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120億光年も彼方の初期宇宙で赤ちゃん銀河同士の合体を発見! 秘訣は重力レンズ効果とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の組み合わせ

2023年12月06日 | 銀河・銀河団
国際プロジェクト“CAnadian NIRISS Unbiased Cluster Survey(CANUCS)”では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(※1)を用いた観測により、初期宇宙において“赤ちゃん銀河”同士が合体、急成長している現場を発見しています。

この成果は、京都大学大学院 理学研究科の浅田喜久大学院生、アメリカ・セントメアリーズ大学大学院理学研究科のSawicki Marcin教授たちの国際共同研究チームによるもの。
京都大学により9月28日に発表されています。

詳細は、英国王立天文学会が刊行する天文学術誌“Monthly Notices of the Royal Astronomical Society Letters”に掲載されました。
※1.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。


銀河の宇宙論的進化の様子を調べるプロジェクト

CANUCSは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、銀河の宇宙論的進化の様子を調べることを目的の一つとした大規模観測プロジェクトです。

120億光年以上も遠方の銀河の様子を詳細に調べるには、可視光線の情報が重要になります。

ただ、そのような遠方の銀河からの可視光線は、宇宙の膨張により2μmよりも長波長に伸びてしまうので、ハッブル宇宙望遠鏡では観測は不可能でした。
でも、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の赤外線の波長による観測なら、そのような波長でも観測することが可能なんですねー

さらに、CANUCSプロジェクトが目指しているのは、重力レンズ効果(※2)を用いてより遠くの暗い天体の様子を調べること。
重力レンズ効果を受けた恒星や銀河などが発する光は、途中にある天体などの重力によって曲げられ、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えます。
※2.重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。
つまり、重力レンズ効果とジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測を組み合わせることで、CANUCSプロジェクトでは、これまでよりも遥かに暗く、成長初期段階にある遠方銀河の進化の様子を詳しく知ることができる訳です。
今回発見された“赤ちゃん銀河”同士の合体の様子。本来は2つの銀河だが、両銀河は巨大な銀河団の後方に位置しているので、銀河団の重力により光の経路が曲げられた結果、両銀河が二重に観測されている(像Aと像B)。右上図はこの重力レンズ効果の概念図。左下図は実際のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測画像を用いた疑似カラー画像。左上と右下に、2つの銀河のペアが二重に観測されている様子の拡大図が示されている(それぞれ像Aと像B)。(Credit: Marcin Sawicki, Yoshihisa Asada, and the CANUCS collaboration)
今回発見された“赤ちゃん銀河”同士の合体の様子。本来は2つの銀河だが、両銀河は巨大な銀河団の後方に位置しているので、銀河団の重力により光の経路が曲げられた結果、両銀河が二重に観測されている(像Aと像B)。右上図はこの重力レンズ効果の概念図。左下図は実際のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による観測画像を用いた疑似カラー画像。左上と右下に、2つの銀河のペアが二重に観測されている様子の拡大図が示されている(それぞれ像Aと像B)。(Credit: Marcin Sawicki, Yoshihisa Asada, and the CANUCS collaboration)


遠方で見つかった銀河同士の衝突現象

今回の研究では、CANUCSプロジェクトで観測された銀河団領域“MACSJ0417.5-1154”の背後に位置する、赤方偏移(※3)5以上(宇宙年齢で約10億歳未満)にある形成初期の銀河の成長について調査を実施。
すると、赤方偏移5.1付近にある2つの超低質量銀河が衝突している様子が発見されたんですねー
※3.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
“ELG1”と“ELG2”と名付けられたこの2つの銀河は、どちらも天の川銀河の1万分の1以下という超低質量で、形成されて間もない銀河だと考えられています。

このような遠方にある超低質量の銀河は極めて暗いので、本来ならジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でも詳細な観測は困難です。
でも、重力レンズ効果によって本来の明るさよりも15倍程度明るく見えるので、詳細な観測ができました。

今回の観測では、複数のカラーフィルタによる撮像観測が行われ、その結果、両銀河とも超低質量だけでなく、星形成活動が活発なことも明らかになっています。

特に両銀河の場合、その特徴的な色から、何らかの要因で最近唐突に星形成活動が活発になったことが示唆されました。

これまでの近傍銀河の観測的研究から、銀河同士の衝突現象は星形成活動を誘発する場合があることが分かっています。
このことから、活発な星形成活動は銀河衝突に由来すると考えられ、両銀河は今まさに銀河同士の衝突を経験しているようです。

今回の研究では、両銀河の進化の大部分が、銀河の衝突によって行われるのではないかと考えています。

これまで細々と星を作ってきた両銀河ですが、今回の衝突により急激な星形成活動が誘発され、大量の星が作られています。
今後、両銀河が合体し、1つの銀河になる時には、星の質量にして元々の銀河の4倍以上の銀河へと成長する可能性があるそうです。

両銀河は、重力レンズ効果によって約15倍の増光を受けた極めて稀な天体であり、初期宇宙における形成初期の銀河の進化の様子を調べる上で、絶好の観測対象だと言えます。

今回の研究結果は、複数のカラーフィルタによる撮像観測に基づいたもの。
さらなる調査のためには、分光観測による銀河のスペクトル解析が必要不可欠となります。

実際、CANUCSプロジェクトによる観測の一環として、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いた分光観測がすでに実施済みで、現在は解析を行っているところです。

さらに、ミリ波サブミリ波などの電波領域での観測を行うことで、両銀河に含まれる分子ガスの様子が明らかになると期待されています。

分子ガスは、星形成の素となる重要な構成要素です。
両銀河中に残されている分子ガスの様子を調べることで、「なぜ銀河衝突によって星形成が促進されたのか」っという、より根源的な謎を解き明かすことに繋がるはずです。


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