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これまでの予想の4倍以上! 宇宙最大の爆発現象“ガンマ線バースト”の隠れた爆発エネルギーを測定

2023年01月02日 | 宇宙 space
今回、国際研究チームが世界で初めて成功させたのは、宇宙最大の爆発現象である“ガンマ線バースト”の電波と可視光における偏光の同時観測。
観測には、アルマ望遠鏡とヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡“VLT”を用いられました。
 今回の研究を進めているのは、台湾・国立中央大学/MITOS Science CO., LTD.の浦田裕次氏、東北大学学際科学フロンティア研究所(兼務 大学院理学研究科)の當真賢二准教授、同大学大学院理学研究科の桑田明日香氏(博士後期課程1年生)らを中心とした国際研究チームです。
この観測により、偏光を使わなければ見えない隠れたエネルギーを含めたガンマ線バーストの本当の爆発エネルギーを推定。
これまでの推定の4倍以上となることが分かってきました。

この結果により修正を迫られる可能性があるのが、典型的なロングガンマ線バーストの起源となる星の重さや爆発の理論です。

宇宙で最初に誕生した星は、それが引き起こすガンマ線バーストの観測によって探すことができます。
そして、その星の重さを測定することは、宇宙の進化史の解明にもつながるようです。

宇宙最大の爆発現象“ガンマ線バースト”

ガンマ線バーストは、宇宙最大規模の爆発現象であり、非常に高いエネルギーを持った光であるガンマ線が短時間観測されます。
 ガンマ線バーストは、0.01秒から数時間程度にわたってガンマ線が突発的に観測される現象。1960年代の冷戦下に宇宙空間での核実験を監視する衛星によって発見された天体現象。発見から40年ほどはどのような天体が発生源か全く分かっていなかったが、近年の研究によって宇宙最大の爆発現象であり、大きく2種類の天体現象を起源としていることが明らかになっている。ガンマ線放射の継続時間によって2種類(ロングガンマ線バーストとショートガンマ線バースト)に分類される。ロングガンマ線バーストは、大質量星の重力崩壊が原因であるとする説が有力(重力崩壊は大質量星が最期を迎える際、自らの重力によって急激に収縮して引き起こす爆発現象)。全天をX線やガンマ線で常にモニター観測すると、1日に1~2回も発生している天体現象。現代の天文学では、いずれの現象も初期宇宙の探査やマルチメッセンジャー天文学を進める上で欠かせない天体現象になっている。
その特徴から、ショートガンマ線バーストとロングガンマ線バーストに分類されています。

ショートガンマ線バーストが発生すると考えられているのは、中性子星同士や中性子星とブラックホールの合体現象です。
その時に重力波も生じるので、マルチメッセンジャー天文学の対象になっています。
 一般相対性理論によると、中性子星のような高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪んでいる。このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播する。これを重力波という。2015年にブラックホール同士が合体するときに作られた重力波が初めて直接検出され、重力波を使った新しい天文学研究が爆発的に進展している。
 マルチメッセンジャー天文学は、電磁波(光)や重力波、ニュートリノ、宇宙線などを協調して観測・解析することで行う天文学。それぞれが異なる発生メカニズムを持っているので、これらの観測結果を総合することで発生源の正体に迫ることが可能になる。
ロングガンマ線バーストは、特殊な重い星が、その一生の最後に起こす爆発現象です。

遠方宇宙でも発生するロングガンマ線バーストは、宇宙で最初に誕生した星でも発生すると予想され、宇宙の成り立ちを観測することにおいても重要な天体現象になります。

つまり、ガンマ線バーストは、現代の天文学研究に欠かせない重要な天体現象というわけです。

爆発エネルギーが光に変換される効率

ショートとロングの2つのガンマ線バースト。
どちらのガンマ線バーストも膨大な爆発のエネルギーを様々な波長の光に変換します。
この光は、ガンマ線から電波までの幅広い波長で観測されています。

爆発エネルギー自体を直接見ることはできません。
でも、光は様々な望遠鏡で観測することができるので、その光を集めて積算することで、どのくらいの爆発エネルギーであったかを推定することはできます。

ただ、爆発エネルギーが光に変換される効率は、これまで測定することができなかったんですねー

変換効率が低い場合だと、観測される光は、爆発エネルギーのごく一部だけを見ていることになります。
逆に、変換効率が高い場合には、見える光だけを積算することで、爆発エネルギーを精密に測れることになります。

今回の研究で成功したのは、この変換効率を偏光という光の振動方向の偏りを手掛かりに、初めて測定することでした。

複数の大型望遠鏡を連携させて偏光を測定する

日常生活でも偏光の特徴は、サングラスや車の遮光フィルムなどで利用されています。

川や海などの水面のキラキラした反射光は偏光度が高く、偏光サングラスで見るとそれが取り除かれ、水の中がクリアに見えますよね。

ただ、サングラスをかけるのは簡単ですが、天文学観測では偏光測定は格段に難しく、あまり頻繁に行うことがありません。

それは偏光測定では、地球から典型的に100億光年も離れたガンマ線バーストの光をとらえて、その光をさらに偏りに分割し、微弱な信号を取り出す必要があるからです。
そのため、人類が現在使うことができる最も大型の観測装置を使うことになります。

さらに、波長の異なる可視光と電波で偏光測定するには1台の望遠鏡ではなく、複数の大型望遠鏡を緊密に連携させる必要もあります。

その目的のため研究チームが用いたのは、ヨーロッパ南天天文台が運用する超大型望遠鏡“VLT”と世界最大の電波望遠鏡“アルマ”でした。
 超大型望遠鏡“VLT(Very Large Telescope)”は、ヨーロッパ南天天文台が南米チリのパラナル天文台(標高2635メートル)に建設した口径8.2メートルの4基の光赤外線望遠鏡の総称。それぞれ1基ずつ独立に観測でき、ガンマ線バーストをはじめ様々な観測を行っている。4基の望遠鏡を光ファイバーで結合して光干渉計としても活用されている。日本の“すばる望遠鏡”と共に世界最大の光赤外線望遠鏡の1つ。“すばる望遠鏡”と違い、南半球からでしか見えない宇宙を観測している。
 日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。

ガンマ線バーストの正体に迫る

研究チームが観測したのは、2019年12月21日に発生したガンマ線バースト“GRB191221B”でした。(図1)
 “GRB191221B”は、NASAのガンマ線バースト観測衛星“ニール・ゲーレルス・スウィフト(旧称スウィフト)”が2019年12月21日に発見したガンマ線バースト。この日はガンマ線バーストは2つ発見されていて、2番目に発見されたことから発生年月日“191221”と共に“B”が名前に付けられている。天体までの距離は83億光年、はるか彼方で起きた「典型的な」ガンマ線バーストの一つ。
このガンマ線バーストは、研究チームが世界で初めて電波残光の偏光観測に成功したガンマ線バースト“GRB171205A”の距離5億光年とは違い、83億光年も離れた遠方宇宙で起きた「典型的な」ガンマ線バーストでした。
 “GRB171205A”は、NASAのガンマ線バースト観測衛星“スウィフト”が2017年12月5日に発見したガンマ線バースト。2017年12月5日に最初に発見されたガンマ線バーストなので、発生年月日と合わせて“GRB171205A”と名付けられた。典型的なガンマ線バーストと比べて5億光年と非常に近い宇宙で発生し、観測史上最も明るいサブミリ波残光も発見された。ガンマ線バーストと重たい星が引き起こす超新星爆発との関連が詳しく観測されたイベントの一つ。
「典型的」というのは、日本がNASAなどとの共同で開発・運用を行い、1000以上のガンマ線バーストをとらえたX線天文衛星“すざく”の統計的な解析結果と比べることで明らかになったことでした。
図1.ガンマ線バースト“GRB191221B”のイメージ図(左)と普通の光と偏光した光で観測した“GRB191221B”の観測画像(右下挿入図)。爆発のエネルギーが光に変換されたもの(残光)が観測されるが、偏光を使うことで爆発エネルギーを正確に推定することができる。(Credit: Urata et al./Yu-Sin Huang/MITOS Science CO., LTD.)
図1.ガンマ線バースト“GRB191221B”のイメージ図(左)と普通の光と偏光した光で観測した“GRB191221B”の観測画像(右下挿入図)。爆発のエネルギーが光に変換されたもの(残光)が観測されるが、偏光を使うことで爆発エネルギーを正確に推定することができる。(Credit: Urata et al./Yu-Sin Huang/MITOS Science CO., LTD.)
この典型的なガンマ線バーストの残光の同時偏光観測を行うことが出来たのは、爆発からわずか2.5日後のことでした。

偏光観測では、天体の明るさが暗いと有益な結果を得られません。

そのため研究チームは、爆発から最初の2日間は可視光と電波の残光の明るさを測定し、ときどき刻々と変化するガンマ線バースト残光が十分明るいかどうかを確認しなければなりませんでした。

同時偏光観測が成功したのは、研究チームのこれまでの観測経験をもとに、偏光観測に適切かを素早く見極める手法を確立していたおかげです。
その結果、明らかになったのは電波の偏光度が可視光よりも低いことでした。

波長による偏光の違いから、残光を放射している衝撃波の詳細な状態を明らかにできます。

特に、偏光を使わなければ観測できない隠れたエネルギーの割合の推定です。
つまり、爆発エネルギーが光へ変換される効率を測定することができます。

これまで100%と想定されていた変換効率ですが、今回の結果は約30%以下となっています。

そう、この典型的なガンマ線バーストの本当の爆発エネルギーは、これまでの方法の推定よりも3.5倍以上大きかったわけです。

爆発エネルギーの元になるのは、爆発前の星の重力のエネルギーです。
もし、10倍以上大きければ、典型的なロングガンマ線バーストの起源となる星の重さや爆発の理論の修正を迫ることになります。

宇宙で最初に誕生した星は、それが引き起こすロングガンマ線バーストを検出することで発見できる可能性があります。
その重さの推定は、宇宙の進化史の解明にもつながるものです。

さらに、史上最高エネルギーのガンマ線が検出された2022年10月9日のガンマ線バーストにも、今回の手法が適用されています。

このガンマ線バーストは、100~1000年に一度の歴史的なイベントと言われていて、この爆発エネルギーの光への変換効率を測ることで、ガンマ線バーストの正体に迫れることが期待されます。

ガンマ線バーストという宇宙最大の爆発現象の正体を明らかにする。
それには、今回の測定手法を他の様々な種族のガンマ線バーストに適用し、観測れを増やすことが重要になりますね。


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