宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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植物は地上と宇宙を区別して微小重力では近くのものに根を絡ませることが判明! 月や火星など低重力環境でも元気に育つ植物に期待

2023年10月05日 | 宇宙 space
植物にとって、風などで横倒しにされた状態が続くのは好ましい状況とはいえませんよね。
なので、植物は速やかに自分の状態を検知し、反応することが知られています。

つまり、植物は重力の向きを検知できる仕組みを持っているということになります。

それでは、重力の向きを感知できない宇宙に持って行った場合には、植物はどう反応するのでしょうか?

この疑問に答えるため、研究チームでは2014年から国際宇宙ステーションで、植物の“シロイヌナズナ”を使った実験を実施してきました。
この研究成果が、2023年7月11日に金沢大学から発表されています。
この研究は、金沢工業大学 応用バイオ学科 辰巳仁史教授を中心とする共同研究チーム、および羽衣国際大学、名古屋大学、JAXAの研究者が進めています。

数多くの宇宙実験に活躍しているシロイヌナズナ

実験に使われた“シロイヌナズナ”は、いわゆる“ぺんぺん草”の仲間です。

一般には雑草の範疇に入る植物ですが、科学会では偉大な存在になっています。

それは、“シロイヌナズナ”はゲノム解析が終了していて、遺伝子の働きやタンパク質などについて、全植物中で最も詳しく調べられているから。
このことから、数多くの実験で用いられていて、“4大モデル生物”の1つなどと呼ばれています。

“シロイヌナズナ”は小さいので育てるのに場所を取らないこと、発芽から種を付けるまでの一生が約2か月と短いことなどから、国際宇宙ステーションでの実験にも適していて、数多くの宇宙実験に活躍してきました。

また、ゲノムサイズも小さく、世界中に生息していて地域ごとに分化しているので、遺伝学的な研究でもメリットの多い植物として知られています。
国際宇宙ステーションの日本実験棟“希望”で実験のサンプルを確認するJAXAの油井亀美也宇宙飛行士(2015年10月撮影)。(Credit: NASA)
国際宇宙ステーションの日本実験棟“希望”で実験のサンプルを確認するJAXAの油井亀美也宇宙飛行士(2015年10月撮影)。(Credit: NASA)

重力の変化の影響を受けるイオンチャネル

今回の研究では、遺伝子型の異なる4種類のシロイヌナズナの種子と生育培地を国際宇宙ステーションに運び、細胞培養装置で発芽生育させた後、地上に戻して分析が行われています。

装置内のシロイヌナズナが育ったのは、地球の表面と同じ1Gを再現した環境と、国際宇宙ステーションの微小重力環境(ほぼ無重力の状態)という、重力の異なる2種類の環境でした。

この研究では、植物が細胞膜に持っているイオンチャネル(イオンを通すためのミクロの穴)の1つである“MCA1”に着目。
“MCA1”は、重力の変化の影響を受けるイオンチャネルの1つで、風などで植物が倒れると“MCA1”が開き(細胞膜に入り口ができる)、植物にとって重要なカルシウムイオンが細胞の外から内へと入っていくことが分かっています。

ちなみにイオンとは、いずれかの原子から電子が少なくなった状態、もしくは逆に多くなった状態のことをいいます。

通常、原子は電気的にプラスでもマイナスでもない中性の状態なのですが、イオンはどちらかの電荷を帯びています。
カルシウムイオンの場合、電子を失うのでプラスの電荷を帯びた陽イオンになります。

イオンの細胞への出入りは、神経を伝わる電流を生じさせるなど、人間を含む生命全般の活動において非常に重要なものです。

そこで、今回の研究では、以下の4種類のシロイヌナズナの種子を準備して、国際宇宙ステーションでの実験を行っています。
 1.野生そのままのもの
 2.MCA1を機能しないように遺伝子に手を加えたもの
 3.MCA1自体が光るように遺伝子に手を加えたもの
 4.細胞内カルシウムイオンを検出できるようにしたもの(発光試薬“エクオリン”を導入)

実験で確認されたのは、微小重力環境下のシロイヌナズナは自分を支えるために、近くに用意されたメッシュに根を絡みつかせること。
1Gの環境では、このような根の絡みつきは見られないそうです。

シロイヌナズナは重力がほぼない状態を感知し、自分を固定するために根を絡みつかせたのかもしれません。

さらに、4種類用意されたシロイヌナズナのうち、変異体(上記の2~4)の分析から、根の絡みつきはMCA1によって制御されている可能性があることも明らかになります。
国際宇宙ステーションの微小重力環境で発芽生育した約10固体のシロイヌナズナ。長辺が約30ミリの白いメッシュ(長方形)にしがみつくように生育していた。画像はJAXA筑波宇宙センターで撮影されたもの。(Credit: 金沢工業大学)
国際宇宙ステーションの微小重力環境で発芽生育した約10固体のシロイヌナズナ。長辺が約30ミリの白いメッシュ(長方形)にしがみつくように生育していた。画像はJAXA筑波宇宙センターで撮影されたもの。(Credit: 金沢工業大学)
MCA1の機能的な役割は完全に解明されているわけではありませんが、伸ばした根の先端が硬いものにぶつかったときにも大切な役割を果たすことが分かっています。

地上で生育する植物は、根を地中へと伸ばしていくときに頻繁に成長方向を変えて土壌中の障害物を避けたり、必要に応じて対象に絡みついたりしますが、それらにMCA1が関わっているのではないかと考えられています。

今後の研究により、重力受容におけるMCA1の機能的な役割が解明されると、重力方向の変化に敏感な植物を作成することができ、その植物は風雨などで倒れても素早く立ち直ることができるはずです。

さらに、MCA1の機能解明という基礎的な研究が穀物生産の増進に貢献できるだけでなく、月や火星といった低重力環境でも元気に育つような植物の品種改良につながると期待されています。

今後の研究により、MCA1のすべての機能が解明されるといいですね。


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火星の自転はわずかに加速、核は自転だけでは説明できない形状をしている? 運用を終えた探査機“インサイト”の未解析データから分かったこと

2023年10月04日 | 火星の探査
NASAにとって火星への着陸に成功した8機目の探査機“インサイト”。
運用を終えた“インサイト”の未解析データから、火星の自転がわずかに加速していることが明らかになりました。
また、火星の核の比率は地球よりもかなり大きいこと、核が自転だけでは説明できない形状をしていることも分かってきたようです。

火星の自転周期は1年当たり約4ミリ秒ほど短くなっている

2018年11月に火星に着陸したNASAの火星探査機“インサイト”は、太陽電池パネルに砂ぼこりが積もって発電量が下がり、2022年12月に運用を終えています。

でも、“インサイト”が4年にわたって取得した大量の観測データは、今でも研究者によって分析されているんですねー
火星着陸から1211火星日(1火星日=約24時間40分)が経過した、2022年4月24日に撮影された“インサイト”の自撮り画像。機体や太陽電池パネルに大量に砂ぼこりが積もっている。これによって発電量が低下し、2022年12月に運用終了になった。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
火星着陸から1211火星日(1火星日=約24時間40分)が経過した、2022年4月24日に撮影された“インサイト”の自撮り画像。機体や太陽電池パネルに大量に砂ぼこりが積もっている。これによって発電量が低下し、2022年12月に運用終了になった。
(Credit: NASA/JPL-Caltech)
今回の研究では、“インサイト”に搭載されている“自転・内部機構実験装置(Rotation and Interior Structure Experiment ; RISE)”のデータを解析しています。

“RISE”は、地球と電波を送受信することで火星の自転軸のふらつきを検出し、火星の内部構造についての情報を得る装置。
この“RISE”のデータから、火星の自転速度を精密に測定しようとしています。
この研究は、ベルギー王立天文台のSébastien Le Maistreさんを中心とする研究チームが進めています。
“インサイト”のイラスト。矢印の位置に“RISE”のアンテナが装備されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“インサイト”のイラスト。矢印の位置に“RISE”のアンテナが装備されている。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
“インサイト”のミッションでは、NASAが運用する“深宇宙ネットワーク(DSN)”のアンテナを使って“インサイト”に電波を送信しています。

“RISE”は、この電波を地球に送り返しますが、地球に戻ってくる電波は火星の運動によってドップラー効果を受け、周波数がわずかに変わることに。
この周波数の変化を測定することで、1年でわずか数十センチという探査機の位置のズレを検出し、火星の自転速度を精密に知ることができます。

研究チームでは、“インサイト”の最初の900日分のデータを解析。
すると、火星の自転周期が1年当たり約4ミリ秒ほど短くなっていることが明らかになります。
これは、火星の自転がわずかに加速していることを示していました。

火星の自転が、わずかに加速していることは分かりました。
でも、加速の度合いは非常に小さく、その原因は完全にはつかめていないんですねー

加速の原因として考えられるのは、極冠の氷が増えている、かつて火星表面にあった氷河が融けてなくなったことで火星の陸海が隆起している、などがありました。

フィギュアスケートの選手が腕を縮めるとスピンが速まるのと同じように、火星表面の質量分布が変われば自転は加速し得るというのが理由でした。

自転だけでは説明できない火星の核の形状

“RISE”からは“章動”という火星の自転軸のふらつきのデータも得られています。

火星の内部は地球と同じように核とマントルに分かれていて、核の一部または全部が液体の状態だと考えられています。

火星の章動は、この液体の核が揺れ動くことで生じるので、章動を測定すると核のサイズを推定することができます。
研究チームの解析からは核の半径が約1835キロということが分かっています。

火星の核については、過去の探査機で観測された地震波のデータからも、2種類の推定値が得られていました。
地震波が火星の内部を伝わると、核とマントルの境界で反射されたり核の内部を通り抜けたりするので、やはり核の大きさを見積もることができるからです。

今回の推定値を含む3つの値をすべて考慮した核の半径は1790~1850キロ。
火星の半径は3390キロなので、火星の核の比率は地球よりもかなり大きいことになります。

さらに、章動の測定から示唆されているのは、火星の核が自転だけでは説明できない形状をしていることです。
これは、マントルの深部に密度のばらつきが存在することで、核の形が影響を受けているのかもしれません。

今回の研究成果は、“RISE”による歴史的な実験に、たくさんの時間とエネルギーを費やしたことによるものかもしれません。

NASAの低コストで効率の良いミッション“ディスカバリー”の候補に挙がっていた、3つの計画から選ばれたインサイト計画。
“インサイト”の運用は終了してしまいましたが、未解析のデータは大量に残されています。

これらのデータを用いたさらなる研究により、火星やそのほかの惑星の内部構造がより明らかになることが期待されます。
“RISE”のデータからも、火星について多くの知見が得られるかもしれませんね。


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長周期のマグネターは理論上観測できないはず! 少なくとも33年間、21分周期の強力な電波放出を続ける天体の正体は?

2023年10月03日 | 宇宙 space
2022年1月のこと、非常に強力な電波を長い周期で放出する謎の天体の発見が、カーティン大学のNatasha Hurley-Walkerさんたちの研究チームによって報告され、その正体が広く議論されました。

今回の研究では、その謎の天体と似た性質を持つ2番目の天体“GPM J1839-10”を発見。
その正体が、並外れた性質を持つ“マグネター”だということを突き止めています。

“GPM J1839-10”は、理論上観測できないはずの“死の谷”を越えた先に位置することになるので、今回の観測結果は宇宙最強の磁石となるマグネターについて、私たちがまだ理解していない性質があることを示唆しているようです。
図1.強力な磁場によって強力な電波を宇宙に放出するマグネターのイメージ図。今回発見された“GPM J1839-10”もマグネターだと考えられるが、その性質は典型的なマグネターからは大きく外れている。(Credit:  ICRAR)
図1.強力な磁場によって強力な電波を宇宙に放出するマグネターのイメージ図。今回発見された“GPM J1839-10”もマグネターだと考えられるが、その性質は典型的なマグネターからは大きく外れている。(Credit: ICRAR)

マグネターの理論から大きく外れている天体

研究チームが最初に報告したのは、西オーストラリアに設置された電波望遠鏡“マーチソン広視野アレイ(MWA)”の観測で発見された、地球から約4000光年彼方に位置する天体“GLEAM-X J162759.5-523504.3”でした。

この天体は、18分11秒ごとに30秒~60秒続く強力な電波を放射していたことから、これまでに知られているどの天体とも異なる未知の性質を持つ天体として、天文学者の注目を集めました。

このような周期で強力な電波を放出する天体としては、非常に強力な磁場を持つ中性子星のサブタイプ“マグネター”が候補として挙がります。

中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発(超新星爆発)した後に残される宇宙で最も高密度な天体。
主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていています。

その中性子星の中でも、マグネターは非常に磁場が強力なサブタイプの呼び名(100億テスラ以上の超強磁場を持つと推定されていている)。
マグネターの強力な磁場と高速の自転の組み合わせが、強力な電波を放出する原動力になっていると考えられています。

でも、“GLEAM-X J162759.5-523504.3”の場合は、その性質がこれまでのマグネターの理論から大きく外れていることが問題になりました。

マグネターの性質上、電波の放出周期は数秒~数分程度になると考えられます。
その理由は、自転周期がそれ以上長い場合には、強力な電波を放出するほどのエネルギーが生じないので、マグネターは観測できないと考えられるからです。

マグネターの観測数が少なくなる死の谷の存在

マグネターの観測ができなくなる限界については、1970年代までは理論的にも実際の観測でも、分布図に引かれた1本の“死線(Death Line)”で境界を表すことができると考えられていました。

でも、その後に“死線”を越えた領域でマグネターが続々と発見され、実際には“死線”から離れるほど観測数が急激に減少していく分布を示すことが明らかになります。

このため、新たな理論的研究で示された、その縁を越えることができないと考えられる2本目の“死線”が定義されることに。
それと同時に、1本目の(従来の)“死線”との間には、マグネターの分布が少ない“死の谷(Death Valley)”が存在するという考え方が新たに生まれました。

もちろん、マグネターのように極端な物性を持つ天体の性質は、まだ十分に理解されていないので、数十分の周期を持つマグネターは観測できないという前提が誤っているのかもしれません。

ところが、“GLEAM-X J162759.5-523504.3”は2018年1月~3月を最後に観測されていないので、それ以上研究を進めることができなくなってしまいます。
図2.今回研究された“GPM J1839-10”は電波望遠鏡“マーチソン広視野アレイ”によって発見された。地球からは“たて座”の方向約1万5000光年彼方に位置している。(Credit: ICRAR)
図2.今回研究された“GPM J1839-10”は電波望遠鏡“マーチソン広視野アレイ”によって発見された。地球からは“たて座”の方向約1万5000光年彼方に位置している。(Credit: ICRAR)

21分周期で強力な電波放出を継続する天体

こうした背景の中、研究チームは似たような性質を持つ2番目の天体を発見するんですねー

その天体は、地球から“たて座”の方向約1万5000光年彼方に位置する“GPM J1839-10”です。
“マーチソン広視野アレイ”による2022年7月~9月にかけての集中的な観測で発見されました。

“GPM J1839-10”は電波の放出周期が21分と長いだけでなく、強力な電波放出が5分間も持続していました。
これは、“GLEAM-X J162759.5-523504.3”の5倍以上の長さになります。

“GPM J1839-10”の発見により研究チームでは、オーストとラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)の電波望遠鏡(ASKAP、ACTA、PARKES)、南アフリカ電波天文台(SARAO)の電波望遠鏡“MeerKAT”、およびヨーロッパ宇宙機関(ESA)のX線天文衛星“XMMニュートン”を用いた追観測を実施。
図3.“GPM J1839-10”は地上と宇宙から追加の観測が行われただけでなく、過去の観測データアーカイブからの掘り起こしも行われた。(Credit: SARAO, Daniel López, IAC, Marianne Annereau, NCRA, CSIRO, Dragonfly Media, AUI, NRAO, ESA.)
図3.“GPM J1839-10”は地上と宇宙から追加の観測が行われただけでなく、過去の観測データアーカイブからの掘り起こしも行われた。(Credit: SARAO, Daniel López, IAC, Marianne Annereau, NCRA, CSIRO, Dragonfly Media, AUI, NRAO, ESA.)
それと同時に、過去の電波望遠鏡の観測データアーカイブを探索。
すると、アメリカ国立電波天文台(NRAO)の“カール・ジャンスキー超大型干渉電波望遠鏡群(VLA)”は1998年から、インド国立電波天体物理センター(NCRA)の“巨大メートル波電波望遠鏡(GMRT)”は2002年から、それぞれが“GPM J1839-10”からの電波をとらえていたことが判明しました。

この発見により、“GPM J1839-10”は少なくとも33年間、21分周期の強力な電波放出を継続していたことになります。
図4.天体の電波放出周期と磁場の強さの分布図を作成すると、理論的には観測数が急激に減少する“死の谷(Death Valley)”が形成される。今回発見された“GPM J1839-10”は、理論上は観測できないはずの“死の谷”を越えた先に位置する。白色矮星(青い帯)の場合は死線を乗り越えるいくつかの回避方法が考えられるが、中性子星(赤い帯)での回避方法は謎に包まれている。(Credit:  N. Hurley-Walker, et.al.)
図4.天体の電波放出周期と磁場の強さの分布図を作成すると、理論的には観測数が急激に減少する“死の谷(Death Valley)”が形成される。今回発見された“GPM J1839-10”は、理論上は観測できないはずの“死の谷”を越えた先に位置する。白色矮星(青い帯)の場合は死線を乗り越えるいくつかの回避方法が考えられるが、中性子星(赤い帯)での回避方法は謎に包まれている。(Credit: N. Hurley-Walker, et.al.)
“GPM J1839-10”の研究は、まだ始まったばかり。
なぜ、これほど長周期の電波放出が長年続いているのかは不明のままです。

でも、今回の観測とデータ分析が示していたのは、“GPM J1839-10”の正体が“死の谷を越えた”マグネターという可能性が高いことでした。(※)
マグネター以外には、非常に強力な磁場を持つ孤立した白色矮星という可能性もある。白色矮星にも“死の谷”を考えることは可能なものの、様々な理由で“死の谷”を回避できると考えられる。でも、今回の観測結果は、白色矮星からの放出とは一致しないことが判明している。
“GLEAM-X J162759.5-523504.3”や“GPM J1839-10”の存在は、中性子星やマグネターの物性に関する私たちの理解が不足していることを示しています。
なので、未知の部分を埋めるには観測の継続が役立つはずです。

また、このような長周期で長時間にわたる電波放出は、正体がはっきりと分かっていない“高速電波バースト(数ミリ秒前後の間だけ強力な電波を放出する高エネルギー天文現象)”の一部という可能性もあります。

今回の研究は、マグネターだけでなく高速電波バーストという別の天文現象の解明にも役立つのかもしれませんね。


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初期宇宙の観測だけじゃない! 太陽系内でも強みを発揮するジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が木星の衛星ガニメデとイオの謎を解明

2023年10月02日 | 木星の探査
高い赤外線感度と高性能な分光器を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は、遠方の深宇宙だけでなく、太陽系内の天体を観測する機能も有しています。

今回、木星の4大衛星であるガリレオ衛星のうち、ガニメデとイオの観測および分析結果が、それぞれの研究チームから発表され、それぞれの天体にまつわる謎が解明されたようです。
木星を周回する4つの大型衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)は、ガリレオ・ガリレイが望遠鏡で発見したので通称“ガリレオ衛星”と呼ばれている。衛星が大きいのでガリレオ手製の低倍率の望遠鏡でも見ることができた。
可視光で撮影された木星の衛星ガニメデ(左)とイオ(右)。(Credit: NASA, JPL, USGS)
可視光で撮影された木星の衛星ガニメデ(左)とイオ(右)。(Credit: NASA, JPL, USGS)

木星の衛星表面で発生する放射線分解というプロセス

木星は強い磁場を持っていて、宇宙空間に存在する荷電粒子(電気を帯びた粒子)をとらえて加速させています。

これらの粒子は時々木星の衛星たちに衝突し、表面にある物質を分解する“放射線分解”というプロセスが発生しているんですねー

この現象は、地質活動があまり活発でない天体表面で発生する主要な化学反応の1つになっています。

木星を周回する衛星たちは、表面が水の氷で覆われているので、放射線分解では水分子(H2O)が分解されて、酸素(O2)、オゾン(O3)、そして過酸化水素(H2O2)が生じることが分かっています。

でも、これまでの観測では過酸化水素が見つかっていない衛星もあります。

その衛星がガニメデでした。

過酸化水素が見つかっていない衛星

直径5268キロのガニメデは、木星に限らず太陽系で最も大きな衛星。
太陽系最小の惑星になる水星(直径4880キロ)よりも大きいほどです。

これほどの大きさがあるガニメデは中心部が金属に富んでいて、そこから磁場が発生していることが観測で判明している唯一の衛星でもあります。

磁場は荷電粒子の進路を曲げるので、表面の氷に衝突する荷電粒子の数が大幅に少なくなり、結果的に放射線分解が抑制されると考えられています。

例外は磁場が弱い両極域で、そこだけは荷電粒子が到達しやすくなると考えられています。
同じことは地球でも起こっていて、荷電粒子と大気分子との衝突で起こるオーロラの発生が、極域に限定される理由にもなっています。

放射線分解というプロセスは十分に理解されているとは言えず、ガニメデ表面に過酸化水素が存在しない理由は、これまで判明していませんでした。

もし、ガニメデの高緯度地域に限って過酸化水素が見つかれば、磁場によって低緯度地域での発生が抑えられたことになります。
そう、過酸化水素の存在を示すシグナルが弱すぎて、見つけることができなかったと説明することがるわけです。

ガニメデの過酸化水素が極致に限られることを解明

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるガニメデの観測データから過酸化水素の分析を実施しています。
この研究は、コーネル大学のSamantha K. Trumboさんたちの研究チームが進めています。
分析ではガニメデで初めて過酸化水素を発見。
さらに、過酸化水素は公転方向と同じ側の半球(先行半球、leading hemisphere)の両極地域に多く、低緯度地域ではほとんど存在しないことも明らかになりました。
ガニメデ表面の過酸化水素の分布図。先行半球(左)の両極地域に偏っていて、ガニメデの磁場が低緯度地域への荷電粒子の衝突数を減らしているという予測と一致する。(Credit: Samantha K. Trumbo, et.al.)
ガニメデ表面の過酸化水素の分布図。先行半球(左)の両極地域に偏っていて、ガニメデの磁場が低緯度地域への荷電粒子の衝突数を減らしているという予測と一致する。(Credit: Samantha K. Trumbo, et.al.)
これは、磁場の影響によって荷電粒子の衝突による氷の分解が両極地域に集中するという、事前の予測と一致する結果。
興味深い傾向として、同じく氷の分解物として生じる酸素は両極地域には少なく、低緯度地域に多いことが観測データから判明しています。

一見すると酸素と過酸化水素の分布は、矛盾しているように見えます。
でも、研究チームでは次の理由で矛盾はしていないと考えています。

酸素は氷とは結合しにくく、保持されるには気泡のような物理的な囲いが必要だと考えられます。
放射線分解は気泡そのものを破壊するほどの激しいプロセスなので、両極地域では発生する酸素の量よりも気泡の破壊によって逃げてしまう酸素の量の方が多いことになります。

逆に、低緯度地域では荷電粒子が届きにくいので放射線分解が起こりにくいものの、気泡も破壊されにくいので、結果的に酸素が保持されると考えることができます。

これに対し、過酸化水素は氷と結合しやすく、このような物理的な囲いは必要ないので、単純に発生量が分布に反映されているわけです。
過酸化水素の分布は、ガニメデが保持する磁場と荷電粒子との相互作用を、よく反映した結果なんですね。

地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体

木星を巡るガリレオ衛星の中で最も内側の軌道を公転しているのがイオです。
太陽系の衛星の中では4番目に大きく、半径は1800キロ強と地球の3分の1にもなります。

イオには、太陽系全体で見ても特異な性質があります。

それは、イオが木星や他のガリレオ衛星から潮汐力を受け、内部が加熱されて高温のマグマを放出していることです。
衛星の軌道が円形でないとき、惑星から遠いときはほぼ球体の衛星も、接近するにしたがって惑星の重力で引っ張られ極端に言えば卵のような形になる。そして惑星から遠ざかるとまた球体に戻っていく。これを繰り返すことで発生した摩擦熱により衛星内部は熱せられる。このような強い重力により、天体そのものが変形させられて熱を持つ現象を潮汐加熱という。
イオは太陽系の衛星の中では、最も火山活動が活発なことが有名で、その表面に確認されている火山は400以上。
そこからは硫黄を含むガスが放出されているようです。

イオは、地球以外では高温の活火山があることが知られている唯一の天体なんですねー

イオの一酸化硫黄と火山噴火の関連を証明

イオの火山から噴出する火山ガスの主成分は二酸化硫黄(SO2)ですが、少ない成分として一酸化硫黄(SO)も放出しています。

特に、一酸化硫黄分子が火山の熱で約1200℃まで加熱されると、エネルギーが高い励起状態になります。

励起状態は不安定なので、直ぐに光の形でエネルギーを放出することに。
ただ、このような光は、通常は他の大気分子との衝突で抑えられてしまうので、本来なら放出されることはありません。

でも、イオには薄い大気しか存在しないんですねー
なので、励起した一酸化硫黄が数秒後に光を放出することを妨げるような衝突は発生しにくい状態といえます。

また、一酸化硫黄は大きな火山だけでなく、チリをほとんど放出せずガスのみを放出するので観測が難しい“ステルス火山(stealth volcano)”からも放出されていると考えられます。

でも、一酸化硫黄分子から光が放たれる現象や、ステルス火山から一酸化硫黄が放出されているいう事実を観測で証明することは困難でした。

イオの大気組成の観測は非常に難しく、一酸化硫黄のような微量成分となればなおさら困難になります。
なので、一酸化硫黄の観測はイオが木星の影に入っている時だけ可能でした。

それは、イオが木星の影に入って太陽光が届かなくなると表面温度が低下し、二酸化硫黄が凍結して大気から消え、相対的に一酸化硫黄の量が増えることになるからです。

これに加えて、イオの見た目の位置が太陽から十分離れていて、1時間というかなり長時間の観測が可能な時には、ノイズになる大気の揺らぎや木星からのシグナルを補正する必要もあります。

これまで、そのような観測機器を備えていたのはハワイにあるケック天文台の“ケック望遠鏡”だけで、理想的な観測条件が整うことはめったにありませんでした。

この研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡によるイオの観測データを元に、一酸化硫黄と火山活動の関連性を分析しています。
この研究は、カリフォルニア大学バークレー校のImke de Paterさんたちの研究チームが進めています。
観測当時、イオで噴火をしていたのは“カネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)”と“ロキ火口(Loki Patera)”でした。
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でとらえたイオの一酸化硫黄の分布図。噴火しているカネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)の付近で最も濃度が高いことが分かる一方で、それ以外の地域にも多少濃度の高い部分があることも分かる。(Credit: Imke de Pater, et.al.)
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡でとらえたイオの一酸化硫黄の分布図。噴火しているカネヘキリ溶岩流(Kanehekili Fluctus)の付近で最も濃度が高いことが分かる一方で、それ以外の地域にも多少濃度の高い部分があることも分かる。(Credit: Imke de Pater, et.al.)
観測データを分析した結果、カネヘキリ溶岩流については、励起した一酸化硫黄から放出される1.707μmの赤外線をとらえることに成功。
また、これより弱いものの、一酸化硫黄からの放射は他の地域でも観測されました。

この結果は、励起した一酸化硫黄が見つけやすい火山の噴火に関連しているだけでなく、見つけることが難しいステルス火山からも放出されていることを示しています。

これらの観測結果は、この少し前におこなれたケック望遠鏡による観測結果とも矛盾していませんでした。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の能力の高さを証明する観測結果

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、NASAが中心になって開発した口径6.5メートルの赤外線観測用宇宙望遠鏡。
ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2021年12月25日に打ち上げられ、地球から見て太陽とは反対側150万キロの位置にある太陽―地球間のラグランジュ点の1つの投入され、ヨーロッパ宇宙機関と共同で運用されています。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡は赤外線望遠鏡として優れているだけでなく、見た目の移動速度が速い太陽系内の天体を追跡して詳細な観測が行えることも強みにしていて、今回の研究結果はその能力の高さを示す好例になりました。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いたガニメデやイオの追加観測は、今後も行われる予定です。
さらに、他の惑星や衛星の観測も予定されているので、太陽系の天体に存在する多くの謎が明らかになることが期待されますね。


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2023年10月01日 | 地球外生命っているの? 第2の地球は?
私たち人類は、この宇宙で唯一の文明を持つ知的生命体なのでしょうか?
それとも、他にも文明を持つに至った知的生命体は存在するのでしょうか?

この疑問を解決するために行われている取り組みの1つが、宇宙から届く様々な電波を分析して、その中から地球外文明に由来すると思われる信号を見つけ出す“SETI(地球外知的生命体探査)”です。

SETIは、1960年代以降興味深い信号を何度も検出しています。
でも、地球外文明に由来すると特定された信号は、今のところ1つもありませんでした。
地球外文明に由来する信号の捜索に使用された施設の1つ、パークス天文台の64メートル電波望遠鏡。(Credit: S.Amy, CSIRO)
地球外文明に由来する信号の捜索に使用された施設の1つ、パークス天文台の64メートル電波望遠鏡。(Credit: S.Amy, CSIRO)

地球外文明の非意図的に漏れ出た電波

電波で発信された人工的な信号は、自然由来の信号と比べて周波数の幅が狭い(狭帯域)と予測されているので、SETIではそのような特徴を持つ電波を探しています。

でも、人工衛星から電子レンジに至る人類が作り出した様々な発信源からも、地球外文明からの信号と誤認されやすい信号が発せられているんですねー

なので、捉えた信号が地球外文明のものだと推定する一つの根拠として、時間を空けて同じ方向から複数回検出されることが求められています。

でも、これまでにSETIで捉えられた興味深い信号は、全て1回だけの検出に留まっていました。
そして、おそらく将来的に本物の地球外文明の信号を受信したとしても、それは1回限りの検出に留まると予測されています。

地球外文明が、意図的に地球に向けて信号を送信するかどうかを知ることはできません。
なので、地球に届く地球外文明の信号は、非意図的に漏れ出た電波と予想することができます。

このような信号を私たちが捉えるには、電波の送信された方向に偶然地球があるという、正確な位置条件を満たさないといけません。

星々は、それぞれ固有の方向・速度で動いているので、そのような位置条件がたまたま満たされるのは、あったとしても1回限りである確率がとても高いと言えるからです。
1977年に検出され当時地球外文明のものだと疑われた信号。走り書きのメモから“Wow! シグナル”と呼ばれるこの信号は、その後一度も再検出されておらず、現在では地球由来のものだと考えられている。(Credit: Big Ear Radio Observatory & NAAPO (Public Domain))
1977年に検出され当時地球外文明のものだと疑われた信号。走り書きのメモから“Wow! シグナル”と呼ばれるこの信号は、その後一度も再検出されておらず、現在では地球由来のものだと考えられている。(Credit: Big Ear Radio Observatory & NAAPO (Public Domain))

シンチレーションは電波でも起こる

では、1回限りの信号が何に由来するのかを区別することはできるのでしょうか?

この問いに対して、条件次第で可能だとする研究結果が発表されました。
この研究は、カリフォルニア大学バークレー校のBryan Brzyckiさんたちの研究チームが進めています。
この研究でカギになるのは、電波に対する“星間物質”の影響でした。

宇宙は真空の空間ですが、非常に希薄ながらも物質が存在していて、その中には電波に影響する自由電子も含まれています。

長い距離を移動する電波は星間物質の影響を受けることが電波天文学で確認されていて、現在ではその影響度を予測することができます。

そこで、今回の研究では“地球外文明の信号は周波数の幅が狭い”という前提で、星間物質の影響を調査。
すると、星間物質によって電波の屈折と干渉が起こり、1分未満の時間で電波の強度が変化する“シンチレーション(scintillation)”が起こることが分かります。

これは、ちょうど夜空の星が瞬く現象と似ています(シンチレーションのもともとの意味は“星のまたたき”)。

地上から見る星は、大気の揺らぎの影響を受けて光の進む向きが曲げられます。
すると、光の波が重なり合った場所で光を強め合う・弱め合う現象が起こるので、星の明るさが明るくなったり暗くなったりするように見える現象が起こるわけです。

研究チームが予測したのは、これと同じことが電波でも起こるということ。
重要なのは、シンチレーションによって電波源のおおよその距離が推定できる点にあります。

肉眼的な星のまたたきは、遠く離れた恒星では起こりますが、近くにある惑星では起こりません。
これは、惑星がある程度の大きさを持って見える光源なのに対して、恒星は余りにも遠く離れているので、点状の光源として見えるからです。

研究チームが予測した電波信号のシンチレーションも、遠く離れた1点の電波源から届くことで起こる現象です。
なので、この性質は電波望遠鏡などのすぐ近くで発せられた地球由来の電波信号と区別する上で重要なことになります。

また、地球外文明の信号を受信できる機会が1回限りだったとしても、シンチレーションは検出可能なので、この信号が地球外に由来するのかどうかを判断する上でも、やはり重要になります。

ただ、非常に薄く存在する恒星間物質の影響を受けて電波信号にシンチレーションが起こるには、長い距離を伝達する必要があるんですねー

研究チームが考えているのは、検出可能なシンチレーションが起こるのは、信号が1万光年以上の距離を伝搬した場合に限られていること。
つまり、宇宙のスケールでは“ご近所”と言えるほど近くにある地球外文明の検出には、今回の方法は使えないということですね。


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