高木彬光の『白昼の死角』という小説を読みました。
例によって、ミステリーキャンペーンの一環。
高木彬光は、本格系ミステリー作家で、江戸川乱歩が“戦後五人男”と呼んだ中の一人です。
その五人の中には、私がリスペクとしてやまない山田風太郎がいて、また、『ゴジラ』第一作の原作者である香山滋もいたりするわけですが……なかでも、高木彬光は乱歩とダイレクトに関係があります。
そもそも、デビューにいたるきっかけが乱歩なのです。
処女作の原稿を江戸川乱歩に送り、乱歩に認められてデビュー。そして、横溝正史から短編の手ほどきを受け……という、これ以上ないぐらいに正統派な本格派。
しかし、それだけにとどまらず、社会派推理小説が台頭してくると、社会派風の作品も書く……漫画界における手塚治虫のようなバイタリティです。決して“時流にあわせる”ということではなく、新たな舞台に果敢に進出していったのだという風格があるところも、手塚御大と共通します。
作中で、松本清張の作品に出てくる仕掛けを「児戯に類するもの」と一蹴するせりふが出てきますが、これもそうした姿勢の表れでしょう。松本清張といえば、社会派推理を代表する作家。高木彬光より年上ながら、作家としては後輩にあたるという微妙な関係ですが、この社会派の泰斗にケンカを売るようなことをいっているのも、自分が第一線にいるという強い自負からくるものでしょう。
松本清張は歴史モノでも名を馳せていますが、高木彬光もまた歴史ジャンルに進出していて、歴史のリングでも清張とやりあったといいます。いやはや、なんとも頼もしいかぎりです。
で、『白昼の死角』なんですが……
社会派傾向のミステリーということで、経済犯罪を描いています。
高木作品は神津恭介という探偵役が有名ですが、そのシリーズではありません。犯人を主人公として物語が展開するある種のピカレスクとなっています。
松本清張御大の仕掛けを児戯に類するものとこき下ろすだけあって、金融業界の裏の裏までを研究し尽くして練り上げられた、相当高度な犯罪です。話の発端となる“太陽クラブ”はアプレゲール山崎晃嗣の“光クラブ”をモデルとしていますが、日本の戦後史を絡めてストーリーが展開していくところも面白みが感じられます。
社会派台頭の後に、本格の風味を取り入れた“新社会派”というものを想定する見方もあるようですが……だとすれば、高木彬光は新社会派の先駆といえるかもしれません。