よく見る惑星の外観で、“天王星は空のような薄い青色”で“海王星は海のような深い青色”というイメージありますよね。
でも、公開されている天体の画像には、様々な事情で補正がかけられていることがあります。
なので、実際に人間の目で見たイメージを、正確に反映しているとは限らないんですねー
今回の研究では、独自開発した惑星の色モデルに、ハッブル宇宙望遠鏡と超大型望遠鏡“VLT”の観測データを適用。
これにより、天王星と海王星を肉眼で見た際の正確な“真の色”を確定しています。
その結果、天王星と海王星の“真の色”は、緑色を帯びた淡い青色で、海王星の方がわずかに青色が強いことを除けば、ほとんど区別できないほどそっくりなことが分かりました。
この研究は、長年持っていた天王星と海王星のイメージを変えるだけでなく、天王星の極地と赤道の環境の違いといった、観測が難しい遠方の惑星の環境についても重要な洞察を与えてくれるようです。
得られる情報を強調するための色変更
天王星と海王星は、2つとも太陽系の最も外側を公転する惑星で、どちらも巨大氷惑星という同じ分類に属しています。
両惑星とも概ね青色の惑星と言えますが、天王星は空のように淡い青色、海王星は海のように深い青色、というイメージが一般的です。
この青色は、両惑星の大気中に含まれている数%のメタンが、主に赤色、次いで緑色の光を吸収することで発生しています。
その天王星と海王星の名前は、実は色に因んで命名されています。(※1)
ただ、外観のイメージを決定づけたのはNASAが打ち上げた惑星探査機“ボイジャー2号”による撮影画像でした。
現在でも、両惑星に接近した探査機は“ボイジャー2号”が唯一の存在になります。
実は、“ボイジャー2号”が撮影した天王星と海王星の写真として一般的に出回っている画像は、両惑星を肉眼で見た“真の色”を忠実に反映したものではありません。
海王星の画像はコントラストが強調されていて、実際よりも青色が強すぎることが天文学者の間では知られています。
一方、天王星はコントラストが強調されていないので、海王星と比べれば比較的“真の色”に近いものでした。
撮影画像から得られる情報を強調するために色を変更することは、天文学に限らず一般的な科学研究の場ではよく行われています。
海王星の場合だと、表面の雲や風、帯状の構造を強調するためにコントラスト補正がかけられ、その結果として実際よりも深すぎる青色が現れることになりました。
そのため、補正がかけられた画像には、その内容を示す注釈が必要となります。
実際、当初は海王星の画像も、色の変更に関する注釈付きで公開されていました。
ところが、いつ頃からか、注釈が付かない画像が掲載されることが多くなるんですねー
現在では、海王星の“真の色”が深い青色であるかのように、イメージが定着してしまったようです。
これは、一般向けの天文系サイトでも同様で、例えばNASAの海王星に関するページでは、“Big blue”や“rich blue color”と表現する一方で、画像補正については触れられていません。
肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像
今回の研究では、肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像を出力するため、ハッブル宇宙望遠鏡の撮像分光器“STIS”、および南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”搭載の3次元分光装置“MUSE”によって取得された観測データを使用しています。
ただ、これらの観測データから得られる色(光の波長)は複数の情報が混ざっているので、そのままでは画像として出力することができません。
また、目の細胞は光の波長によって感度が大きく異なるので、単純計算で得られる画像が、肉眼で見る実際の色を反映しているとは限らないんですねー
そこで、研究チームは、目の細胞が光の波長に対してどのように反応するのかを調べた2019年の研究を元に、人の目において惑星の色がどのように感じられるのかを忠実に再現するモデルを独自に開発。
モデルには、靄(もや)による影響も盛り込まれていました。
そして、このモデルを“ボイジャー2号”とハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”で撮影された画像に適用しています。
その結果、肉眼で見た天王星と海王星に最も近い“真の色”は、どちらもわずかに緑色を帯びた淡い青色と確定。
海王星は天王星と比べてやや青色が強いものの、一般的に知られている深い青色とは程遠い色実になっています。
それでも、現れたわずかな青色の違いは、天王星と比べて海王星の方が大気中に含まれる“もや(ヘイズ)”の層が薄く、それだけ大気の深部まで入り込みやすい光から、赤色や緑色の波長が吸収されていることを示していました。
天王星は数十年かけて少しずつ変色している
今回の研究は、「天王星と海王星の色にまつわる長年の誤解を解く」 っという側面もありますが、研究の主題はそこにはありませんでした。
長年にわたって、わずかに変化する天王星の色の謎に迫る研究だった訳です。
天王星は、約84年をかけて太陽の周りを公転しています。
アメリカ・アリゾナ州のローウェル天文台で1950年~2016年にかけて得られた天王星の青色と緑色の光の観測データは、天王星が数十年かけて少しずつ変色していることを示していました。
具体的には、天王星は夏至と冬至の時期に緑色が濃くなる傾向にあり、春分と秋分の時期には青色が濃くなる傾向にありました。
この色の変化は、天王星の自転軸の傾きが理由だと考えられています。
天王星の自転軸は公転面に対して横倒しになっているので(約98度傾いている)、文字通り公転面を転がりながら太陽を周回しているといえます。
地球から観察すると、天王星が夏至や冬至の時期には主に極地が見えるのに対し、春分や秋分の時期には主に赤道が見えることになります。
天王星の1年は地球の84倍もあり、季節も84倍長く続くことになるので、天王星の季節の変化は長期的な色の変化として観察される訳です。
研究では、観測データとモデルを比較することで、天王星の極地付近と赤道付近のそれぞれの色を分離することに成功。
極地は赤道に比べて緑色や赤色の光の反射が多いので、その分だけ緑色を帯びて見えることを明らかにしています。
天王星の極地が多くの太陽光に照らされるのは夏至と冬至の時期で、極地が赤道よりも緑色に見るということは、夏至や冬至の天王星が春分や秋分の時期よりも緑色に見える理由になります。
一方、天王星の極地が赤道に比べて、より多くの赤色や緑色の光を反射する理由も突き止めています。
赤色や緑色の光を吸収する大気中のメタンが、極地は赤道の約半分と少ないこと、さらに低温で固体の粒となったメタンの結晶が、赤色や緑色の光を反射することにあるそうです。
天王星や海王星は、太陽から遠く離れた軌道を84年もかけて一周しているので、その変化は非常にゆっくりと現れ、地球からも遠いので詳細な観測も困難な状況です。
今回の研究では、天王星の極地と赤道の環境の違いという、得ることが難しいデータを知ることに繋がりました。
これは、長年の観測データがあってこその成果になります。
長年に渡る基礎的なデータの蓄積が、いかに重要かを示すひとつの結果と言えますね。
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でも、公開されている天体の画像には、様々な事情で補正がかけられていることがあります。
なので、実際に人間の目で見たイメージを、正確に反映しているとは限らないんですねー
今回の研究では、独自開発した惑星の色モデルに、ハッブル宇宙望遠鏡と超大型望遠鏡“VLT”の観測データを適用。
これにより、天王星と海王星を肉眼で見た際の正確な“真の色”を確定しています。
その結果、天王星と海王星の“真の色”は、緑色を帯びた淡い青色で、海王星の方がわずかに青色が強いことを除けば、ほとんど区別できないほどそっくりなことが分かりました。
この研究は、長年持っていた天王星と海王星のイメージを変えるだけでなく、天王星の極地と赤道の環境の違いといった、観測が難しい遠方の惑星の環境についても重要な洞察を与えてくれるようです。
この研究は、オックスフォード大学のPatrick Irwinさんたちの研究チームが進めています。
図1.今回の研究で出力された、天王星と海王星の“真の色”の画像。わずかに海王星の方が青いものの、あまり大きな違いがあるようには見えない。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは筆者(彩恵りり氏)による) |
得られる情報を強調するための色変更
天王星と海王星は、2つとも太陽系の最も外側を公転する惑星で、どちらも巨大氷惑星という同じ分類に属しています。
両惑星とも概ね青色の惑星と言えますが、天王星は空のように淡い青色、海王星は海のように深い青色、というイメージが一般的です。
この青色は、両惑星の大気中に含まれている数%のメタンが、主に赤色、次いで緑色の光を吸収することで発生しています。
その天王星と海王星の名前は、実は色に因んで命名されています。(※1)
ただ、外観のイメージを決定づけたのはNASAが打ち上げた惑星探査機“ボイジャー2号”による撮影画像でした。
※1.天王星と海王星は、望遠鏡で青く見える星なので、その名称はそれぞれギリシア神話の天空の神“ウーラノス”とローマ神話の海の神“ネプトゥーヌス”に因んでいて、日本語での名称はこれらを翻訳した中国語名に直接由来している。天王星と海王星は、近代天文学の発展後に発見された惑星なので、発見を主張する人々から様々な名称が提案され、現在の名称は発見から数十年後に定着している。
“ボイジャー2号”は天王星には1986年、海王星には1989年に接近し、それぞれの姿を撮影。現在でも、両惑星に接近した探査機は“ボイジャー2号”が唯一の存在になります。
図2.天王星と海王星の“写真”として一般的に知られている画像。コントラストを強調しているので、本来は“真の色”ではないことを示す注釈が必要。でも、その情報がいつの間にか欠落したことで、天王星と海王星に大きな色の差があるかのようなイメージが定着した。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳およびトリミングは彩恵りり氏による) |
海王星の画像はコントラストが強調されていて、実際よりも青色が強すぎることが天文学者の間では知られています。
一方、天王星はコントラストが強調されていないので、海王星と比べれば比較的“真の色”に近いものでした。
撮影画像から得られる情報を強調するために色を変更することは、天文学に限らず一般的な科学研究の場ではよく行われています。
海王星の場合だと、表面の雲や風、帯状の構造を強調するためにコントラスト補正がかけられ、その結果として実際よりも深すぎる青色が現れることになりました。
そのため、補正がかけられた画像には、その内容を示す注釈が必要となります。
実際、当初は海王星の画像も、色の変更に関する注釈付きで公開されていました。
ところが、いつ頃からか、注釈が付かない画像が掲載されることが多くなるんですねー
現在では、海王星の“真の色”が深い青色であるかのように、イメージが定着してしまったようです。
これは、一般向けの天文系サイトでも同様で、例えばNASAの海王星に関するページでは、“Big blue”や“rich blue color”と表現する一方で、画像補正については触れられていません。
肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像
今回の研究では、肉眼で見た色に最も近い天王星と海王星の画像を出力するため、ハッブル宇宙望遠鏡の撮像分光器“STIS”、および南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設された超大型望遠鏡“VLT”搭載の3次元分光装置“MUSE”によって取得された観測データを使用しています。
ただ、これらの観測データから得られる色(光の波長)は複数の情報が混ざっているので、そのままでは画像として出力することができません。
また、目の細胞は光の波長によって感度が大きく異なるので、単純計算で得られる画像が、肉眼で見る実際の色を反映しているとは限らないんですねー
そこで、研究チームは、目の細胞が光の波長に対してどのように反応するのかを調べた2019年の研究を元に、人の目において惑星の色がどのように感じられるのかを忠実に再現するモデルを独自に開発。
モデルには、靄(もや)による影響も盛り込まれていました。
そして、このモデルを“ボイジャー2号”とハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”で撮影された画像に適用しています。
その結果、肉眼で見た天王星と海王星に最も近い“真の色”は、どちらもわずかに緑色を帯びた淡い青色と確定。
海王星は天王星と比べてやや青色が強いものの、一般的に知られている深い青色とは程遠い色実になっています。
それでも、現れたわずかな青色の違いは、天王星と比べて海王星の方が大気中に含まれる“もや(ヘイズ)”の層が薄く、それだけ大気の深部まで入り込みやすい光から、赤色や緑色の波長が吸収されていることを示していました。
図3.一般的に知られている画像と、今回の研究で示された“真の色”をそれぞれ比較したもの。特に海王星は大きな違いが見て取れる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford/日本語意訳は彩恵りり氏による) |
天王星は数十年かけて少しずつ変色している
今回の研究は、「天王星と海王星の色にまつわる長年の誤解を解く」 っという側面もありますが、研究の主題はそこにはありませんでした。
長年にわたって、わずかに変化する天王星の色の謎に迫る研究だった訳です。
天王星は、約84年をかけて太陽の周りを公転しています。
アメリカ・アリゾナ州のローウェル天文台で1950年~2016年にかけて得られた天王星の青色と緑色の光の観測データは、天王星が数十年かけて少しずつ変色していることを示していました。
具体的には、天王星は夏至と冬至の時期に緑色が濃くなる傾向にあり、春分と秋分の時期には青色が濃くなる傾向にありました。
この色の変化は、天王星の自転軸の傾きが理由だと考えられています。
天王星の自転軸は公転面に対して横倒しになっているので(約98度傾いている)、文字通り公転面を転がりながら太陽を周回しているといえます。
地球から観察すると、天王星が夏至や冬至の時期には主に極地が見えるのに対し、春分や秋分の時期には主に赤道が見えることになります。
天王星の1年は地球の84倍もあり、季節も84倍長く続くことになるので、天王星の季節の変化は長期的な色の変化として観察される訳です。
図4.2014年~2022年にかけてハッブル宇宙望遠鏡の“WFC3(広視野カメラ)”によって取得された天王星の画像を、今回の研究を元に補正したもの。線は北緯35度、南緯35度、および赤道の緯度を表している。赤道を見ている2014年と極地を見ている2022年の画像を比較すると、その色が違うことが分かる。(Credit: Patrick Irwin, University of Oxford) |
極地は赤道に比べて緑色や赤色の光の反射が多いので、その分だけ緑色を帯びて見えることを明らかにしています。
天王星の極地が多くの太陽光に照らされるのは夏至と冬至の時期で、極地が赤道よりも緑色に見るということは、夏至や冬至の天王星が春分や秋分の時期よりも緑色に見える理由になります。
一方、天王星の極地が赤道に比べて、より多くの赤色や緑色の光を反射する理由も突き止めています。
赤色や緑色の光を吸収する大気中のメタンが、極地は赤道の約半分と少ないこと、さらに低温で固体の粒となったメタンの結晶が、赤色や緑色の光を反射することにあるそうです。
天王星や海王星は、太陽から遠く離れた軌道を84年もかけて一周しているので、その変化は非常にゆっくりと現れ、地球からも遠いので詳細な観測も困難な状況です。
今回の研究では、天王星の極地と赤道の環境の違いという、得ることが難しいデータを知ることに繋がりました。
これは、長年の観測データがあってこその成果になります。
長年に渡る基礎的なデータの蓄積が、いかに重要かを示すひとつの結果と言えますね。
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