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中性子星同士の合体で生まれた残骸には何が起こるのか? 重力波、ニュートリノによる冷却や重力崩壊によるブラックホールへの進化

2024年08月13日 | 宇宙 space
中性子星同士の合体は、計り知れないほどのエネルギーが放出され、時空にさざ波をたてる非常に激しい宇宙のイベントと言えます。

これらの衝突の結果から生じる残骸は、天体物理学者にとって大きな関心の的であり、その進化と最終的な運命は極限状態における物質の性質を理解する上で重要な意味を持ちます。

今回の研究では、ペンシルベニア州立大学のスーパーコンピュータを用いてシミュレーションを実施。
これを通じて、中性子星合体の残骸がどのように冷却され、場合によってはブラックホールへと崩壊していくのかを調べています。

その結果、合体残骸の中心部は表面よりも温度が高く、対流が発生しない可能性が示唆されました。
この発見は、中性子星合体やブラックホール形成に関する謎を解き明かす上で、重要な手掛かりとなるようです。
この研究は、ペンシルベニア州立大学のDavid Radiceさんを中心とする研究チームが進めています。
本研究の詳細は、アメリカの天体物理学専門誌“アストロフィジカル・ジャーナル・レター”に“Ab-initio General-relativistic Neutrino-radiation Hydrodynamics Simulations of Long-lived Neutron Star Merger Remnants to Neutrino Cooling Timescales”として掲載されました。DOI:10.3847 / 1538-4357 / AD0235
図1.合体から約100ミリ秒後の中性子星合体残骸の赤道面(下)と子午線面(上)の質量密度を示す疑似カラープロット。(Credit: David Radice)
図1.合体から約100ミリ秒後の中性子星合体残骸の赤道面(下)と子午線面(上)の質量密度を示す疑似カラープロット。(Credit: David Radice)


中性子星同士の合体によって生まれた残骸

2つの中性子星が互いの周りを螺旋状に回転すると、重力波の形でエネルギーを失っていき、最終的には衝突して合体することになります。
合体直後に生まれるのが、非常に高温で密度が高く、激しく回転する塊(残骸)です。
この残骸の進化と最終的な運命は、元の星、状態方程式、および合体中に生成される磁場の強度を含む、いくつかの要因によって異なってきます。

中性子星合体の残骸を構成するのは、質量の大部分を占める“中心残骸”と、その周りを高速で回転する高温物質の環“降着円盤”の二つです。

通常、中心残骸の質量は大きく、急速に回転していて、重力的に結合した状態になっています。
その組成と構造は、元の星の質量と状態方程式を含むいくつかの要因に依存しています。

この中心残骸の温度はコアよりも表面の方が高く、これは合体中に生成される激しい流体力学運動と、ニュートリノの捕捉による残骸外層の優先的な加熱の結果として説明することができます。

降着円盤は、合体中に星間空間にバラ撒かれた物質が、残骸の周りに形成した円盤状の構造です。
この円盤は、総質量のわずかな部分しか含んでいませんが、かなりの量の角運動量を持つことになります。

降着円盤の存在は、残骸の長期的な進化と安定性に大きな影響を与え、角運動量とエネルギーを再分配するという役割があります。


残骸はエネルギーと角運動量を重力波の形で急速に失っていく

中性子星合体の残骸の進化は、“重力波の放出”と“ニュートリノの冷却”といった二つのプロセスで進みます。

一般相対性理論によると、ブラックホールや中性子星のような高密度な天体の周りでは、時空(時間と空間)が歪んでいます。
このような高密度な天体が運動(や合体)することで、歪みが波として宇宙空間に伝播するんですねー
これが“時空のさざ波”こと重力波です。

中性子星合体の場合、2つの星が互いの周りを螺旋状に回転し、最終的に合体するにつれて重力波が放出されていきます。
重力波の放出は、合体中の中性子星からエネルギーと角運動量を運び去り、2つの星が螺旋状に近づき、最終的に合体する原因となります。

今回の研究では、ペンシルベニア州立大学のスーパーコンピュータを用いてシミュレーションを実施。
このシミュレーションで示唆されたのは、合体後の最初の数十ミリ秒間が重力波の放出にとって重要となるというものでした。

この間に残骸は、重力波の形でかなりの量のエネルギーと角運動量を急速に失い、その質量と回転を急速に減少させていくことになります。
このことから、合体後の最初の約20ミリ秒の間、重力波の放出が残骸のダイナミクスを支配していると言えます。


ニュートリノは残骸の内部から容易に逃げエネルギーを運び去っている

“幽霊粒子”とも呼ばれるニュートリノは、他の物質とほとんど相互作用をしない素粒子です。
この素粒子は、中性子星の合体を含む、星のコアで発生する核反応中に大量に生成されます。

ただ、ニュートリノは物質との相互作用が弱いので、残骸の内部から容易に逃げることができ、エネルギーを運び去ってしまいます。
このニュートリノによる冷却は、残骸の熱的進化において重要な役割を果たし、時間の経過とともに温度を下げていきます。

ニュートリノの冷却でも、重要となるのは合体後の最初の数十ミリ秒間です。
この間に残骸は、重力波の放出によって失われるエネルギーよりも多くのエネルギーを、ニュートリノの形で放射することになるからです。

ニュートリノの光度は、合体後の最初の数ミリ秒間でピークに達し、その後は残骸が冷えてニュートリノの光度が低下するにつれて徐々に減衰していきます。

ニュートリノの放出は、残骸の熱進化に影響を与えるだけでなく、その組成は電子分率の進化にも重要な役割を果たします。
その電子分率(陽子の数に対する陽子と中性子の総数の比率)は、中性子星物質の状態方程式と、結果として生じる残骸の性質を決定する上で重要な役割を果たすことになります。

本研究では、電子ニュートリノの光度よりも反電子ニュートリノの光度が、初期には大きかったことを示唆しています。
これは、ベータ平衡が、合体後に達成される極端な密度より高い電子分率にシフトするという事実に起因しています。
その結果、残骸の外層で電子分率が時間の経過とともに増加することが観測されます。


中性子星合体による残骸の安定性

中性子星合体の残骸の安定性にとって重要な要素の一つが、対流が発生するかどうかです。

対流は、多くの星に見られる効率的なエネルギー輸送メカニズムで、高温の物質が上昇し、低温の物質が下降することで発生します。
ただ、シミュレーションが示唆していたのは、中性子星の残骸では対流が発生しない可能性があることでした。
これは、主に残骸がコアよりも表面の方が高温だという逆温度プロファイルを生成するという事実に起因しています。

この特異な温度プロファイルは、対流プルームの形成を防いでしまうことに…
その結果、ニュートリノの放出による冷却が、残骸の主要な冷却メカニズムとなります。
これは、残骸が対流に対して安定していることを示唆していますが、残骸の長期的な安定性に影響を与える可能性のある持続的な差動回転を示唆しています。


磁場が果たす長期的な進化における重要な役割

磁場は中性子星合体の残骸の長期的な進化において、重要な役割を果たすと考えられています。

磁場は、磁気乱流、特に磁気回転不安定性(MRI)を介して角運動量を輸送できます。
磁気回転不安定性は、差動回転する導電性流体で発生する可能性があり、小さな磁場を指数関数的に増幅し乱流を発生させます。
この乱流は、角運動量を外側に輸送し、降着円盤の粘性に寄与する可能性があります。

さらに、磁場は残骸の磁気圏からエネルギーと角運動量を運び去ることができる、磁気駆動アウトフローの発生にも役割を果たす可能性があります。

これらのアウトフローは、電波からガンマ線までの広範囲の電磁放射を生成する可能性があり、中性子星合体の観測的特徴に寄与する可能性があります。
でも、これらのプロセスの詳細なダイナミクスは複雑なので、完全に理解するにはより洗練された数値シミュレーションが必要となります。


最終的な運命を決定する残骸の状態方程式

残骸の長期的な進化と最終的な運命は、その質量と角運動量、並びに中性子星物質の状態方程式によって決定されます。

残骸が充分に重い場合、最終的には重力崩壊を起こしてブラックホールを形成する可能性があります。
逆に、残骸がより軽い場合には、長期にわたって安定して回転する中性子星として存在する可能性があります。

残骸の状態方程式は、その性質と進化に影響を与えることになるので、残骸の最終的な運命を決定する上で重要な役割を果たすことになります。

ただ、中性子星合体の残骸について物理学を完全に理解するには、さらなる調査が必要となります。
そして、下記のように解決されていない問題もあるんですねー

  1. 中性子星物質の状態方程式は、残骸の性質と進化にどのように影響するのか?

  2. ニュートリノは、残骸の冷却と組成にどのように影響するのか?

  3. 磁場は、残骸の長期的な進化と電磁信号にどのような役割を果たすのか?

  4. 残骸の最終的な運命は何になるのか?いつかは重力崩壊によりブラックホールとなるのか、それとも別のコンパクトな天体として存在することになるのか。

これら未解決の問題に対しては、将来の理論的および観測的研究が必要になります。
将来的には、天体物理学におけるエキサイティングなフロンティアに関する理解が、さらに深まるはずです。

特に、残骸のダイナミクスにおける磁場の役割を理解するには、現実的な微視的物理学を備えた高解像度の一般相対論的磁気流体力学シミュレーションが必要となるようです。


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