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低温で暗い恒星を回る惑星は赤外線で発見できる! 赤色矮星を回るスーパーアースは生命探査の重要な観測対象へ

2022年08月13日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
すばる望遠鏡に搭載された赤外線分光器“IRD”を用いた戦略枠観測“IRD-SSP”による最初の太陽系外惑星が発見されました。

見つかった系外惑星“ロス508b”は地球の約4倍の質量があるスーパーアース。
ハビタブルゾーン付近に位置しているので、“ロス508b”の表面では水が液体の状態で存在する可能性があるんですねー

今後、低温恒星の周りの生命居住可能性について検証するための重要な観測対象になるようです。
今回発見した系外惑星の様式図。緑の輪は、惑星の表面に液体の状態で水が存在できるハビタブルゾーンを表している。惑星“ロス508b”は、中心の赤色矮星“ロス508”を楕円軌道(水色の線)で周回している。その軌道の半分以上はハビタブルゾーンより内側(実線部分)、残りはハビタブルゾーンの中にある(破線部分)と推定されている。
今回発見した系外惑星の様式図。緑の輪は、惑星の表面に液体の状態で水が存在できるハビタブルゾーンを表している。惑星“ロス508b”は、中心の赤色矮星“ロス508”を楕円軌道(水色の線)で周回している。その軌道の半分以上はハビタブルゾーンより内側(実線部分)、残りはハビタブルゾーンの中にある(破線部分)と推定されている。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

太陽よりも表面温度が低く暗い恒星

系外惑星の研究は、太陽に似た恒星を回る巨大惑星の発見を契機に近年大きく発展しています。

現在、この研究で注目が集まっているのが、太陽より表面温度が低く光度も暗い“赤色矮星”と呼ばれる恒星の周囲。
実は、この“赤色矮星”の周囲では、“ハビタブルゾーン”に位置する惑星が多く発見されているんですねー

“ハビタブルゾーン”とは、主星(恒星)からの距離が程良く、惑星の表面に液体の水が安定的に存在できる領域です。

この領域にある惑星では生命が居住可能だと考えられていて、太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたります。

“赤色矮星”は太陽と比べると、はるかにゆっくりと明るくなっていくので、生命が芽吹くのに必要な時間が更にあると考えられています。

ただ、赤色矮星は表面温度が低く光度も暗いので、“ハビタブルゾーン”は主星(恒星)から近くなってしまいます。

“赤色矮星”はフレアと呼ばれる恒星表面の爆発現象を頻繁に起こす傾向があるので、その影響が惑星の居住可能性を左右することに…

でも、フレアの発生頻度、惑星の大気や磁場の環境などを考慮した居住可能性の定量的な評価は、これまでされてきませんでした。

非常に暗い天体を探すプロジェクト

銀河系の恒星の約4分の3も占めている“赤色矮星”。
太陽系の近くにも数多く存在していて、私たちの近くにある系外惑星を発見するのに絶好の観測対象になったりします。

もし、太陽系の近傍に大気や表層の詳細な観測が可能な系外惑星を発見することができれば…
そう、太陽系とは大きく異なる環境での生命の有無を議論することが可能になるはずです。

でも、表面温度が4000度以下と低温な“赤色矮星”は、可視光では非常に暗い天体になります。

このため、これまでの可視光分光器を用いた惑星探査では、“プロキシマケンタウリb”など、限られたごく近くの“赤色矮星”の周りの惑星しか発見されてきませんでした。

恒星の中でも太陽系に近い約4.2光年の距離にある“プロキシマケンタウリ”。
このプロキシマケンタウリを公転している地球サイズの“プロキシマケンタウリb”は、2016年に発見された系外惑星。
“プロキシマケンタウリb”は11.2日周期で公転し、その重力に引っ張られて中央の“プロキシマケンタウリ”も11.2日の周期でぶれている。
主星の周りを公転している惑星の重力で、主星が引っ張られると地球からわずかに遠ざかったり近づくことになる。
この動く速度(視線速度)に応じて変化する恒星のスペクトルを読み取ることで検出されたのが、惑星“プロキシマケンタウリb”の存在だった。

とりわけ、表面温度が3000度以下の赤色矮星“晩期赤色矮星”になると、系統的な惑星探査が行われていません。
地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”は、“分光(光をスペクトルに分ける)”を行う“ドップラーシフト法”ほど多くの光子を必要としないので、“トランジット法”による“赤色矮星”周囲の惑星探査が近年進んでいる。
系外惑星探査衛星“TESS”によるトランジット惑星探査では、比較的温度の高い赤色矮星“早期赤色矮星”の周囲の地球型惑星の発見が可能。

宇宙における生命を調べる上で重要な対象であるにもかかわらず、可視光であまりに暗いため観測が困難な“赤色矮星”。

たとえば、30光年離れた位置から見た太陽の明るさは、可視光では5等級、赤外線では3等級。
一方、最も軽い“晩期赤色矮星”は可視光では19等級と非常に暗いのですが、赤外線では11等級と比較的明るいんですねー

“赤色矮星”に対する分光観測の困難さを解決するため、比較的明るい赤外線での高精度分光観測による惑星探査が待たれることになります。

今回、アストロバイオロジーセンターが成功したのは、8メートル級望遠鏡としては世界初の高精度赤外線分光器の開発。
この分光器が、すばる望遠鏡の赤外線ドップラー装置“IRD(InfraRed Doppler)”です。
ドップラーシフト法を用いれば、人が歩く速さ程度の恒星の微妙な速度のふらつきを検出できる。

さらに、この“IRD”を用いた“晩期赤色矮星”を戦略的に観測し惑星を探査するプロジェクトがあるんですねー

それが、2019年より開始されている国際プロジェクト“IRD-SSP”。
“IRD-SSP”は、世界初の“晩期赤色矮星”の周りの系統的な惑星探査で、国内外の研究者約100名が参加しています。

最初の2年間に行われていたのは、小型の惑星も検出可能な雑音の少ない“安定した”赤色矮星を発見するためのスクリーニング観測でした。

“赤色矮星”ではフレアなどの表面活動が高いため、惑星が存在しなくても、その表面活動が恒星の視線速度に変化をもたらす可能性があります。
表面活動の小さい安定した“赤色矮星”のみが、地球のような小さい惑星を探査する対象になるからです。
実は、可視光に比べると赤外線では表面活動の影響が減少するので、同じ精度であれば赤外線観測の方が惑星検出に有利になる。でも、地球型惑星のような軽い惑星を発見するためには、できるだけ活動性の小さい“赤色矮星”を観測することが可視光・赤外線を問わず重要になる。

そして、現在のプロジェクトでは、スクリーニングによって精選された50個程度の有望な“晩期赤色矮星”を集中的に観測する段階に入っています。

赤外線分光器を用いて発見された赤色矮星を回る系外惑星

今回、“IRD-SSP”による最初の系外惑星が見つかったのは地球から約37光年彼方。
太陽の5分の1の重さの赤色矮星“ロス508”の周囲でした。

このことは、赤外線分光器を用いた系統的探査で発見された系外惑星として世界初の成果になるんですねー

系外惑星“ロス508b”の最低質量は地球の約4倍しかなく、中心星から“ロス508b”までの平均的な距離は地球~太陽間の距離の0.05倍。
“ハビタブルゾーン”の内縁部に位置していました。
ドップラーシフト法だけでは原理的に惑星質量の下限値が求められる。仮にトランジェット法による観測ができる惑星系であった場合、その結果と組み合わせて正確に惑星質量が求められる。

興味深いことは“ロス508b”が楕円軌道を持つ可能性が高いこと。
その場合には、約11日の公転周期でハビタブルゾーンを横切ることになります。
“IRD”で観測した赤色矮星“ロス508”の視線速度の周期的な変化。惑星“ロス508b”の公転周期(10.77日)で折り返している。“ロス508”の視線速度の変化は秒速4メートル弱しかなく人が走るよりも遅い程度のごく微小なふらつきを“IRD”がとらえたことが分かる。赤い曲線は観測値へのベストフィットで、正弦曲線からのズレは、惑星の軌道が楕円である可能性が高いことを示している。
“IRD”で観測した赤色矮星“ロス508”の視線速度の周期的な変化。惑星“ロス508b”の公転周期(10.77日)で折り返している。“ロス508”の視線速度の変化は秒速4メートル弱しかなく人が走るよりも遅い程度のごく微小なふらつきを“IRD”がとらえたことが分かる。赤い曲線は観測値へのベストフィットで、正弦曲線からのズレは、惑星の軌道が楕円である可能性が高いことを示している。(Credit: アストロバイオロジーセンター)

“ハビタブルゾーン”にある惑星は表面に液体の水を保持し、生命を宿す可能性があります。

なので、“ロス508b”は赤色矮星の周りの惑星の生命居住可能性について検証するための重要な観測対象になります。

惑星と恒星の距離が近いので、現在の望遠鏡では直接撮像観測のための解像度が足りないのですが、惑星大気の分子や原子の分光観測も重要です。

将来的には、30メートル級望遠鏡による生命探査の観測対象になるはずです。

これまで、低温度星の周りの惑星として知られているのは、“プロキシマ・ケンタウリb”を含めて3個にみ…
“IRD-SSP”によって、引き続き新たな惑星が発見されることが期待されます。

可視光観測に対する赤外線のアドバンテージ

“ロス508b”は、近赤外線分光データのみを用いてスーパーアースの検出に成功した世界初の例になります。
スーパーアースは地球の数倍程度の質量を持ち、主成分が岩石や金属などの固体成分と推定された惑星。

これまで、スーパーアースのような軽い惑星を発見するには、近赤外線観測だけでは足りず、可視光の高精度な視線速度測定による検証が必要でした。

でも、今回の研究で示したのは、“IRD-SSP”単独でも惑星の検出が可能であること。
「可視光では暗すぎて観測が難しいような“晩期赤色矮星”にまで高精度な探索が可能」という“IRD-SSP”のアドバンテージを明確に示したことになるんですねー

“IRD”計画の開始から14年。
まさに“ロス508b”のような惑星を見つけるために、これまで開発・研究が続けられてきました。

今回の発見は、“IRD”の高い装置性能と“すばる望遠鏡”の大口径、そして集中的かつ高頻度のデータ取得を可能にした戦略枠観測の枠組みがあって初めて実現したものです。

今後も“IRD-SSP”では精力的に探査を続けていくことになります。
“低温赤色矮星”という末路の恒星の周りに見つけた惑星での新たな発見が楽しみですね。


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