ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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手塚治虫降誕の日……ブラックジャックはなぜ無免許なのか

2020-11-03 20:58:14 | 日記

今日は11月3日。

“文化の日”ですが……この日は、手塚治虫の誕生日でもあります。

そういうわけで数年前に手塚治虫の『三つ目がとおる』に関する記事を書きました。
今年はひさびさに、この日本漫画界のレジェンドについて書いてみようと思います。



このブログは“ロック探偵”と看板にかかげていますが、ロックと漫画は非常に高い親和性を持っています。
戦後カウンターカルチャーの最前衛という意味で、ロックと漫画は似たような立ち位置にあるのです。
それまで確立された権威として存在していた“芸術”の様式に対して挑戦し、より大衆的な方向を目指す文化――それは、19世紀以降“民衆”が歴史の表舞台に登場した時代と軌を一にして発展し、絵画、文学、音楽とあらゆる方面にその傾向がみられました。20世紀、音楽においてその最前線に立ったのがロックであり、日本文化においては漫画がそれに近い位置にあった、というのが私の評です。

その一つの証拠となるのが、世間の側の対応です。
立ち位置が共通しているがゆえに、“権威”側のリアクションも似てくることになります。
手塚漫画は、1960年代頃には「不健全」ということで広場で燃やされたりしていたんですが、たとえばエルヴィス・プレスリーのレコードがアメリカで同じような目に遭っていたことは、このブログでも何度か紹介してきました。
“権威”の側からすれば、カウンターカルチャーは自分たちの価値観を脅かす脅威にほかなりません。それが、焚書のような反応を引き起こすわけです。

手塚治虫の代表作の一つ『ブラックジャック』の主人公ブラックジャックが無免許医であるのは、そういうことが背景になっているのではないかという解釈があります。

神の腕をもつにも関わらず、免許を持っていないということでモグリ扱いされる。その姿は、どんなにすぐれた作品を描いても、漫画であるというだけで二流扱いされる自身の姿が反映されているのではないか――と。
まあしかし、今ではそんなことはありません。
手塚治虫という人の評価は確立していて、二流扱いすればその人の見識が疑われるということになるでしょう。そしてそれは、まさに音楽におけるロックというものがたどってきた道でもあるのです。

というわけで、手塚プロの公式チャンネルで公開されているブラックジャックのアニメ版です。
21世紀になって制作された新シリーズの第一話。
先述したようなことを考え合わせれば、じつに示唆に富んだ内容といえるでしょう。

【公式】ブラック・ジャック21 第1話『医師免許が返る日』

ちなみに、このシリーズには『三つ目がとおる』の写楽や和登サンも登場します。
『三つ目がとおる』は、『ブラックジャック』と同時並行で連載されていた作品なので、テイスト的にも親和性があるということでしょうか。ただ、アニメ版『三つ目がとおる』でもそうですが、和登サンの魅力というのは手塚治虫本人以外のペンではなかな出せないものですなあ……