宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

なぜ、観測される物質の量が理論予測よりもはるかに少ないの? 宇宙の大規模構造で検出されたX線は行方不明のバリオンの手掛かりかも

2023年02月06日 | 宇宙 space
今回の研究では、最新のX線サーベイ“Spektr-RG/eROSITA”を用いた観測から、銀河団を網のように結ぶフィラメント構造に含まれる高温プラズマからの熱放射を検出しています。
宇宙の奥深くに隠された物質を探す手掛かりになるのかもしれません。
 “eROSITA”はロシア・ドイツのX線天文衛星“Spektr-RG”に搭載されたX線宇宙望遠鏡。2019年7月13日にバイコヌールから打ち上げられ、第2ラグランジュ点(L2)を回るハロー軌道に投入された。開発はドイツのマックス・プランク地球外物理学研究所(MPE)。
SRG/eROSITA衛星による宇宙の網からのX線放射。明るい部分が銀河団で、宇宙フィラメントが黄色い線で示されている。(Credit: Tanimura, Aghanim (CNRS)& eROSITA)
SRG/eROSITA衛星による宇宙の網からのX線放射。明るい部分が銀河団で、宇宙フィラメントが黄色い線で示されている。(Credit: Tanimura, Aghanim (CNRS)& eROSITA)

行方不明のバリオン問題

大規模サーベイで観測される数百万個の銀河たち。
これらは、宇宙にランダムに分布しているわけではありません。

銀河は集団化して銀河団を形成し、銀河団はフィラメントと呼ばれる細長い構造によって繋がり、その隙間には空洞ボイドと呼ばれる銀河が存在しない領域が広がっています。

このような宇宙の構造を“宇宙の網”といいます。

宇宙の網の構造を構成する銀河は、バリオンと呼ばれる通常の物質の10%程度を占めるにすぎず、残りの90%はガス状の物質よって構成されています。

ただ、これらを含めても通常の物質の半分から3分の1は検出されず…
まだ見つかっていない物質は、宇宙の奥深くに隠されているはずなんですねー
これが、観測される物質の量が理論予測よりもはるかに少ないという“ミッシングバリオン問題”です。

この“ミッシングバリオン問題”に取り組んでいるのが、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構“Kavli IPMU”の谷村 秀樹(たにむら ひでき)特任研究員を含む研究チームです。

行方不明のバリオンの所在地として有力視されているのは、フィラメントに含まれる比較的高温でプラズマ化したガス。
これまでの研究では、30年前のX線観測衛星“ROSITA”による全天サーベイデータをを用いて、約15000個の大規模宇宙フィラメントからのX線信号を統計的に分析しています。
これにより、フィラメントの高温プラズマの熱放射によるX線を、初めて検出したとする成果を2020年に発表していました。
 宇宙は正体不明の“ダークマター(26.8%)”と“ダークエネルギー(68.3%)”で満たされていて、身近な物質である“バリオン(陽子や中性子などの粒子で構成された普通の物質)”は、宇宙の中にわずか4.9%しか存在しないことが分かってきている。その“バリオン”も、星や銀河、星間ガスなどとして観測されている量はおよそ半分で、残り半分はまだ見つかっていない。これが“ミッシング(行方不明の)バリオン問題”。ミッシングバリオンは宇宙の構造形成シミュレーションから、網の目のような宇宙の大規模構造に沿って分布しているのではないかと予想されている。
今回の研究では、X線天文衛星“Spektr-RG”に搭載されたX線望遠鏡“eROSITA”の観測結果を分析。
分析に使われたのは、“eROSITA”によるX線サーベイで最初に発表された140平方度(全店の約300分の1)のデータで、463個のフィラメントからのX線が検出されました。
X線は高温プラズマからの熱放射であることが確認され、プラズマの密度や温度をとらえることにも成功しています。

ただ、プラズマがフィラメントの中でどのように分布しているのか、熱放射の起源がどこにあるのかについては明らかになっていないんですねー
そこで期待されているのが、今後公開される“eROSITA”の観測データや次世代のX線観測装置です。
これらの観測データがフィラメントのプラズマに迫り、行方不明のバリオンの全容解明につながる情報が得られるといいですね。


こちらの記事もどうぞ



最新の画像もっと見る

コメントを投稿