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“赤色巨星”は球体なのに、なぜ非対称な“恒星風”が作られるのか? 太陽が最期を迎える50億年後の姿も気になって来る。

2020年10月10日 | 宇宙 space
アルマ望遠鏡を用いた観測で、“赤色巨星”から噴き出すガス“恒星風”がこれまでになく鮮明にとらえられました。
こうして噴き出すガスによって作られるのが、多様で魅力的な姿を見せる“惑星状星雲”です。
今回の観測で撮影されたのは、“赤色巨星”から噴き出した直後のガスが非対称な形状をしている様子。
ガスの非対称な形状は“惑星状星雲”によく似ているので、両者の形は共通のメカニズムで決まっているようです。

さらに分かってきたのは、ガスの形状が“赤色巨星”からのガス放出率によって異なること。
そして、“赤色巨星”の周囲を回る見えない小型の伴星や巨大惑星の重力もガスの形状を決めていることでした。
今回の研究成果によって、複雑な形をとる“惑星状星雲”の形成メカニズムを明らかにできるのかもしれません。

太陽程度の質量の星は“赤色巨星”に進化する

太陽程度の質量の星が一生の最期を迎えると、燃料である水素を使い果たして核融合が不安定になっていきます。

その結果、重力による収縮と核融合により膨張しようとする力の均衡も不安定になり、表面が大きく膨張して表面温度も下がって“赤色巨星”と呼ばれる星に進化します。
太陽も約50億年後には“赤色巨星”になり、地球は飲み込まれるかギリギリ助かるかの瀬戸際の運命といわれている。

この“赤色巨星”の表面からは“恒星風”と呼ばれるガスが流れ出し、星は次第にやせ細っていくことになります。

進化がさらに進むと、星の高温の中心核がむき出しになり、そこから出る強い紫外線によって周囲のガスが輝くようになるんですねー
この段階を“惑星状星雲”と呼び、美し照らし出された星雲は天文ファンを楽しませてくれています。
ます。

“恒星風”と“惑星状星雲”の形状

これまでの観測では、“恒星風”は進化の進んだ星の約8割からは球対称に噴き出していて、残りの2割は非対称な形をしていました。

ただ、“赤色巨星”近傍の“恒星風”の詳細な構造は観測できていないこと、“惑星状星雲”の形状は同じものは一つもないと言えるほど非常に多彩なことから、複雑な構造を持った“惑星状星雲”がどのようにして作られるのかは、これまで分かっていませんでした。

やがて“赤色巨星”に進化する太陽は、今はとてもきれいな球状をしています。
それでは、さまざまな形状の“惑星状星雲”はどうやってできるのでしょうか?

今回の研究では、アルマ望遠鏡を用いて14個の“赤色巨星”から噴き出す“恒星風”を高い解像度で観測しています。

恒星近傍のガスの動きを観測することは、これまで困難なことでした。
“赤色巨星”近傍での“恒星風”の観測を実現させたのは、アルマ望遠鏡の“視力6000”に相当する性能の高さのおかげといえます。
南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡としてミリ波・サブミリ波を観測することができる。

そして、天体による構造の違いを比較するため、統一的なデータ解析を実施。
データ解析の結果、ガスの形状は全く球対象からは外れたものだったんですねー
そのうちのいくつかは、“惑星状星雲”の形によく似ていました。

分かってきたのは、“赤色巨星”は球体なのに、なぜか非対称な“恒星風”が作られていたこと。
さらに、“赤色巨星”からの“恒星風”と“惑星状星雲”の形状が似ていることは、これらが共通のメカニズムで作られることを示唆していました。
年老いた星たちをアルマ望遠鏡で撮影した画像。星から噴き出すガスに含まれる一酸化炭素分子の分布を表していて、円盤状の構造や花びらのように幾重にも重なる構造、渦巻き模様など多彩な構造を持っていることが分かる。地球に向かってくる方向に動くガスを青色、遠ざかる方向に動くガスを赤色で表している。(Credit: L. Decin, ESO/ALMA)
年老いた星たちをアルマ望遠鏡で撮影した画像。星から噴き出すガスに含まれる一酸化炭素分子の分布を表していて、円盤状の構造や花びらのように幾重にも重なる構造、渦巻き模様など多彩な構造を持っていることが分かる。地球に向かってくる方向に動くガスを青色、遠ざかる方向に動くガスを赤色で表している。(Credit: L. Decin, ESO/ALMA)

“赤色巨星”からのガス放出率、伴天体や巨大惑星の重力によって“恒星風”は形状を変えている

研究チームでは、観測で得られた“恒星風”の構造を“円盤型”、“渦巻き型”、“円錐型”の3種類に分類。
そう、分類が可能ということは、“恒星風”の構造がランダムに作られているわけではないということです。

そして見出したのが、“赤色巨星”のガス放出率によって形状が異なること。
ガス放出率が大きい場合には“渦巻き型”になる事が多く、ガス放出率が小さい場合には“円盤型”になりやすいようです。

では、なぜ球対象でない形状の“恒星風”が作られるのでしょうか?
可能性として考えられるのは、“赤色巨星”の周囲を公転する低質量の伴星や重力の強い巨大惑星の影響です。

低質量の伴星が、自らは光らない恒星と惑星の中間的存在の“褐色矮星”であれば、暗いので検出するのは困難になります。
また、木星クラスの巨大惑星であっても、自ら光を放っているわけではないので、やはり発見は困難になります。

研究では、そうした見えない強い重力を持つ伴星や巨大惑星の影響で、“恒星風”の形が乱される可能性があるとしています。

“褐色矮星”や木星クラスの巨大惑星などの強い重力を持つ天体であれば、“赤色巨星”からのガスを吸い込み、または放出される方向を変えることができます。

これら天体が“赤色巨星”の周囲を公転することで、“恒星風”の構造が作られていくと考えることができます。
実際に研究チームでは、理論モデルを使って、“恒星風”の形状が伴天体や巨大惑星の影響で説明できることも明らかにしています。

さらに分かってきたのは、“赤色巨星”と伴天体や巨大惑星との間隔の違いによっても“恒星風”の形状が変わること。
これらの結果を合わせることで、「ガス放出率と伴天体や巨大惑星との距離の違いによって“恒星風”の形状が進化する」という統一的なモデルを作り上げることに成功しています。

太陽が一生を終えて作られる“惑星状星雲”の形は?

これまで、多くの恒星進化の理論計算は、“赤色巨星”が球対称に“恒星風”を噴き出すという過程に基づいていました。

今回の研究により、この状況が大きく変わる可能性があります。

これまで、“恒星風”の構造の複雑さは、あまり考慮に入れられていなかったので、“恒星風”による質量放出率の推定は最大で10倍ほど間違っていた可能性もあるようです。

さらに研究チームでは、太陽が最期を迎えて“惑星状星雲”が形作られるときに、どのような姿になるのかを今回の成果から推測しています。

太陽が一生を終えるとき、“惑星状星雲”は渦巻き模様になるのか、あるいはチョウのような形になるのでしょうか。
これには、重力の強い木星や土星が影響を与えることになります。

もちろん私たちは見ることができませんが、研究チームでは死にゆく太陽から噴き出す“恒星風”を、淡い渦巻方になると予想しているようです。


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