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最短12年で建設可能! 費用は東京都が負担した東京オリンピック並み! 遠心力で人工重力を生み出せる“小惑星宇宙ステーション”

2023年10月18日 | 宇宙 space
宇宙空間で長期的な住環境を提供する“宇宙ステーション”は、地球外の探査や開発を行う上で重要な中継基地になる可能性を秘めています。

その宇宙ステーションの建設場所として検討されている選択肢の1つに、太陽系内に無数に存在する“小惑星”があります。

ただ、回転による遠心力で人工的に重力を生み出せるほど巨大な宇宙ステーションを小惑星に建設するとなると、必要になる資源も膨大なものになってしまい、遠い未来の話と思われてきました。

でも、ロックウェル・コリンズ社の元技術フェローだったDavid W. Jensenさんは、現在の技術レベルと比較的安価な資金で建設可能な回転式小惑星ステーションの建設方法を提示し、プレプリントをarXivに投稿したそうです。
小惑星を中心にしたトーラス型の宇宙ステーションのイメージ図。(Credit: David W. Jensen)
小惑星を中心にしたトーラス型の宇宙ステーションのイメージ図。(Credit: David W. Jensen)

小惑星は宇宙ステーションの建設に向いている

宇宙ステーションという単語からは、国際宇宙ステーション(ISS)のような宇宙空間に存在する建造物を連想する人が多いと思います。

あるいは、現在検討されている月面基地のように、比較的大きな天体の表面に建設される構造物や、さらには軌道エレベーターのような巨大構造物を想像する人もいるかもしれません。

でも、太陽系に無数に存在する“小惑星”もまた、宇宙ステーションを建設する場所として注目されてきました。

小惑星は地球や月と比べはるかに小さいので、事実上重力を無視できます。

小惑星の中には地球にかなり接近し、相対速度が小さくなるものも多数あるので、到達するのに必要な推進剤(燃料と酸化剤)の量が少なくて済むこと。
また、小惑星そのものを原料にしてステーションの建材を作ることも可能なので、地球から供給する物資の量は最小限で済みます。

さらに、遠心力で人工的な重力を生み出すための回転力を、小惑星の自転から得るなど、他の形式のステーションでは達成することが困難な利点もあります。

ただ、建設には膨大な資源が必要になると予想されているので、実際に建設可能かどうかはあまり検討がされず…
これまで小惑星での宇宙ステーション建設は、ほとんどSFの中での話のように見なされていました。

でも、今回の研究で示されているのは、現在の技術レベルであってもそこまで達成困難な目標ではないことでした。

小惑星の候補と宇宙ステーションの構造

この研究では、“リュウグウ”や“ベンヌ”など、いくつかの小惑星を建設場所の候補として示し、その中の最良の候補として163693番小惑星“アティア(Atira)”を提案しています。

アティラは、本体が直径約4.8キロの小惑星で、直径約1キロの衛星を持っています。

地球とほぼ同じ軌道を公転しているので、ステーションの内部温度を維持するうえで有利だと期待されてます。
トーラス型ステーションの内部構造。底を多重構造にすることで居住可能な面積を増やしている。(Credit: David W. Jensen)
トーラス型ステーションの内部構造。底を多重構造にすることで居住可能な面積を増やしている。(Credit: David W. Jensen)
次の提案はステーション全体の構造についてでした。
それは、アティラを中心としたトーラス型(ドーナツ型)の居住区を配置し、アティラと居住区の間をいくつかの柱で結ぶ構造でした。

この自転車の車輪とスポークのような形状は、居住区の面積を増やすために多層構造を採用すること、微小隕石や放射線のような脅威から内部を守ること、回転による遠心力で人工重力を生み出した時に利用しやすいことを考慮した結果、辿り着いた形状でした。
ただ、適切な人工重力を生み出すには、アティラの自転速度を変更する必要があります。

では、このようなステーションを建設する人手はどのように確保するのでしょうか?

これについては、自己複製型のクモ型ロボットが建設の役割を担うと想定しています。

アティラの資源を利用することで、クモ型ロボットはステーション本体の建材になる無水ガラスをはじめ、岩石粉砕機や太陽光パネル、そして自身の複製といった高度な物品を作成することが想定されています。

あらかじめ用意しておく必要があるのは、その場で作成することができない電子機器などの最先端技術による部品のみで、他の追加物資は不要になるそうです。

建設コストは高額ながらも非現実的ではない

それでは、これらを実行するには、どれくらいのコストが必要になるのでしょうか。

研究では、アティラに最初に送り込むステーションの“種”と言えるカプセルの重量を約8.6トンと計算しています。

そのカプセルに搭載されるのは、4台のクモ型ロボット、最低限の基礎、クモ型ロボットの自己複製に必要な3000台分の電子機器など。

この“種”は、スペースX社が現在運用している“ファルコンヘビー”ロケットにも搭載可能な重量。
理論的には、“種”以外の物資を追加供給する必要はないそうです。

気になるのは、小惑星でステーション本体の建設に必要な時間ですよね。
これは、最短だと12年と計算されています。

ただ、これは本体の建設に要する期間。
酸素や水といった人間の生存に必要な物資の供給までは含んでいません。

この小惑星ステーション建設プロジェクトにかかる総費用の試算は41億ドル(約6000億円)。
途方もなく高額な費用に感じますが、アポロ計画の総費用が930億ドル(約13兆5000億円)だったことを考えれば、決して高額だとは言えません。

これに近い額としては、2020年東京オリンピックで東京都が負担した額(約6300億円)や、大型ハドロン衝突型加速器の建設費(約5000億円)などがあります。

何もない場所から合計10億平方メートル(札幌市や広島市とほぼ同じ面積)、1平方メートル当たりわずか4.1ドル(約600円)のコストで、新たな居住区を創造できることを考えたら、この小惑星ステーションの建設費用は何人かの億万長者にとって現実的な投資額になりそうです。

小惑星ステーションの建設計画は本当に実行可能なのでしょうか。
仮に実行に移せたとしても、どの程度オリジナルと同じ設計になるのでしょうか。
まだまだ分からないことはたくさんあります。

でも、今回示されたプレプリントは、SFに出てきそうな巨大ステーションの建設が、現状の技術レベルでも達成可能なものであることを示そうとしている点で、興味深いものと言えますね。


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