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中性子星の中心部は最も硬いはず! でも、重い中性子星の中心部では物質構成が変化して“柔らかい”核になっている?

2023年06月17日 | 宇宙 space
太陽の10~30倍程度重い恒星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には極めて高密度な天体“中性子星”が形成されることがあります。

中性子星は、主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在。
そこには、地球の約50万倍の質量が詰まっていて、一般に強い磁場を持つものが多い天体です。

多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。

中性子星は、密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もあります。
内部は極めて高密度・高エネルギーな環境なので、正確な性質はほとんど分かっていませんでした。
中性子星のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada)
中性子星のイメージ図。(Credit: ESO/L. Calçada)

中性子星の内部の様子

今回の研究では、いくつかの中性子星の観測データと理論計算を駆使し、中性子星の内部の様子を探ろうとしています。
この研究を進めているのは、中国科学院のMing-Zhe Hanさんたちの研究チームです。
研究に用いられたのは、中性子星同士の合体をとらえた重力波“GW170817”、正確な大きさが判明している中性子星“PSR J0030+0451”、最大級の重さを持つ中性子星“PSR J0740+6620”のデータでした。

これらの観測データと、原子核に関連する研究データや理論を組み合わせることで、研究チームは中性子星の内部状態のシミュレーションを実施。
すると、特に重い中性子星について、これまでの予測とは異なる結果が得られたんですねー

天体サイズの物体の場合、中心部に向かえば向かうほど物質は強く圧縮されるので、中心部が一番硬くなる傾向にあります。

中性子星の場合だと、構成する物質の大部分は中性子でできた原子核だと考えられています。
なので、中心部に至るまでそのような構成だとすれば、中性子星の中心部は最も硬くなるはずです。

でも、極端に重い中性子星のシミュレーションでは、最も硬くなる部分は中心部ではなく、その周辺部であるという結果に…
つまり、重い中性子星は奇妙なほどに“柔らかい”核(コア)を持つことになったわけです。

重い中性子星の中心部では物質構成が変化している

この結果は、重い中性子星の中心部では物質構成が変化していると仮定することで、説明できる可能性があります。

研究チームが考えているのは、重い中性子星の中心部は原子核でできておらず、原子核を構成する中性子や陽子が分解し、素粒子であるクォークがむき出しで存在する“クォーク物質”の状態にあるということ。
太陽の2.14倍以上の質量を持つ中性子星が、クォーク物質でできた核を持つ可能性が高いと推定しています。

物質構成が異なるという仮定は、中心部が固くないことを示したシミュレーション結果で説明することができます。

太陽の2.14倍という質量は、それ以上重ければ中性子星が潰れてブラックホールになってしまうとされる“トルマン・オッペンハイマー・ヴォルコフ限界”の98%に相当します。

また、低い確度で見積もっても、太陽の2.01倍以下の質量の中性子星にクォーク物質の核はありそうにないことも推定されています。

このシミュレーション結果によると、奇妙な核を持つのはほんの一握りの中性子星であることになります。

中性子星の中心部は、物質の極限状態が保たれている興味深い場所であり、誕生直後の宇宙に近い環境と言えます。

極限状態の研究は、私たちが身近に観察している物質の性質を決める様々な物理的パラメーターを知るために必要な研究でもあります。

意外かもしれませんが、中性子星に奇妙な核が存在するか否かという疑問を解き明かすための研究は、物質でできている私たち自身とも縁遠い話ではないのかもしれませんね。


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