宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

ビッグバンからわずか15億年しか経っていない時代に、すでに円盤銀河は存在していた!?

2020年06月11日 | 銀河・銀河団
今回は宇宙が誕生してからわずか15億年後のおはなし。
アルマ望遠鏡による観測で明らかになったのは、この時代に既に回転運動をする円盤銀河が存在していたこと。
直接観測で見つかる遠方銀河はきわめて明るいものに限られてしまいます。
今回、銀河を見つけたのは、より遠くのクエーサーの吸収線を使った間接的な手法。
この手法だと見つかる銀河のタイプに偏りが生まれないようです。


円盤銀河が出来るまで

現在の宇宙に存在する銀河は、約138億年前に宇宙がビッグバンで誕生してから数億年ほどたったころに、ダークマターの濃い部分が自らの重力で集まって塊を作り、これを構造の種として生まれたと考えられています。

有力なシナリオでは、ダークマターと水素やヘリウムなどの普通の物質からなる小さめな塊同士が、合体を繰り返して銀河サイズへと成長したことになっています。

ただ、塊に含まれるガスは、合体のたびに衝突して激しく加熱されることになります。
なので、こうして成長した“銀河のもと”の塊には、秩序だった回転運動などは無かったと考えられています。

この“銀河のもと”が、長い時間をかけて塊が冷えて平たくつぶれ秩序だった回転運動を持つ円盤へと変われば、私たちがいる天の川銀河のような円盤銀河が出来上がるわけです。

典型的なモデルでは、銀河サイズの塊が冷えて円盤銀河になるまでにかかる時間は60億年ほど。
でも、もっとずっと速く円盤銀河ができるという理論もあり、銀河の形成プロセスについては未だ不明な点が多くあります。


“クエーサー”の光の吸収線から分かったこと

2017年、ドイツ・マックスプランク天文学研究所のチームが見つけたのは、きわめて遠い距離にある明るい天体“クエーサー”の光に吸収線が生じていることでした。

そして分かってきたのは、“クエーサー”の手前には銀河があり、この銀河のハローを通ることで“クエーサー”の光に吸収線が生じていることでした。

研究チームでは、このような例を2つ発見。
この時見つかった銀河の一つ“DLA0817g”について、アルマ望遠鏡で詳細な観測を実施しています。

すると、“DLA0817g”は太陽の約720億倍もの質量を持つ分子ガスを含む円盤銀河で、銀河の回転速度は秒速272キロに達することが分かります。

天の川銀河は質量が約2000億太陽質量で、回転速度が秒速約220キロ。
なので、“DLA0817g”は天の川銀河と比べてもさほど見劣りのしない、一人前の円盤銀河のように見えていました。
アルマ望遠鏡が観測した回転円盤銀河“DLA0817g”。チリの分布を黄色、炭素イオンガスの分布を濃いピンク色で表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
アルマ望遠鏡が観測した回転円盤銀河“DLA0817g”。チリの分布を黄色、炭素イオンガスの分布を濃いピンク色で表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)


ビッグバンからわずか15億年後の宇宙に存在する円盤銀河

ただ、“DLA0817g”が位置するのは、地球から123億9000万光年も離れたきわめて遠い場所。
今まで見つかっている回転円盤銀河の中では最も遠くにありました。

言い換えれば、ビッグバンからわずか15億年しか経っていない時代の宇宙に、既に天の川銀河と同じような回転運動をする整った円盤銀河が存在することになります。

これほど早い時代に円盤銀河が存在するという事実は、これまでの銀河形成の理論では説明することが難しいんですねー
これまでの観測でも、ガスを豊富に含む若い円盤銀河が回転していることを示す手掛かりは得られていません。

今回、宇宙誕生後15億年に満たない時代の銀河が、確かに回転しているというはっきりとした証拠を得られたのは、アルマ望遠鏡による高解像度の観測のおかげでした。

この銀河を研究チームでは“ヴォルフェ円盤”と呼んでいます。
この呼び名は、2014年に死去したアメリカの宇宙物理学者“故アーサー・ヴォルフェ”さんからとられている。“故アーサー・ヴォルフェ”さんは、宇宙マイクロ波背景放射に生じる“ザックス・ヴォルフェ効果”の予言などで知られている。
“ヴォルフェ円盤(DLA0817g)”のイメージ図。左上に描かれている遠方の“クエーサー”の光を観測していてこの銀河を発見している。(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
“ヴォルフェ円盤(DLA0817g)”のイメージ図。左上に描かれている遠方の“クエーサー”の光を観測していてこの銀河を発見している。(Credit: NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello)
研究チームが考えているのは、“ヴォルフェ円盤”は冷たいガスが安定的に供給されることで、内部の運動が乱雑になることなく成長してきたということ。
でも、秩序だった回転を保ちながら、どのようにしてこれほどの質量を持つ円盤に成長してきたのかは、謎のままなんですねー

さらに、アメリカ国立電波天文台カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群“VLA”とハッブル宇宙望遠鏡による観測からは、“ヴォルフェ円盤”の星形成率が天の川銀河の約10倍も高いことも分かっています。
アルマ望遠鏡、電波干渉計“VLA”、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した“ヴォルフェ円盤”(左)緑色が“VLA”でとらえた分子ガスの分布を表し、青色がハッブル宇宙望遠鏡で撮影した恒星の分布を表している。(右)濃いピンクと黄色はアルマ望遠鏡でとらえた炭素イオンとチリの分布を表している。青色は左と同じ。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble)
アルマ望遠鏡、電波干渉計“VLA”、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影した“ヴォルフェ円盤”(左)緑色が“VLA”でとらえた分子ガスの分布を表し、青色がハッブル宇宙望遠鏡で撮影した恒星の分布を表している。(右)濃いピンクと黄色はアルマ望遠鏡でとらえた炭素イオンとチリの分布を表している。青色は左と同じ。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble)
銀河形成の謎を解くのに必要なこと。
それは、たくさんの遠方銀河(古い時代の銀河)の性質を詳しく調べることです。
なので、遠方銀河の光を直接とらえる観測がこれまでに数多く行われてきました。

でも、直接観測で見つかる遠方銀河は、きわめて明るいものに限られてしまいます。
つまり、この方法だと非常に明るいごく一部の特殊な銀河ばかりを、ピックアップしてしまう可能性があります。

一方、今回のように、より遠くのクエーサーの吸収線を使って間接的に銀河を探すという方法なら、見つかる銀河のタイプには偏りが生まれないはず。
そう、初期宇宙に存在する“ごく普通の銀河”を発見できる可能性が高いんですねー

そこで期待できるのが、いまだ分かっていないことが多い銀河形成の歴史を解き明かす上で、この手法が大いに役立つこと。

整った回転を持つ銀河は、これまで私たちが考えていたよりも珍しいものではなく、初期宇宙にももっとたくさん潜んでいるのかもしれませんね。


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地球の水は星間分子雲のチリからできたのかも? 彗星や小惑星の衝突で持ち込まれたものではなかったようです。

2020年06月09日 | 地球の観測
星間物質を模した有機物の加熱実験で、水が大量に生じるという結果が得られました。
このことが示しているのは、地球の水の起源が彗星や炭素質小惑星ではないという可能性。
星間有機物が地球型惑星の水の起源になりうることでした。


地球にある水はどこから来たのか

地球や火星などに存在している水はどこからやってきたのでしょうか?

このことについては、現在もよく分かっていません。

原始惑星系円盤の中では、太陽から約2.5天文単位(火星軌道と木星軌道の間)の距離を境にして、これより内側では水は気体の状態でしか存在できません。
この境界をスノーラインといいます。
原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がるガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。


なので、地球型惑星の材料にもともと含まれていた水は、惑星ができる過程で水蒸気になって散逸してしまったと考えられています。

そこで気になるのが、現在地球に存在している水の起源ですよね。
仮説として提唱されているのは、現在の地球型惑星の水が、後の時代に小天体が大量に衝突したことで持ち込まれたというものです。

ただ、2014年にヨーロッパ宇宙機関の探査機“ロゼッタ”が行った、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の探査により状況が変わってきます。

この探査で得られたデータから示されたのは、チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星に含まれる水は地球の水とは重水素の比率が異なっていること。
そう、地球の水が彗星に由来するとは考えづらいという見方が出てきたんですねー

また、“はやぶさ2”が探査した小惑星リュウグウのような、炭素質に富んだ“C型小惑星”にも水が比較的多く含まれています。
このため、スノーラインの外からやってきたC型小惑星の衝突で水がもたらされたという仮説もあります。
でも、このモデルの場合、逆に地球型惑星の水が多くなりすぎるという問題が指摘されているんですねー


地球の水の起源は星間有機物かも

今回、北海道大学と桐蔭横浜大学の研究チームが目を付けたのは、太陽などの恒星の生まれ故郷である星間分子雲でした。
この星間分子雲にたくさん含まれているチリの有機物が、水の起源として重要ではないかと考えたわけです。

星間分子雲のチリには、氷や鉱物と同じくらいの割合で有機物も含まれています。
でも、これまでの惑星形成論では星間有機物の役割はあまり重要視されてこなかったんですねー

星間有機物は、水・一酸化炭素・アンモニアなどの氷に恒星からの紫外線が当たることで作られます。

過去の実験からは、星間有機物にはヒドロキシ酸やアミド、多環芳香族炭化水素、脂肪酸など、多種多様な有機分子が含まれていることが分かっています。

そこで研究チームでは、これらの有機分子を混ぜ合わせた模擬的な星間有機物を作り、これを加熱して変化を観察しています。

すると、模擬星間有機物を200度まで加熱すると2相の有機物に分離し、350度になると水が生成されることが分かります。

さらに、400度まで加熱して生じたのが、有機物が黒くなった石油のような物質でした。
模擬星間有機物を加熱したときの様子を撮影した顕微鏡写真。350度まで加熱すると水が生成され、400度に達すると黒い石油ができる。(Credit: Nakano et al. 2020)
模擬星間有機物を加熱したときの様子を撮影した顕微鏡写真。350度まで加熱すると水が生成され、400度に達すると黒い石油ができる。(Credit: Nakano et al. 2020)
この黒い生成物を分析してみると、地球上で産出する石油によく似た組成であることが確認されます。

また、最初の模擬星間有機物の組成を大きく変えても、加熱によって水と石油が生じるという結果は変わらないことも分かりました。
(a)実験前の模擬星間有機物。(b)模擬星間有機物を400度まで加熱して得られた物質。上層に黒い石油がたまり、下層には水溶性物質が解けた液ができた。(Credit: Nakano et al. 2020)
(a)実験前の模擬星間有機物。(b)模擬星間有機物を400度まで加熱して得られた物質。上層に黒い石油がたまり、下層には水溶性物質が解けた液ができた。(Credit: Nakano et al. 2020)
このような星間有機物は原始惑星系円盤の成分として広く存在しているはず。
しかも、水の氷とは違って、スノーラインより内側でも揮発することなく存在できるんですねー

このことから、研究チームでは、こうした星間有機物が地球型惑星の水の起源になりうると考えています。

今回の成果から、これまで考えられてきたような炭素質の天体がなくても、地球の水の起源を説明できるようになりました。

さらに、現在の小惑星や氷衛星の内部に、星間有機物から生じた石油が大量に存在するという可能性も考えられます。

今年の年末には“はやぶさ2”が、リュウグウの試料を地球に持ち帰る予定です。

研究チームのメンバーは、この試料の分析にも携わることになっています。
地球型惑星や隕石中に存在する水・有機物の起源解明につながることを期待しているようですよ。
惑星の材料物質の分布とそれぞれの天体の形成過程。これまではスノーラインの外側からやってきた大量の彗星や炭素質の小天体が、地球に衝突することで水が持ち込まれたと考えられていた。今回の研究では新たに、スノーラインの内側にある岩石質の小惑星でも星間有機物が加熱されることで水ができ、これが地球に供給されうることが明らかになった(太い青矢印)。(Credit: Nakano et al. 2020)
惑星の材料物質の分布とそれぞれの天体の形成過程。これまではスノーラインの外側からやってきた大量の彗星や炭素質の小天体が、地球に衝突することで水が持ち込まれたと考えられていた。今回の研究では新たに、スノーラインの内側にある岩石質の小惑星でも星間有機物が加熱されることで水ができ、これが地球に供給されうることが明らかになった(太い青矢印)。(Credit: Nakano et al. 2020)


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第二の地球候補“TRAPPIST-1”惑星系。太陽より低温で低質量の恒星の周りでも複数の惑星が同じ軌道面上に作られていた

2020年06月06日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
7つの地球型惑星が見つかっている“TRAPPIST-1”の惑星系。
今回、すばる望遠鏡による観測から“TRAPPIST-1”の惑星の公転軌道面が、太陽系の惑星と同様に主星の自転軸に対してほぼ垂直だと分かりました。
地球に似た環境の惑星で、このような関係が示されたのは初めてのこと。
低温・低質量の恒星の周りにある惑星系の起源を議論する上で不可欠な情報になるようです。


太陽より低温で低質量の恒星を回る系外惑星

みずがめ座の方向約40光年彼方に位置する恒星“TRAPPIST-1”の周りには、7つの地球型惑星が公転しています。

どれも、地球から見て系外惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により発見された惑星です。

そのうち特に注目されているのは“TRAPPIST-1 e”、“TRAPPIST-1 f”、“TRAPPIST-1 g”の3つの惑星。
これらの惑星が、惑星表面に水が液体の状態で存在可能な領域“ハビタブルゾーン”に位置していたからです。

これまで、各惑星の質量や大気について、いくらか手掛かりは得られていました。
ただ、生命生存の可能性に関わる条件の一つになる軌道の傾きについては、何も分かっていなかったんですねー


恒星の自転軸に対する惑星の軌道面の傾き

そこで、東京工業大学の研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された太陽系外惑星探査のための観測装置“IRD”を用いて“TRAPPIST-1”の惑星系を観測。
“TRAPPIST-1”のスペクトルを精密に測定しています。

観測日は2018年8月31日。
この日は“ハビタブルゾーン”に位置する2つを含む3つの惑星が、“TRAPPIST-1”の前を一夜のうちに通過する機会に恵まれていました。

研究チームは、“ロシター効果”と呼ばれる現象で引き起こされるスペクトルの変化を解析。
すると、主星の“TRAPPIST-1”の自転軸と、その周りの惑星の公転軸が、ほぼ揃っていることが分かります。

これまでに“ロシター効果”によって検出されていたのは、木星型惑星や海王星型惑星の公転の傾きのみ。
“ハビタブルゾーン”に位置する地球型系外惑星の軌道の傾きについて情報が得られたのは、今回が初めてのことでした。
“ロシター効果”の説明。自転している恒星を横から見ると、私たちに近づいている側と遠ざかっている側は、それぞれドップラー効果で波長が変化する(近づく側がわずかに青く、遠ざかる側が赤くなる)。その手前を惑星が通過すると、隠した部分の波長成分が弱まることで、あたかも恒星全体が近づいたり遠ざかったりしているかのようにスペクトルが変化する。“ロシター効果”の解析から恒星の自転軸とトランジットする惑星の公転軸とがなす角度を制限することができる。(Credit: 国立天文台)
“ロシター効果”の説明。自転している恒星を横から見ると、私たちに近づいている側と遠ざかっている側は、それぞれドップラー効果で波長が変化する(近づく側がわずかに青く、遠ざかる側が赤くなる)。その手前を惑星が通過すると、隠した部分の波長成分が弱まることで、あたかも恒星全体が近づいたり遠ざかったりしているかのようにスペクトルが変化する。“ロシター効果”の解析から恒星の自転軸とトランジットする惑星の公転軸とがなす角度を制限することができる。(Credit: 国立天文台)
恒星の自転軸に対する惑星の軌道面の傾きは、惑星の形成やその後の進化に関する情報を与えてくれます。
これまでの研究では、軌道面が大きく傾いていたり、公転が完全に逆行しているものも知られています。

このような傾きの原因としては、惑星同士の重力の相互作用で軌道が大きく変化する散乱効果などが考えられています。

一方、“TRAPPIST-1”の惑星系で、主星の自転軸と惑星の公転軸がよく揃っているというのは何を意味するのでしょうか?
それは、複数の惑星が同じ軌道面で作られ、その後は軌道を大きくかき乱されることなく現在に至ったということなんですねー

このことは、“TRAPPIST-1”のような低温・低質量のM型矮星の周りにおける惑星系の起源を議論する上で不可欠な情報になります。

M型矮星は天の川銀河に最も多いタイプの恒星なので、その周りの惑星系や生命生存の可能性について大きく注目されています。

太陽よりも小さくて暗い主星の近くを回っている液体の水が存在できる惑星。
このような惑星はどのような環境を持っているのでしょうか? 生命は存在しているのでしょうか?

いずれにせよ、地球とは全く異なっているはず…
今後、さらに探査や研究が進むと、どんな発見があるのでしょうか? ワクワクしますね。
“TRAPPIST-1”の惑星系のイメージ図。7つの地球型惑星のうち4つが描かれている。(Credit: 国立天文台)
“TRAPPIST-1”の惑星系のイメージ図。7つの地球型惑星のうち4つが描かれている。(Credit: 国立天文台)


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太陽系最大の嵐は木星で発生している! ハッブル宇宙望遠鏡、ジェミニ天文台、探査機“ジュノー”による同時観測から分かってきた大気構造。

2020年06月04日 | 木星の探査
未だに謎が多い、木星の縞模様や目玉のような大赤班。
この特徴的な模様を作り出す木星の大気構造について、長年の謎が解き明かされたんですねー
研究では、ハッブル宇宙望遠鏡や地上のジェミニ天文台、そして木星を間近で観測する探査機“ジュノー”による多波長の同時観測データが使われたようです。


太陽系最強の嵐

ガリレオが人類で初めて望遠鏡で木星を観測してから400年以上…
太陽系最大のこの惑星については、天文学者からアマチュア天文ファンが、地上の天体望遠鏡から宇宙望遠鏡、探査機を用いて数多くの観測研究を行ってきました。

でも、木星の縞模様や目玉のような大赤班といった、特徴的な模様を作り出す大気については未だに謎が多いんですねー

今回、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが調べたのは、地球から約8億キロ離れた木星で発生している太陽系最強の嵐。
研究では、ハッブル宇宙望遠鏡と地上のジェミニ天文台が複数の波長で観測した結果と、NASAの探査機“ジュノー”が木星周回軌道上から取得したデータを組み合わせています。

地球のものと比べてはるかに長続きし、規模も大きいの木星の嵐。
発達した雲の高さは70キロと地球の積乱雲の5倍以上にもなり、稲妻のエネルギーは地球で発生する最強の雷と比べると3倍に達します。

53日周期の楕円軌道を描いて木星を周回する“ジュノー”は、木星に接近するたびに雲へ迫り、稲妻によって発生する電波を観測。
“ジュノー”に搭載されているマイクロ波放射計は、木星の厚い雲の層を突き抜ける高周波の電波を検出して、大気の奥深くまで探ることができます。
これにより、稲光そのものが見えなくても、雷が発生した位置を記録することができました。

同時に、ハッブル宇宙望遠鏡とジェミニ天文台は、遠くから木星の大気の姿を高解像度で撮影していました。
この撮影により、雲がどれくらい厚いのか、そしてどれだけ深いところからの信号を観測しているのかが分かっています。


稲妻の発生に関連した3つの構造

研究では、雲の3次元マップを作るため、“ジュノー”が検出した稲妻マップを、ハッブル宇宙望遠鏡による可視光線画像とジェミニ天文台による熱赤外線画像に重ね合わせています。

すると、稲妻の発生と関連のある下記の3つの異なる構造が明らかになります。

1つ目は、低層にある水と氷の雲(下図:中央に描かれた低い雲)。
2つ目は、湿った空気が上昇することで形成される、木星の積乱雲とでも言うべき対流雲(下図:左側に描かれた高い雲)。
3つ目は、対流雲の外で乾燥した空気が下降することで形成されると思われる晴天域(下図:中央の水の雲と右側の積乱雲との間)。
稲妻(紫色)と関わりの深い、木星の対流雲(本質的には積乱雲)、水の雲や晴天域を示したイラスト。(Credit: NASA, ESA, M.H. Wong (UC Berkeley), and A. James and M.W. Carruthers (STScI))
稲妻(紫色)と関わりの深い、木星の対流雲(本質的には積乱雲)、水の雲や晴天域を示したイラスト。(Credit: NASA, ESA, M.H. Wong (UC Berkeley), and A. James and M.W. Carruthers (STScI))
ハッブル宇宙望遠鏡のデータが示していたのは、対流雲の高さと水の雲が存在する領域の深さ。
一方、ジェミニ天文台のデータから明らかになったのは、下層の水の雲が姿をのぞかせる高層雲の切れ目でした。

これらのことから明らかになってきたのは、水蒸気の対流と雷の関係。
そう、木星の大気中に含まれる水の量を見積もるための新たな手段が得られたことになるんですねー

水に関する情報は、木星をはじめとしたガス惑星や氷惑星がどのように形成されたのか?
さらに、太陽系そのものがどのように作られたかを理解する上で重要なことになります。


大赤班の中に現れる黒い構造の正体

“ジュノー”や過去の探査機によって、大赤班の中に現れては消え、形を変えていく黒い色の構造が見つかっています。

その正体は高層の黒い色をした雲なのか、それとも高層の雲に裂け目ができて黒い低層が見えているものなのでしょうか?
残念ながら個々の観測からは、はっきりとしたことは分かっていませんでした。

それが、今回の“ジュノー”による観測中に、ハッブル宇宙望遠鏡とジェミニ天文台がいつも以上に頻繁に木星を観測したことで、こうした構造の研究が可能になったんですねー

研究では、ハッブル宇宙望遠鏡による可視光線画像とジェミニ天文台による熱赤外線画像を比較。
すると、可視光線では暗かった部分が、赤外線ではとても明るく見えていることに気付きます。

そして、分かってきたのが、この構造が雲の層にできた穴だということ。
雲のない領域(穴)から、木星内部の熱が赤外線の形で放射されていたんですねー
ジェミニ天文台によってとらえられた画像では、その熱が明るく見えたということです。
(上段左と下段左)2018年4月1日に撮影されたハッブル宇宙望遠鏡の可視光線画像。大赤班の中に暗い部分が見える。(上段右)同日にジェミニ天文台が同じ領域をとらえた熱赤外線画像。冷たい雲が暗い領域として見えていて、その裂け目から逃げ出した熱が赤外線で明るくとらえられている。(下段中央)ハッブル宇宙望遠鏡による紫外線画像。大赤班が赤く見えるのは、波長が短い青い光が雲に吸収されて赤い光が反射するため。さらに短い近紫外線でも大赤班の部分では吸収されて暗く見えることが分かる。(下段右)ハッブル宇宙望遠鏡とジェミニ天文台が取得したデータを合わせて作成された多波長合成画像(青が可視光線、赤が赤外線)(Credit: NASA, ESA, and M.H. Wong(UC Berkeley)and team)
(上段左と下段左)2018年4月1日に撮影されたハッブル宇宙望遠鏡の可視光線画像。大赤班の中に暗い部分が見える。(上段右)同日にジェミニ天文台が同じ領域をとらえた熱赤外線画像。冷たい雲が暗い領域として見えていて、その裂け目から逃げ出した熱が赤外線で明るくとらえられている。(下段中央)ハッブル宇宙望遠鏡による紫外線画像。大赤班が赤く見えるのは、波長が短い青い光が雲に吸収されて赤い光が反射するため。さらに短い近紫外線でも大赤班の部分では吸収されて暗く見えることが分かる。(下段右)ハッブル宇宙望遠鏡とジェミニ天文台が取得したデータを合わせて作成された多波長合成画像(青が可視光線、赤が赤外線)(Credit: NASA, ESA, and M.H. Wong(UC Berkeley)and team)
2011年8月5日に打ち上げられた“ジュノー”は、5年かけて木星付近に到着し、周回軌道に入ったのは2016年7月5日のことでした。

木星のガス層を探索してその組成や磁場などを観測し、木星誕生の謎に迫るのが“ジュノー”の目的。
木星上で数千年にわたって吹き荒れている巨大な渦“大赤班”についても、解明が期待されています。

過去にどの探査機も投入されたことのない軌道から、巨大ガス惑星を近い位置で観測する“ジュノー”。
ハッブル宇宙望遠鏡などの天文衛星や地上の天文台との連携した観測により、これからも木星の新た姿を見せてくれそうですね。


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空気呼吸を行う複雑な地球外生命体は、これまでの予想を超えて宇宙の広い範囲で生存可能なのかも

2020年06月02日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
複雑な地球外生命体が、地球生命と同じように空気呼吸を行っているとしたら…
今回の研究で示されたのは、複雑な地球外生命が空気呼吸をしていると仮定した新しい“ハビタブルゾーン”です。
複雑な生命体の呼吸に必要となる窒素と二酸化炭素大気分圧の限界値から分かったのは、これまでの研究で導かれた“ハビタブルゾーン”より約35%も広いこと。
複雑な生命体は、これまでの予想を超えて広い範囲で生存可能なのかもしれません。


生命が存在可能な領域

中心星を回る岩石惑星の表面に、液体の水が安定して存在することが可能な領域が“ハビタブルゾーン”です。
“ハビタブルゾーン”内にある惑星では生命が居住可能だと考えられている。太陽系の場合は地球から火星軌道が“ハビタブルゾーン”にあたる。

これまで、“ハビタブルゾーン”は太陽系外で生命が存在可能な惑星を発見するための指標として使われてきました。
ただ、これまでの定義では、単純な生命と複雑な生命の区別を行っていませんでした。

さらに、“ハビタブルゾーン”にある惑星に生命が生存できるかどうかは、中心星の活動性や惑星の質量、自転の様子、大気の量と組成、どのような生命体か… 様々な要素にに大きく左右されることになります。
たくさんの地球たち。地球のような複雑な生命を宿す惑星は宇宙に存在するのだろうか?(Credit: G. Bacon/NASA/ESA)
たくさんの地球たち。地球のような複雑な生命を宿す惑星は宇宙に存在するのだろうか?(Credit: G. Bacon/NASA/ESA)


空気呼吸を行う複雑な生命体

今回の研究で示されたのは、人間を含む哺乳類のほか鳥類や爬虫類などの空気呼吸を行う“複雑な生命体のハビタブルゾーン”です。

この“複雑な生命体のハビタブルゾーン”は、実験結果と理論予測を組み合わせることで導き出したもの。
過去に見積もられた二酸化炭素呼吸の限界値を見直すとともに、初めて窒素呼吸の限界値を見積もっています。

さらに、今回の研究では、地球上の複雑な生命体は、二酸化炭素・窒素分圧がそれぞれ約0.15バール、約3バールを上回る大気中では呼吸できないことも分かりました。
生まれたばかりの動物の場合だと、この限界値はそれぞれ約0.1バール、約2バールにまで低下するそうです。

この新たな限界値は、動物が二酸化炭素・窒素濃度の上昇に徐々に適応する能力を考慮して導かれたもの。
これらの呼吸限界を超えると麻酔効果が現れ、この状態に継続的に置かれると致命的になる可能性が高くなるようです。

今回の研究で示された“複雑な生命体のハビタブルゾーン”は、より一般的な“ハビタブルゾーン”より狭い領域になっています。

ただ、過去の研究より複雑な雲モデルを用いることで、これまでの“複雑な生命体のハビタブルゾーン”の見積もりよりも約35%広くなることも示されています。

このようになる原因は、過去の研究では雲による冷却効果がわずかに過大評価されていたことが一因でした。

また、過去の研究と異なり、この新しいモデルでは、惑星の大部分の領域が寒冷で凍結している状況下でも、赤道域は温暖で生命が生存可能な状態に保たれることも分かっています。

太陽系では、“複雑な生命体のハビタブルゾーン”は約0.95~1.3AUに位置し、一般的な“ハビタブルゾーン”(約0.95~1.67AU)のおよそ半分になっています。
一方、今回のモデルが予測しているのは、太陽より高温のA型星(ベガやシリウスなど)から低温のM型星(アンタレスやベテルギウスなど)まで、幅広いタイプの恒星の周りにある惑星についても“複雑な生命体のハビタブルゾーン”が広くなること。

これらのことから、複雑な生命体は、これまでの予想よりも広い軌道範囲で生存可能かもしれません。
A~M型星における“複雑な生命体のハビタブルゾーン”。(黒線)放射対流気候モデルによる見積もり。(青線)エネルギーバランスモデルによる見積もり。0.1バールの二酸化炭素分圧に加えて1バール(破線)もくしくは2バール(実践とアスタリスク)の窒素分圧を仮定。(赤線・黒線)それぞれ一般的な“ハビタブルゾーン”の内側と外側境界。比較のため地球と火星を図で示している。(Credit: Adapted from Ramirez, 2020)
A~M型星における“複雑な生命体のハビタブルゾーン”。(黒線)放射対流気候モデルによる見積もり。(青線)エネルギーバランスモデルによる見積もり。0.1バールの二酸化炭素分圧に加えて1バール(破線)もくしくは2バール(実践とアスタリスク)の窒素分圧を仮定。(赤線・黒線)それぞれ一般的な“ハビタブルゾーン”の内側と外側境界。比較のため地球と火星を図で示している。(Credit: Adapted from Ramirez, 2020)
今回の研究で計算された呼吸限界は、全く異なる進化の歴史をたどった地球外生命には適用できない可能性もあります。
そうであったとしても“複雑な生命体のハビタブルゾーン”は、有用なベースラインの仮定となる可能性はあります。

宇宙生物学や地球外知的生命探査では、地球外生命探査において地球中心的アプローチをとっています。
例えば、地球外の知的生命は水を必要とするという推測や、それらは電波シグナルを送信するとという推測です。

それと同じように今回の研究では、複雑な地球外生命体は地球生命と同じような呼吸限界を持つかもしれないと仮定したわけです。

“複雑な生命体のハビタブルゾーン”は生命体の存在する惑星を探す上で適切な概念になるはずです。
ただ、他のハビタブルゾーンの定義も用いて、生命を宿す可能性のある惑星を探すべきですね。


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