2020年3月に報告された新天体“Swift J1818.0-1607”。
この天体が、これまでに20ほどしか見つかっていない中性子星の一種で、強い磁場を持つ“マグネター”だということが分かったようです。
ただ、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”なのに、中性子星の大半を占める“電波パルサー”の特徴も示していたんですねー
この不思議な天体は、中性子星の研究を発展させるカギになるのかもしれません。
ブラックホールは、事象の地平面を超えてしまうと光さえ脱出できない強大な重力で知られる天体。
このブラックホールに次ぐ巨大な重力を持っているのが中性子星になります。
中性子星は、太陽質量の1.4倍もの質量が半径わずか12キロ(太陽の直径は70万キロ弱)の中に押し込められた超高密度天体です。
陽子が陽子のままではいられず、電子を吸収して中性子になってしまうほどの圧力のため、それにより大部分が中性子によって構成されています。
これらの中性子星は、観測的な特徴による区別で複数の“種族”に分類されています。
例えば、中性子星の大半は高速自転に伴って電磁波を規則正しく一定間隔で放出する“電波パルサー”に分類されています。
さらに、強い磁場を持つ場合は“強磁場パルサー”、周期がミリ秒の速さの“ミリ秒パルサー”、単独(連星ではない)にもかかわらずX線を放出するパルサー“XINS(X-ray Isolated Neutron Stars)”、連星系の“電波パルサー”、軟X線点源の“CCO(Compact Central Object)”などがあります。
このような中性子星の中で最も強い磁場を持っているのが“マグネター”で、表面磁場は100億~1000億テスラにも達します。
地球の地磁気は50マイクロテスラほど、磁場が強いことで知られる太陽の黒点ですら0.1テスラほどなんですねー
それらと比較すれば、マグネターの磁場がどれだけ強力かが分かります。
その強い磁場のため“マグネター”では、磁場中における光子の自発分裂や真空の複屈折など、地上では観測できない現象が起きていると考えられています。
さらに、“マグネター”の特徴としてあげられるのが、自転周期が2~12秒ほどで、他の中性子星よりも自転が遅いこと。
そのため、星の内部に蓄えた磁気エネルギーを開放して輝いていて、回転エネルギーで光る通常の“電波パルサー”とは異なるエネルギー源を持っていると推測されています。
また、“マグネター”は種類としてX線で観測すると常に明るいタイプと、突発的に明るくなるタイプがあることも分かっています。
ただ、総数自体は少なく、これまで20天体ほどしか発見されていません。
バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを搭載しています。
その“スウィフト”が2020年3月12日、継続時間10ミリ秒ほどのX線によるバースト現象を検出。
その到来した方向に新天体“Swift J1818.0-1607”が発見されました。
その知らせを受けた国際共同研究チームは、発見から4時間後には、国際宇宙ステーションに設置されたX線望遠鏡“NICER”を用いて観測を開始。
観測の結果、この新しいX線源からは1.36秒の周期的な信号を検出。
さらに観測を継続してみると、3月25日に周期変化率の測定も報告されます。
それらを組み合わせた結果、見積もられた表面磁場の強さは270億テスラ。
これにより、“Swift J1818.0-1607”が“マグネター”であることが突き止められることになります。
そして分かってきたのが、これまで知られている古典的な“マグネター”の中でも、“Swift J1818.0-1607”は最も自転が速く、高速で回転していること。
一般に“マグネター”が電波パルスを出すことは希ことになります。
でも、この新天体からは電波の信号も検出され、その電波でも同様の周期性が確認されたています。
50日間にわたる観測の結果、“Swift J1818.0-1607”がX線で増光を始めてから8日後と14日後に、自転の周期が急激に変化する“グリッチ”と呼ばれる現象が検出されたんですねー
中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えらている“グリッチ”。
この観測データは、“マグネター”の内部を理解する上で重要なものといえます。
また、この2回の“グリッチ”の発生間隔は短く、知られている“マグネター”の“グリッチ”の中でも強力なもの。
このことから、今回の観測は“Swift J1818.0-1607”の活動性が高い時期のものだと考えることができます。
さらに、“Swift J1818.0-1607”の推定年齢が420年と、とても若いことも判明しています。
“Swift J1818.0-1607”のX線は徐々に暗くなっていき、50日間の観測で50%ほどX線の明るさ(フラックス)が減少したことも確認されました。
この天体のX線は静穏期にどの程度の明るさなのでしょうか。
まだ確認されていませんが、今後“Swift J1818.0-1607”は再び眠りにつくようです。
“Swift J1818.0-1607”は、その観測的特徴から“電波パルサー”の特徴のいくつかも併せ持っています。
また、“強磁場パルサー”の“PSR J1846-0258”や“PSR J1119-6127”などと類似しているとも考えられています。
X線での明るさ(X線光度)と星の回転で放出されるエネルギー(回転エネルギーの放出率)の比較を見ると、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”として振る舞いつつも、これまでに知られていた“電波パルサー”の特徴も備えていることが示唆されています。
今後、中性子星の進化を理解する上で、異なる種族同士を結び付けるカギとなる天体が“Swift J1818.0-1607”なのかもしれません。
天文学の大きなテーマの一つとして、宇宙論的な距離から到来する謎の“高速電波バースト(FRB:Fast Radio Burst)”という現象があります。
ミリ秒のタイムスケールを持ち、電波できわめて明るい突発バースト現象なんですねー
ただ、その起源は分かっていないので、近年の天文学でのホットな研究対象になっています。
最近の研究で、この“高速電波バースト”に極めてよく似た現象が天の川銀河内のマグネター“SGR 1935+2154”から検出。
このことから、“マグネター”は“高速電波バースト”を解明するためのカギになると考えられるようになってきています。
さらに、X線望遠鏡“NICER”による観測で着目しているのは、X線と電波の同時観測。
今後、多波長観測による中性子星の研究の進展が期待できるのかもしれません。
こちらの記事もどうぞ
この天体が、これまでに20ほどしか見つかっていない中性子星の一種で、強い磁場を持つ“マグネター”だということが分かったようです。
ただ、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”なのに、中性子星の大半を占める“電波パルサー”の特徴も示していたんですねー
この不思議な天体は、中性子星の研究を発展させるカギになるのかもしれません。
ブラックホールの次に巨大な重力を持つ天体
太陽質量の8倍以上の恒星が超新星爆発を起こすと、後に残るのはブラックホールもしくは中性子星になります。ブラックホールは、事象の地平面を超えてしまうと光さえ脱出できない強大な重力で知られる天体。
このブラックホールに次ぐ巨大な重力を持っているのが中性子星になります。
中性子星は、太陽質量の1.4倍もの質量が半径わずか12キロ(太陽の直径は70万キロ弱)の中に押し込められた超高密度天体です。
陽子が陽子のままではいられず、電子を吸収して中性子になってしまうほどの圧力のため、それにより大部分が中性子によって構成されています。
強い磁場を持つ“マグネター”
これまで天の川銀河を中心に見つかっている中性子星の数は約2800天体。これらの中性子星は、観測的な特徴による区別で複数の“種族”に分類されています。
例えば、中性子星の大半は高速自転に伴って電磁波を規則正しく一定間隔で放出する“電波パルサー”に分類されています。
さらに、強い磁場を持つ場合は“強磁場パルサー”、周期がミリ秒の速さの“ミリ秒パルサー”、単独(連星ではない)にもかかわらずX線を放出するパルサー“XINS(X-ray Isolated Neutron Stars)”、連星系の“電波パルサー”、軟X線点源の“CCO(Compact Central Object)”などがあります。
このような中性子星の中で最も強い磁場を持っているのが“マグネター”で、表面磁場は100億~1000億テスラにも達します。
地球の地磁気は50マイクロテスラほど、磁場が強いことで知られる太陽の黒点ですら0.1テスラほどなんですねー
それらと比較すれば、マグネターの磁場がどれだけ強力かが分かります。
その強い磁場のため“マグネター”では、磁場中における光子の自発分裂や真空の複屈折など、地上では観測できない現象が起きていると考えられています。
複屈折とは、何も光を屈折させるもののないはずの真空中で屈折が起きる現象。
さらに、“マグネター”の特徴としてあげられるのが、自転周期が2~12秒ほどで、他の中性子星よりも自転が遅いこと。
そのため、星の内部に蓄えた磁気エネルギーを開放して輝いていて、回転エネルギーで光る通常の“電波パルサー”とは異なるエネルギー源を持っていると推測されています。
また、“マグネター”は種類としてX線で観測すると常に明るいタイプと、突発的に明るくなるタイプがあることも分かっています。
ただ、総数自体は少なく、これまで20天体ほどしか発見されていません。
宇宙最強の強磁場を持つ中性子星の一種“マグネター”のイメージ図。(Credit: 理化学研究所) |
電波パルスを出す“マグネター”
NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”は、“ガンマ線バースト現象”の解明を目的として、2004年に打ち上げられた天文衛星です。バースト現象を検出するための検出器やX線での撮像や分光観測を行える装置などを搭載しています。
その“スウィフト”が2020年3月12日、継続時間10ミリ秒ほどのX線によるバースト現象を検出。
その到来した方向に新天体“Swift J1818.0-1607”が発見されました。
ガンマ線とX線の違いは、原子核内部が起源のものをガンマ線、そうでないものをX線と呼んでいる。どちらもエネルギーが高く、波長の短い電磁波のこと。エネルギーが同じで起源が分からない場合は区別を付けることができない。
その知らせを受けた国際共同研究チームは、発見から4時間後には、国際宇宙ステーションに設置されたX線望遠鏡“NICER”を用いて観測を開始。
NASAのX線望遠鏡“NICER(Neutron Star Interior Composition)”は、中性子星内部の高密度状態を解明するために開発された観測装置。2017年6月3日に国際宇宙ステーションに向けて打ち上げられた。
観測の結果、この新しいX線源からは1.36秒の周期的な信号を検出。
さらに観測を継続してみると、3月25日に周期変化率の測定も報告されます。
それらを組み合わせた結果、見積もられた表面磁場の強さは270億テスラ。
これにより、“Swift J1818.0-1607”が“マグネター”であることが突き止められることになります。
そして分かってきたのが、これまで知られている古典的な“マグネター”の中でも、“Swift J1818.0-1607”は最も自転が速く、高速で回転していること。
一般に“マグネター”が電波パルスを出すことは希ことになります。
でも、この新天体からは電波の信号も検出され、その電波でも同様の周期性が確認されたています。
中性子星の自転周期と自転周期の変化率および中性子星の分類。2020年3月12日にNASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト”によって発見された“Swift J1818.0-1607”は中性子星であり、それも“マグネター”であることが確認された。(Credit: 理化学研究所) |
中性子星の進化を理解する上でカギになる天体
その後、“Swift J1818.0-1607”のX線スペクトルやパルス周期に関するモニタリング観測を実施されていました。50日間にわたる観測の結果、“Swift J1818.0-1607”がX線で増光を始めてから8日後と14日後に、自転の周期が急激に変化する“グリッチ”と呼ばれる現象が検出されたんですねー
中性子星の内部状態が変化することで発生すると考えらている“グリッチ”。
この観測データは、“マグネター”の内部を理解する上で重要なものといえます。
また、この2回の“グリッチ”の発生間隔は短く、知られている“マグネター”の“グリッチ”の中でも強力なもの。
このことから、今回の観測は“Swift J1818.0-1607”の活動性が高い時期のものだと考えることができます。
さらに、“Swift J1818.0-1607”の推定年齢が420年と、とても若いことも判明しています。
“Swift J1818.0-1607”のX線は徐々に暗くなっていき、50日間の観測で50%ほどX線の明るさ(フラックス)が減少したことも確認されました。
この天体のX線は静穏期にどの程度の明るさなのでしょうか。
まだ確認されていませんが、今後“Swift J1818.0-1607”は再び眠りにつくようです。
“Swift J1818.0-1607”のX線フラックスと自転周期および周期変化率の変化。上段はフラックス、中断は自転周期、下段は周期変化率を示したグラフ。X線フラックスは約50日で50%ほど減少している。左から一つ目と二つ目の青破線は、8日後と14日後に観測された自転周期の急激な変化“グリッチ”に対応している。(Credit: 理化学研究所) |
また、“強磁場パルサー”の“PSR J1846-0258”や“PSR J1119-6127”などと類似しているとも考えられています。
X線での明るさ(X線光度)と星の回転で放出されるエネルギー(回転エネルギーの放出率)の比較を見ると、“Swift J1818.0-1607”は“マグネター”として振る舞いつつも、これまでに知られていた“電波パルサー”の特徴も備えていることが示唆されています。
今後、中性子星の進化を理解する上で、異なる種族同士を結び付けるカギとなる天体が“Swift J1818.0-1607”なのかもしれません。
中性子星の異なる種族の比較。縦軸はX線光度、横軸は星の回転エネルギーの放出率。知られている“マグネター”は黄線、古典的な回転駆動型“電波パルサー”は緑四角、また“強磁場パルサー”の中で“マグネター”のようなX線バーストを示した2天体“PSR J1846-0258”と“PSR J1119-6127”は青線、“Swift J1818.0-1607”は赤線で示している。(Credit: 理化学研究所) |
ミリ秒のタイムスケールを持ち、電波できわめて明るい突発バースト現象なんですねー
ただ、その起源は分かっていないので、近年の天文学でのホットな研究対象になっています。
最近の研究で、この“高速電波バースト”に極めてよく似た現象が天の川銀河内のマグネター“SGR 1935+2154”から検出。
このことから、“マグネター”は“高速電波バースト”を解明するためのカギになると考えられるようになってきています。
さらに、X線望遠鏡“NICER”による観測で着目しているのは、X線と電波の同時観測。
今後、多波長観測による中性子星の研究の進展が期待できるのかもしれません。
こちらの記事もどうぞ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます