作り出す特徴的な元素組成を示すことを発見しました。(図2,3)
研究チームは、分光探査望遠鏡“LAMOST”による分光サーベイで観測された星から、銀河系の初期に生まれた小質量星の候補を多数選び出し、これまでに約500天体を“すばる望遠鏡”の高分散分光器“HDS”で詳しく調べてきた。“LAMOST J101051.9+235850.2”は、“LAMOST”による探査の段階で特異な組成を持つ可能性が示唆されていて、“すばる望遠鏡”により詳しい元素組成が測定された。
原子番号の奇数番(ナトリウムなど)と偶数番(マグネシウムやカルシウムなど)の元素の組成比に大きな差があるのが、電子対生成型超新星の特徴になります。
今回の発見は、理論の予測によく一致する結果になったわけです。

これは、これまでに見つかっている中で最も明確な電子対生成型超新星の痕跡といえるもので、初期の宇宙で太陽の140倍以上の質量を持つ星が形成されたとする理論を強く支持する結果になりました。
図2.巨大質量星の痕跡を初めて明確に示した天体“LAMOST J101051.9+235850.2”の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向約3000光年彼方に位置する太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。(Credit: SDSS/国立天文台)
図2.巨大質量星の痕跡を初めて明確に示した天体“LAMOST J101051.9+235850.2”の可視光線画像(SDSSによる)。しし座の方向約3000光年彼方に位置する太陽よりやや軽い主系列星で、見かけの明るさは約16等級。(Credit: SDSS/国立天文台)
図3.“LAMOST J101051.9+235850.2”の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。上段で示している10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは元素組成と全く合っていない。中段は、85太陽質量というかなり大質量の星が起こす重力崩壊型超新星の場合で、観測結果と部分的に合うが、ナトリウム“Na”やマグネシウム“Mg”のほか、マンガン“Mn”やコバルト“Co”の組成が合っていない。下段で示したのが260太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルで、観測結果を最もよく説明できている。(Credit: 中国国家天文台)
図3.“LAMOST J101051.9+235850.2”の元素組成比(赤丸)と超新星爆発の理論モデルの比較。上段で示している10太陽質量の星が起こす重力崩壊型超新星のモデルでは元素組成と全く合っていない。中段は、85太陽質量というかなり大質量の星が起こす重力崩壊型超新星の場合で、観測結果と部分的に合うが、ナトリウム“Na”やマグネシウム“Mg”のほか、マンガン“Mn”やコバルト“Co”の組成が合っていない。下段で示したのが260太陽質量の星が起こす電子対生成型超新星のモデルで、観測結果を最もよく説明できている。(Credit: 中国国家天文台)

今回の結果は、巨大質量の星が存在していたことをこれまでになくはっきりと示し、初期の宇宙に誕生した星の質量分布を探るうえで重要なものと言えます。

では、初代星の中でどのくらいの割合の星が巨大質量だったのでしょうか?

このことは、次に解き明かすべき大きな課題になります。
そのためには、さらに多くの星を探査し、その元素組成を測定する研究を積む必要がありますね。
研究者からのコメント動画(Credit: 国立天文台)


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