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モバライダー mobarider

重い元素はどうやって作られるの? まずは矮小銀河で観測されたストロンチウムの起源を調べてみよう。

2020年03月16日 | 宇宙 space
重い元素の起源については多くの謎に包まれています。
矮小銀河で観測されたストロンチウムの比率が極めて高い星もその1つ。
このストロンチウムはどのような天体現象で生成されたのでしょうか?
スーパーコンピュータを用いたシミュレーションでは、少なくとも4種類の天体や天体現象が関わっているようです。
ストロンチウムが生成される様子の概念図(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser)
ストロンチウムが生成される様子の概念図(Credit: ESO/L. Calçada/M. Kornmesser)


原始が中性子を獲得する過程

恒星は“宇宙の錬金術師”といえます。
それは、周期表上の多くの軽い元素は、恒星内部で起こる核融合反応によって形成されることが分かっているかです。

でも、重い元素の起源については多くの謎に包まれているんですねー

核融合反応は、鉄やニッケルのような重い元素を生成しますが、原子核がさらに中性子を獲得するとより重い元素が形成されます。

超新星爆発や2つの中性子星の合体のような極限の天体現象のもとで起こるのは、速い中性子捕獲過程“rプロセス(rapid neutron-capture process)”。
一方、より軽い星の進化の最終段階である漸近巨星分枝星などでは、遅い中性子捕獲過程“sプロセス(slow neutron-capture process)”が起こります。
  年老いた軽い星である漸近巨星分枝星は、太陽のような低質量星の一生の末期にあたる。
この2つのプロセス、つまり2種類の環境では、異なる割合の重元素が形成されることになります。

これらのプロセスで形成される重元素は、星が一生を終えるときに宇宙空間に放出され、その後に形成される新しい星に取り込まれまていきます。

このようにして次の星に受け継がれた元素の分布を追跡することで、重元素がどうやって形成されたのかの理解につながると考えられています。


ストロンチウムの量を説明するのに必要なもの

中性子捕獲過程で形成される元素の中で最も軽いものの1つに、ストロンチウム(原子番号30)があります。

同じく、中性子捕獲過程で作られる元素の中で重いものの代表であるバリウム(原子番号56)と比較してみると、天の川銀河の近傍に存在する矮小銀河には、バリウムに対するストロンチウムの比率が極めて高い星がいくつか観測されています。
  矮小銀河は数十億個以下の恒星からなる小さな銀河。

このことが示しているのは、ストロンチウムとバリウムが異なる環境で作られたということです。
ちょうこくしつ座の矮小銀河。遅い中性子捕獲過程によってストロンチウムが過剰になった恒星が含まれている。
ちょうこくしつ座の矮小銀河。遅い中性子捕獲過程によってストロンチウムが過剰になった恒星が含まれている。(Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2)
このストロンチウムの起源を確かめるため理化学研究所のチームが実施したのは、rプロセスとsプロセスを起こす天体現象を考慮した矮小銀河の化学進化シミュレーション。どのような天体現象でストロンチウムが生成されるかを調べるためでした。
  シミュレーションに使用されたのは、国立天文台が運用する天文学専用のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”。

その結果示されたのは、中性子星合体(rプロセス)と漸近巨星分枝星(sプロセス)だけでは、ストロンチウムの量を説明できないということでした。

そこで、研究チームが考えたのは、足りないストロンチウムのうちいくらかは自転する大質量星に由来するというもの。
このような星では、恒星内部で起こる物質のかくはんによって中性子が作られ、sプロセス元素が生成されるからです。

さらに、シミュレーションから重要なことが分かります。
それは、電子捕獲型超新星から放出された物質によって、ストロンチウムとバリウムの比が大きい星が作られるということでした。

このような電子捕獲型超新星は、大質量星の中でも太陽の8~10倍程度という軽い部類の星が起こすとされている現象です。
このような星がストロンチウムの起源になっていると考えられます。
4つの天体と天体現象(中性子星合体、漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星)の影響を考慮したシミュレーションが示す元素比と、近傍矮小銀河や天の川銀河で観測された恒星の元素比の比較。黒い実線はシミュレーションが示す中央値を表している。
4つの天体と天体現象(中性子星合体、漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星)の影響を考慮したシミュレーションが示す元素比と、近傍矮小銀河や天の川銀河で観測された恒星の元素比の比較。黒い実線はシミュレーションが示す中央値を表している。(Credit: Hirai et al., 2019, ApJ)
今回の研究から分かってきたのは、近傍の矮小銀河で観測されるストロンチウムの量を説明するのに必要なもの。

それは、中性子星合体と漸近巨星分枝星、自転する大質量星、電子捕獲型超新星という4種類の天体や天体現象の中で起こる中性子捕獲反応でした。

今後、研究チームでは、天の川銀河やその周辺の星でも、観測される元素組成とシミュレーション結果を詳細に調べ、さらに重元素の起源を調べるそうです。


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