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モバライダー mobarider

火星の核や大気のことが、探査衛星のふらつきから分かってきた。

2016年05月14日 | 火星の探査
NASAが火星の重力データを使って地図を作成したんですねー

この地図は美しいだけでなく、火星内部の核から周囲の大気まで、
目で見ただけでは分からない地質学的な詳しい特徴があるそうです。
新たに作成されたカラフルな火星地図は、場所による重力のバラつきを示している。
白く見えるのはタルシス三山などの重力が大きい領域で、
青く見えるのは渓谷などの重力が小さい領域。


重力から分かる火星表面の凸凹

使われた重力データは、火星探査衛星3機による16年分の軌道データでした。

このデータを分析することで、
軌道と速度のふらつきから、位置による重力のバラつきを明らかにしています。

太陽系で最も高い山になるオリンポス火山の頂上から、
マリネリス渓谷の底まで… この重力のごくわずかな違いを、
画像として示したものが、この地図になるんですねー

今回の研究では、
探査衛星が火星から受ける重力のバラつきを分析すると、
火星表面の凸凹に関するデータを得ることができました。

高度300キロを周回する探査衛星が、大気を隔てた重力のわずかな違いを、
ここまで追跡できるのは驚異的なことですよね。

このことは謎の多い火星の地質史に、大きな影響を与えることになります。


二酸化炭素の大循環

今回の研究で最大の発見は、
火星の気候を知るには、重力が非常に役に立つということでした。

南北極冠での重力の変動からは、北半球が冬になる時期には、
大気中の4兆トンの二酸化炭素が氷になって北極に堆積することが、
分かりました。

そして南半球が冬になる時期にも、同じことが南極で起こっているようです。

季節移動するこの二酸化炭素の量は、火星大気の6分の1にも及んでいました。

さらに重力を利用して、
火星の16年間の二酸化炭素サイクルを分析。

すると、11年周期で強くなったり弱くなったりする太陽の活動が、
二酸化炭素の移動に影響を及ぼしていることも明らかになったんですねー

この計算結果は、
火星探査車が火星表面で実際に測定した値とおおむね一致していました。

火星のまわりを周回する探査衛星により、
極冠の質量の変化を測定できるようになりました。

この手法は、
数10億年かけて火星の気候がどのように変わってきたのか?
このことを理解するうえで、基本的なアプローチなる可能性があるそうです。


火星を様変わらさせた数億年間の巨大噴火

新たな地図は、
火星の北部の低地にある“重力の谷”の説明にも役立つようです。

“重力の谷”は、南北に細長く伸びる「重力が異常に低い領域」。

テンペ大陸と呼ばれる高地と、
映画オデッセイの舞台になったアキダリア平原の間にあります。

これまでの研究では、
“重力の谷”は、かつて水と土砂が流れていた巨大な水路が、
タルシス三山と呼ばれる3つの火山の数10億年前に起きた噴火によって、
埋もれたものだと考えられていました。

でも、新たな分析の結果示されたのは、
この領域が、北半球と南半球で大きく性質の異なる火星の地質の境界に、
沿っていることでした。

つまり、この領域は埋もれた水路ではなく、
タルシス三山が大量の溶岩を吐き出すことでできた、
地殻の「しわ」だったんですねー

タルシス三山の噴火が、
これほど大きな出来事だったことを示す研究は他にもあります。

最近発表された別の研究では、
数億年に及んだ三山の噴火で増加した地表の質量が、
あまりに大きかったせいで全体のバランスが悪くなり、
地表が元の位置から自転軸に対して20度近くずれてしまったとしています。


伸び縮みする火星

重力マップにより新たな事実が明らかになったのは、
火星の表面だけではありません。

研究チームは同じデータを用いて、
太陽と火星の衛星フォボスの重力が、
火星をどれだけ変形させているかを調べています。

その結果、観測された火星の伸縮率は、
内部に直径3400~3600キロの液体の“外核”があると考えると、
最もうまく説明できることが明らかになります。

地球の場合は、
内部にある液体の外核がダイナモ作用によって磁場を作り出し、
この地磁気がシールドになって、高エネルギー粒子から地球を保護しています。

この分析結果は、
火星の磁場の悲劇的な歴史の解明に、役立つものかもしれないんですねー

火星も当初は、地球のような強い磁場に守られていたのですが、
やがて南半球にわずかな磁場が残存するだけになってしまいます。

そのため、太陽から飛んでくる高エネルギー粒子が火星を直撃することに…

火星は大気の大半を剥ぎ取られ、原初の海を干上がらせ、
おそらく誕生したばかりの火星の生命も殺してしまったと考えられています。

火星内部の核から周囲の大気まで…

3機の探査衛星のわずかなふらつきから、
これだけの発見がもたらされるのは大変興味深いこと。

あとは火星の地質史にどれだけ迫れるかですね。


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