カーの『火刑法廷』という小説を読みました。
これまでに何度か書いてきた、ミステリー古典キャンペーンの一環です。
カーといえば、“密室の帝王”というふうに私は認識していて、一般にもそういうイメージはあると思うんですが……この文庫の解説によると、実際にはそうでもないということです。いわく、70冊ある長編の中で、密室ものと呼べるのは十篇ほどしかないと……
まあ、案外そんなものかもしれません。
ただ、量の問題ではなく質の問題として考えると、やはり密室史においてカーの名前をはずすことはできません。
彼が案出した密室トリック一つ一つのインパクトが大きいために、密室専門のような印象を持たれているということなんでしょう。
この作品は密室を扱ったものですが、密室殺人という部分にかんしてはそれほど手がこんでいるとはいえません。
どちらかといえば、密閉された墓所に納められた棺桶のなかの死体がいかにして消失したかという謎と、主人公の妻をめぐるオカルトめいた謎がポイントです。
そして、最後には、ミステリーとオカルトどちらにも解釈可能というエンディングになっています。
このへんも、カーが単にミステリー作家というところにとどまらないストーリーテラーであったことを示すものといえるでしょうか。
このオカルト的な部分も含めて、横溝正史なんかは大きな影響を受けているわけです。
本作も、怪奇ミステリーの傑作といえるでしょう。