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地球型惑星が生命の存在に適した環境になる条件の一つ! 原始星周辺の氷の粒から複雑な有機化合物を発見

2024年04月08日 | 宇宙 space
私たち生命の起源を宇宙の視点から解明することは、宇宙生物学の目的の一つかもしれません。

ビッグバン以降、水素やヘリウムといった元素が生成され、“恒星内部の核融合反応”や“超新星爆発などの激しい天体現象”を通じて、様々な原子や分子が誕生してきました。

このように生成された原子や分子は、恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくので、宇宙の原子や分子は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。

また、これらの過程で生じた炭素を含む有機化合物は、生命の基本的な構成要素になります。
そのため、有機化合物から生命が誕生したシナリオを宇宙の歴史の中で作り上げることは、地球以外の惑星に知的な生命体が存在するのかを考える上で重要なヒントになるはずです。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて、原始星“IRAS 2A”と“IRAS 23385”の周辺から、エタノールや酢酸といった複雑な有機化合物を含む氷の粒を発見したという論文を発表しています。
このことから、地球型惑星に届けられる有機分子の起源の理解を深められるかもしれません。
この研究は、オランダ・ライデン大学のW. R. M. Rochaさんたちの研究グループが進めています。
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”で撮像した原始星“IRAS 23385”。(Credit: NASA, ESA, CSA, W. Rocha (Leiden University)
図1.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”で撮像した原始星“IRAS 23385”。(Credit: NASA, ESA, CSA, W. Rocha (Leiden University)


地球型惑星が生命の存在に適した環境になる条件

単純なアルコールやエステル、ニトリル、エタノールのように、炭素原子1個以上、合計で6個以上の原子を持つ分子は複雑な有機分子(COMs; Complex Organic Molecules)と命名されていて、生命の存在に適した惑星の原料となる材料です。

こうした惑星の原型は、誕生したばかりの恒星“原始星”の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造“原始惑星系円盤”の中で、衝突や合体を繰り返すことで惑星へと進化していきます。

このため、“COMs”が原始星周辺に存在することは、地球型惑星が生命の存在に適した環境になる条件の一つと言えます。

さらに、COMsがガス相に存在するのか、あるいは氷の粒の中に存在するのかという違いは、惑星系に水や有機物質を提供する方法を知る上で重要なこととになります。

地球のように広大な海を持つ惑星は珍しく、多くの地球型惑星は乾燥した地表を持っていると考えられています。

地球型惑星に有機物質が効率よく届けられ広大な海を形成するには、COMsが氷の粒子内に存在する必要があります。
ただ、これまでCOMsは暖かいガス相からしか発見されてきませんでした。


赤外線観測による有機分子の特定

原始星の周辺に存在する有機分子の特定に用いられるのが赤外線観測装置です。

原始や分子は、それぞれ固有の回転運動や振動をしていて、こうした運動は特定の波長の赤外線の吸収に繋がります。
そのため、赤外線を観測することで、どのような原子や分子が存在するのかを知ることができます。
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”で確認された原始星“IRAS 2A”周辺の有機分子。(Credit: NASA, ESA, CSA, L. Hustak (STScI). Science: W. Rocha (Leiden University) )
図2.ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された中間赤外線観測装置“MIRI”で確認された原始星“IRAS 2A”周辺の有機分子。(Credit: NASA, ESA, CSA, L. Hustak (STScI). Science: W. Rocha (Leiden University) )
これまで、メタノール(CH3OH)よりも大きな分子が氷の粒の中から検出された事例はありませんでした。

今回、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡(※1)を用いた観測により、氷の粒に含まれるギ酸メチル(CH3OCHO)、エタノール(CH3CH2OH)、アセトアルデヒド(CH3CHO)、酢酸(CH3COOH)などのCOMsを検出。
さらに、これらのCOMsが氷の粒で形成された可能性があることが明らかになりました。
※1.ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として、2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されている。名称はNASAの第2代長官ジェームズ・E・ウェッブにちなんで命名された。
氷の粒からCOMsが発見された要因の一つとして、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された赤外線観測装置の持つ高い分解能があります。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げらる前に赤外線観測に使用されてきた宇宙望遠鏡として、2020年1月まで運用されてきたNASAの赤外線天文衛星“スピッツァー”があります。

“スピッツァー”は、明るい低質量の原始星を観測するには十分な感度を持っていました。
ただ、スペクトル解像度は高くなかったんですねー

これに対して、2021年12月に打ち上げられたジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、中間赤外線観測装置“MIRI”の中分解能分光(MRS)モードを用いると優れたスペクトル分解能を発揮できます。

“MIRI”は7~8μmの波長で高い感度を発揮し、COMsに対して“スピッツァー”の分解能(約60)を上回る3500~4000程度の分解能を持っています。

原始星“IRAS 2A”が低質量なことから、太陽系の初期段階との類似性をNASAのジェット推進研究所“JPL”が指摘しています。
今回、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が氷の粒からCOMsを発見したことで、ガス相のCOMsは氷の粒が昇華したために発見されたと考えることができます。
このことからも、地球型惑星に届けられる有機分子の起源の理解を深められるかもしれませんね。


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