5月初旬…北海道でも青森でも30度近くだったのに、月末は関東でもマフラーをしたくなるような寒さ。梅雨(つゆ)が近いとはいえ、不思議な感じだ。
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5月2日
チリ中部のチャイテン山が噴火し、4,000人が避難した。6日には溶岩流を噴出し火砕流も発生。降灰は隣国アルゼンチンなど広範囲に及び、火山から約70km東に離れた街フタレウフェでは6日時点で30cmの降灰を観測した。
チリの火山チャイテン山の噴火のニュース(動画)(火山の様子が凄まじい)
サイクロン・ナルギス@ミャンマー
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5月12日
中華人民共和国四川省でマグニチュード8.0の
地震が発生。
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5月22日
ににに、と、何かあるかな・・・と見てみたが、これと言ってなし。
そんなわけで、見てみた。
今日(22日)は、コナン・ドイルの誕生日。ナオミ・キャンベルの誕生日。リヒャルト・ワーグナーの誕生日。
そして、見てみた。
今日は、ヴィクトル・ユーゴーの亡くなった日だ(1885年)。
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ほんじつの・・・ある一編。雨の夜長の暇つぶしには、こういうのもまた、ちょうど良いでしょう
「でも、あなた!」とマリユス 1)は尊敬のまじった怒りをこめて叫んだ。
「あなたはなぜ言ってくださらなかったのです? あなたの罪でもありますよ。人の命を救っておきながら、それを当人に隠しておくなんて!
そればかりではない、正体を見せるという口実で、ご自分を中傷なさった。それはあんまりです」
「わたしは真実を言ったのです」とジャン・ヴァルジャン 2)は答えた。
「いいえ」とマリユスは言った。
「真実とは全部の真実です。それをあなたはおっしゃらなかった。あなたはマドレーヌ氏だった、なぜそうおっしゃらなかったのです?
あなたはジャヴェール 3)を救った、なぜそうおっしゃらなかったのです?
わたしはあなたに命を救っていただいた、なぜそうおっしゃらなかったのです?」
「わたしもあなたと同じ考えだったからです。わたしはあなたの言うことが、正しいと思っていました。わたしは行ってしまわなければならなかったのです。あなたは下水道のこと 4)を知ったら、わたしをそばから放さなかったでしょう。
だから黙っているべきでした。
話せばすべての障害となったことでしょう」
「なんの障害です! 誰の障害です!」とマリユスは言い返した。
「あなたはここにいつづけるつもりですか? 僕たちお連れしますよ。
ああ! なんてことだ! すべてを知ったのが偶然からだと思うと!
僕たちお連れしますよ。あなたは僕たちの一部です。あなたはあれの父親であり、僕の父親です。こんなひどい家にもう一日だって暮らさせませんよ。
明日もここにいるなんて考えないでください」
「明日は」とジャン・ヴァルジャンは言った。
「ここにはいないけど、お宅にもいないでしょう」
「どういう意味です?」とマリユスは訊(き)き返した。
「ああ、そうか、もう旅行なんて許しませんよ。もう僕たちと別れさせませんからね。あなたは僕たちのものです。放しませんよ
」
「今度こそ本当よ」とコゼットが言い添えた。
「下に車を待たせてあるの。あなたをさらって行きます。なんなら力づくでも連れて行きます
」
そして、笑いながら、彼女は老人を腕に抱き上げる格好をした。
「家には今でもお父さまのお部屋があってよ」と彼女はつづけた。
「このごろ庭がどんなにきれいかご存じだったら!
ツツジがとても見事に育っています。
小道には川の砂が敷いてあって、スミレ色の貝殻がまじっているの。
わたしの苺(いちご)も食べられてよ。
わたしが水をやったの。
そしてもう奥さまだの、ジャンさんだのはおしまい、わたしたち共和制をつくって、みんなが<お前>って呼び合うの、ねぇ、マリユス?
綱領が変わったのよ。
そうだわ、お父さま、わたし悲しいことがあったのよ。
駒鳥(こまどり)が壁の穴に巣をつくっていたのに、ひどい猫に食べられてしまったの。可哀(かわい)そうに、きれいな、可愛(かわい)らしい駒鳥で、窓から顔を出しては、わたしを見ていたのに!
わたし泣いたわ。猫を殺してやりたかったわ!
でもこれからは誰も泣かない。
みんな笑うの。みんな幸福になるの。わたしたちと一緒にいらしてね。お祖父(じい)さまもさぞお喜びでしょう!
庭にご自分の土地を持って、何か植えてちょうだい。お父さまの苺がわたしのぐらいうまくできるか競争しましょう。
それから、わたしなんでも、お父さまのお望みのことをしてあげるわ、それからお父さまはわたしの言うことをよくきくのよ
」
ジャン・ヴァルジャンは聞くともなく耳を傾けていた。言葉の意味より、声の音楽を聞いていた。魂の曇り真珠である大粒の涙が一粒、ゆっくりと目の中に宿った、彼はつぶやいた。
「神さまが親切な証拠に、この子がここにいてくれる」
「お父さま!」とコゼットは言った。
ジャン・ヴァルジャンはつづけた。
「全く、一緒に暮らすのはすばらしいことだろう。
小鳥のいっぱいいる木があって。わたしはコゼットと散歩する。
生きている人たちの仲間入りをし、お早(はよ)うを言いかわし、庭で呼び合う人たちの仲間入りをするのは、楽しいことだ。
朝から顔を合わせる。
それぞれ庭の片隅に何か植える。
この子はわたしに手づくりの苺を食べさせ、
わたしはこの子に手づくりのバラを摘ませる。
すばらしいことだろう。ただ……」
彼は言葉を切り、そして優しく言った。
「残念だ」
涙は落ちずに引っこみ、ジャン・ヴァルジャンは涙を微笑にかえた。コゼットは老人の両手を自分の両手の中に取った。
「まあ!」と彼女は言った。
「手が前より冷たくなっているわ。ご病気なの? お苦しいの?」
「わたしがかい? いや」とジャン・ヴァルジャンは答えた。
「とても調子がいいよ。ただ……」
彼は言葉を切った。
「ただなんですの?」
「もうじき死ぬのだよ」
コゼットとマリユスは身ぶるいした。
「死ぬんですって!」とマリユスは叫んだ。
「そう、でも、なんでもないことだ」とジャン・ヴァルジャンは言った。
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ドアで物音がした。医者が入って来たのだった。
「こんにちは、そしてさようなら、先生」とジャン・ヴァルジャンは言った。
「これはわたしの可哀そうな子どもたちです」
マリユスは医者に近づいた。彼はただひと言「先生?……」と言葉をかけただけだったが、その言い方には完全な質問が含まれていた。
医者は意味ありげな目ばたきで質問に答えた。
「物事が好きなようにならないからといって」とジャン・ヴァルジャンは言って、「神さまにたいして不当であっていい理由にはならない」
沈黙が訪れた。みんなの胸がしめつけられた。
ジャン・ヴァルジャンはコゼットの方に向いた。彼女の幾分かを永久に所有しようとでもするみたいに、彼女を見つめだした。すでに闇(やみ)の深みに落ちてはいたが、コゼットをながめて、うっとりとすることができた。彼女の優しい顔の反映が、彼の蒼白な顔を輝かすのだった。墓にも眩惑(げんわく)があるものだ。
医者は彼の脈を取った。
「ああ! この人に必要だったのはあなたたちですな」と医者はコゼットとマリユスを見ながらささやいた。
そして、マリユスの耳もとにかがみこむと、ごく低くつけ加えた。
「手おくれです」
~レ・ミゼラブル(ヴィクトル・ユ-ゴー作、佐藤朔訳,新潮文庫)より~
【注】
(「レ・ミゼラブル」)
1)マリユス:コゼットの夫になった人。
2)ジャン・ヴァルジャン:1片のパンを盗んだことが契機で、19年間牢獄にいた。マドレーヌ市長となりその地方を栄えさせたが、自分と間違えられて、別の人が裁判にかけられるのを見過ごせず、名乗り出る。その後、コゼットの亡くなった母親の頼みにより、コゼットを助け出し、養育する。(かなりはしょった説明)
3)ジャヴァール:ハイエナのような、職務に忠実な人物。
4)下水道のこと:パリの崩れ去ろうとするバリケードの中から、ジャン・ヴァルジャンがマリユスを背負って下水道の中を歩き、助け出したこと。