宇宙で最初に誕生した恒星“初代星(ファーストスター)”の性質を知るには、今のところ初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれたと考えられている“低金属星”を調べる間接的な方法が頼りです。
ただ、低金属星は10万個に1個程度という非常にまれな存在。
なので、これまで性質が詳しく調べられたもののほとんどは、天の川銀河に属するものでした。
今回の研究では、天の川銀河の衛星銀河“大マゼラン雲”に含まれる恒星を調査し、その中から低金属星を10個ピックアップして分析を行っています。
その結果、大マゼラン雲の低金属星は、天の川銀河のほとんどの低金属星とは異なる元素の比率を持つことが判明しました。
元素の比率の違いは、低金属星が形成された環境の違いを反映していると考えられます。
なので、今回の発見は初期宇宙の様子探る重要な手掛かりとなるものです。
初代星の性質を知る手掛かりとなる低金属星
宇宙で最初に誕生した初代星(種族III)は、どのような性質を持っていたのでしょうか?
太陽の数百倍という途方もない質量を持つ初代星は、すぐに(100万年未満)寿命を迎えるので、私たちの近くには存在しないと考えられています。
そこで、初代星の性質を知る手掛かりとして注目されているのが、初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれてきた第2世代の恒星“低金属星”(種族II)です。
初代星と異なり、低金属星の質量は太陽程度の小さなものなので、誕生から100億年以上たった現在でも天の川銀河に存在しています。
低金属星とは、金属の含有量が太陽などの新しい恒星と比べて文字通り低い星を意味する言葉ですが、ここでいう金属とは鉄のような化学的な金属元素に限らず、炭素や酸素などの科学的には非金属の元素も含まれます。
このことは、宇宙における元素の合成と関りがあります。
誕生直後の宇宙には、ほぼ水素とヘリウムしかなかったので(※1)、初代星は純粋な水素とヘリウムの塊とみなせます。
やがて、初代の恒星が寿命を迎え超新星爆発を起こすと、核融合反応で合成された重い元素がばら撒かれていきます。
この残骸から形成される第2世代の恒星は、初代星にはなかった重い元素を含むことになります。
一方、それよりも後の世代の恒星と比べると、初代星には重い元素の含有量は少ないといった特徴があります。
これらのことから、水素とヘリウム以外の重い元素を金属と総称し、金属の含有量が極端に少ない恒星を低金属星と呼ぶ、という習慣があります。
低金属星は恒星10万個あたり1個という非常に稀な存在ですが、天の川銀河でもいくつか発見されていて、中には宇宙の年齢そのものに匹敵するほど古いと推定されるものもあります。
一方、元素の比率を詳しく知ることが出来なければ低金属星だと証明できないことや、存在自体が稀なことから、これまで天の川銀河の低金属星に関する詳細な研究はほとんど進んでいませんでした。
天の川銀河に属さない低金属星
天の川銀河というと、多数の恒星が属する1つの集団を思い浮かべますよね。
でも、実際の天の川銀河の周囲には、大小2つのマゼラン雲のように、銀河本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在しています。
このような恒星の集団は衛星銀河(伴銀河ともいう)と呼ばれ、重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河になります。
今回の研究では、天の川銀河に属さない低金属星を詳細に調査するため、天の川銀河の衛星銀河“大マゼラン雲”を対象としています。
大マゼラン雲は約20億年前に天の川銀河に捕らえられた、天の川銀河とは起源を別にする銀河。
地球からの距離が約16万3000光年と近いことから、恒星1個1個を詳細に調べることが可能です。
とはいえ、珍しい低金属星を見つけるには大量の恒星データや、それを分析する作業が必要となります。
そこで研究チームでは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データから低金属星の候補を絞り込み、南米チリ・ラスカンパナス天文台の“マゼラン望遠鏡(口径6.5メートル)”を用いることで、さらに詳細な観測データを得る作業を実施。
その結果、金属の量が太陽の0.3%以下の低金属星が合計10個見つかりました。
今回見つかった中で最も金属の少ない恒星“LMC-119”は、太陽の1万3500分の1(約0.007%)しか金属を含んでおらず、これは天の川銀河の中で金属量の少ない恒星に匹敵するほどの低金属星でした。
低金属星の一般的な性質
さらに、今回見つかった10個の低金属星は、いずれも炭素の量が非常に少ないことが興味深い発見として挙げられます。
天の川銀河に属する低金属星のほとんどは、比較的炭素を多く含むという性質がありました。
でも、大マゼラン雲の低金属星は、それらと比べて約40%ほどしか炭素を含んでいなかったんですねー
天の川銀河で見つかる低金属星には炭素が多いことから、これまでは炭素が豊富であることは低金属星の一般的な性質で、炭素の量が増える特別なプロセスがあると考えられてきました。
でも、ごく最近になって天の川銀河の中でも炭素が少ない低金属星のグループが見つかっていて、この考えが間違っている可能性が示されています。
今回の研究により、大マゼラン雲の低金属星も炭素が少ないことが判明しました。
このことから考えられるのは、大マゼラン雲の低金属星は天の川銀河の大部分の低金属星とは異なる環境で形成された可能性が高いことです。
天の川銀河の大多数の低金属星の性質が、全ての低金属星に対する一般的な性質ではないとすると、低金属星を手掛かりに考察されてきた初代星の性質や、初期の宇宙の環境に関する見方も変わるはずです。
今回の研究結果により、これまでの低金属星に関する常識が変わってくるのでしょうね。
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ただ、低金属星は10万個に1個程度という非常にまれな存在。
なので、これまで性質が詳しく調べられたもののほとんどは、天の川銀河に属するものでした。
今回の研究では、天の川銀河の衛星銀河“大マゼラン雲”に含まれる恒星を調査し、その中から低金属星を10個ピックアップして分析を行っています。
その結果、大マゼラン雲の低金属星は、天の川銀河のほとんどの低金属星とは異なる元素の比率を持つことが判明しました。
元素の比率の違いは、低金属星が形成された環境の違いを反映していると考えられます。
なので、今回の発見は初期宇宙の様子探る重要な手掛かりとなるものです。
この研究は、シカゴ大学のAnirudh Chitiさんたちの研究チームが進めています。
図1.ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”と“プランク”、NASAの赤外線天文衛星“IRAS”、NASAの宇宙マイクロ波背景放射観測衛星“COBE”が撮影した大マゼラン雲の合成画像。(Credit: ESA, NASA, JPL-Caltech, CSIRO & C. Clark (STScI)) |
初代星の性質を知る手掛かりとなる低金属星
宇宙で最初に誕生した初代星(種族III)は、どのような性質を持っていたのでしょうか?
太陽の数百倍という途方もない質量を持つ初代星は、すぐに(100万年未満)寿命を迎えるので、私たちの近くには存在しないと考えられています。
そこで、初代星の性質を知る手掛かりとして注目されているのが、初代星が放出した物質を取り込んだガス雲から生まれてきた第2世代の恒星“低金属星”(種族II)です。
初代星と異なり、低金属星の質量は太陽程度の小さなものなので、誕生から100億年以上たった現在でも天の川銀河に存在しています。
低金属星とは、金属の含有量が太陽などの新しい恒星と比べて文字通り低い星を意味する言葉ですが、ここでいう金属とは鉄のような化学的な金属元素に限らず、炭素や酸素などの科学的には非金属の元素も含まれます。
このことは、宇宙における元素の合成と関りがあります。
誕生直後の宇宙には、ほぼ水素とヘリウムしかなかったので(※1)、初代星は純粋な水素とヘリウムの塊とみなせます。
※1.実際には、リチウム以上の金属も少量生成されたと考えられているが、その量は100億分の1未満で、その存在は無視できるほどだった。
初代星の中心部では、核融合反応が起こりリチウム以上の重い元素を合成。やがて、初代の恒星が寿命を迎え超新星爆発を起こすと、核融合反応で合成された重い元素がばら撒かれていきます。
この残骸から形成される第2世代の恒星は、初代星にはなかった重い元素を含むことになります。
一方、それよりも後の世代の恒星と比べると、初代星には重い元素の含有量は少ないといった特徴があります。
これらのことから、水素とヘリウム以外の重い元素を金属と総称し、金属の含有量が極端に少ない恒星を低金属星と呼ぶ、という習慣があります。
低金属星は恒星10万個あたり1個という非常に稀な存在ですが、天の川銀河でもいくつか発見されていて、中には宇宙の年齢そのものに匹敵するほど古いと推定されるものもあります。
一方、元素の比率を詳しく知ることが出来なければ低金属星だと証明できないことや、存在自体が稀なことから、これまで天の川銀河の低金属星に関する詳細な研究はほとんど進んでいませんでした。
天の川銀河に属さない低金属星
天の川銀河というと、多数の恒星が属する1つの集団を思い浮かべますよね。
でも、実際の天の川銀河の周囲には、大小2つのマゼラン雲のように、銀河本体から離れた場所にも恒星の集団が多数存在しています。
このような恒星の集団は衛星銀河(伴銀河ともいう)と呼ばれ、重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河になります。
今回の研究では、天の川銀河に属さない低金属星を詳細に調査するため、天の川銀河の衛星銀河“大マゼラン雲”を対象としています。
大マゼラン雲は約20億年前に天の川銀河に捕らえられた、天の川銀河とは起源を別にする銀河。
地球からの距離が約16万3000光年と近いことから、恒星1個1個を詳細に調べることが可能です。
とはいえ、珍しい低金属星を見つけるには大量の恒星データや、それを分析する作業が必要となります。
そこで研究チームでは、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”の観測データから低金属星の候補を絞り込み、南米チリ・ラスカンパナス天文台の“マゼラン望遠鏡(口径6.5メートル)”を用いることで、さらに詳細な観測データを得る作業を実施。
その結果、金属の量が太陽の0.3%以下の低金属星が合計10個見つかりました。
今回見つかった中で最も金属の少ない恒星“LMC-119”は、太陽の1万3500分の1(約0.007%)しか金属を含んでおらず、これは天の川銀河の中で金属量の少ない恒星に匹敵するほどの低金属星でした。
図2.今回発見された、大マゼラン雲に属する10個の低金属星の位置。(Credit: Anirudh Chiti, et al.) |
低金属星の一般的な性質
さらに、今回見つかった10個の低金属星は、いずれも炭素の量が非常に少ないことが興味深い発見として挙げられます。
天の川銀河に属する低金属星のほとんどは、比較的炭素を多く含むという性質がありました。
でも、大マゼラン雲の低金属星は、それらと比べて約40%ほどしか炭素を含んでいなかったんですねー
天の川銀河で見つかる低金属星には炭素が多いことから、これまでは炭素が豊富であることは低金属星の一般的な性質で、炭素の量が増える特別なプロセスがあると考えられてきました。
でも、ごく最近になって天の川銀河の中でも炭素が少ない低金属星のグループが見つかっていて、この考えが間違っている可能性が示されています。
今回の研究により、大マゼラン雲の低金属星も炭素が少ないことが判明しました。
このことから考えられるのは、大マゼラン雲の低金属星は天の川銀河の大部分の低金属星とは異なる環境で形成された可能性が高いことです。
天の川銀河の大多数の低金属星の性質が、全ての低金属星に対する一般的な性質ではないとすると、低金属星を手掛かりに考察されてきた初代星の性質や、初期の宇宙の環境に関する見方も変わるはずです。
今回の研究結果により、これまでの低金属星に関する常識が変わってくるのでしょうね。
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