ロック探偵のMY GENERATION

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ベースの日 ベーシスト列伝 ~UKパンク編~

2021-11-11 16:23:58 | 日記

今日は、11月11日。

「ベースの日」です。

昨年と同様、今年もベーシスト列伝をやりたいと思います。
今回は、UKパンクに焦点をあてて……



シド・ヴィシャス
 セックス・ピストルズの伝説的ベーシスト……なのだが、ベーシストしてはほとんど評価されていない。というよりも、そもそも、まともに演奏することができなかったともいわれている。
 ピストルズというバンドもパンクの伝説だが、どうもそのアイコンが独り歩きしている印象があって、シド・ヴィシャスという人物はその虚構性の象徴といえるかもしれない。
 曲は、Anarchy in the UK。

Sex Pistols - Anarchy In The UK - Live at Winter Gardens (S.P.O.T.S Tour)


ポール・シムノン
 クラッシュのベース。
 本来は、ボーカルにするためにミック・ジョーンズ(gt)がつれてきたのだという。ビジュアル面を強化すべく、イケメンをフロントマンに配しようというのがその意図だった。しかし、歌わせみるとどうもぱっとしない。そこで、ベースを弾かせようということになったそうだ(ベースというポジションはこういうケースが結構あって、シド・ヴィシャスがピストルズでベースを弾くことになった経緯も同様らしい)。その代わりにボーカルとなったのがジョー・ストラマーだったという奇跡が、クラッシュの伝説につながる。
 ただ、“成り行きベーシスト”とはいえ、ポールは決して数合わせの存在ではないし、ピストルズにおけるシド・ヴィシャスのようなお飾りでもなかった。
 ポールの生まれ育ったブリクストン地区にはカリブ地域出身者が多く、ポールも子供の頃からカリブの音楽を聴いて育った。クラッシュがレゲエの要素を取り入れていくときに、それが助けになったともいわれているのだ。
 それが発揮された「ブリクストンの銃」の動画を。
 シムノンが作り、シムノンが歌っている歌。ハーダー・ゼイ・カムがモチーフになっていて、歌詞にもthe harder they come という言葉が出てくる。逆に、本家ジミー・クリフがこの歌をカバーしていたりもする。

The Clash - The Guns of Brixton (Official Audio)

 収録されているアルバムはLondon Calling で、上の動画はそのアルバムジャケットが使われているが、このベニー・スミスによる有名なジャケ写でフェンダー・プレシジョンベースをステージに叩きつけようとしているのがポール・シムノンである。観客のノリが悪かったからということでこの行動に出たのだとか……ステージパフォーマンスとしてのギター破壊は珍しくないが、ライブ本番で観客にキレて楽器を破壊するやつもそういないだろう。そのエピソードからもわかるように、シムノンさんはなかなかエキセントリックな人のようで、アルバム『サンディニスタ!』をめぐる騒動の過程では、マネージメントサイドとのミーティングにウサギの着ぐるみを着て現れたという逸話もある。
 ちなみに、『ロンドン・コーリング』のジャケ写に写されたシーンのその後だが、シムノンは思いとどまることなく実際床に叩きつけて、ベースは大破。ネックが折れ、ボディも真っ二つになったそのプレべは、現在ロンドン博物館に展示されている。


キャプテン・センシブル
 The Damned のベース。
 ダムドは初期UKパンクを代表するバンドの一つで、デビュー当初ベースを弾いていたのがキャプテン・センシブル。ただし、後にポール・グレイが加入すると、ギターにまわった。やはり、ベースというポジションは、そういうコンバート可能の部分があるのだ。シド・ヴィシャスもスージー&ザ・バンシーズでドラムを叩いていたというし……ほかの楽器をやっていた人間が誰もやる人がいないからということでベースに回されるケースの代表格はポール・マッカートニーだが、そうしてベースにまわされた人物がそこで才能を発揮させると、バンドのサウンドはぐっと面白くなってくるだろう。

 曲は、New Rose。
 これが、パンクの最初のシングルとされている。
 政治的な内容を歌ったりはしないバンドだが、それゆえにこそ、実はUKパンクのなかでもっとも過激なのはこのダムドだったのかもしれない。

The Damned - New Rose (Official HD video)


バリー・アダムソン
 マガジンのベース。そのマガジンの中心人物であるハワード・デヴォートが在籍していたバズコックスにも一時参加していた。このバズコックスというのが、UKパンクにおける重要バンドである。
 バズコックスを語るときには、よくDIY精神ということがいわれる。
 初の自主制作レコードを出したのはバズコックスとされているが、その際メンバー自ら手作業でレコードをジャケットに封入していたとか……これはまさにDIYの発露といえる。また、バズコックスといえば思い出されるのはテレビ出演の際の武勇伝。ボーカルのハワード・デヴォートが口パクを強要されたことに反発し、音楽が流れているにもかかわらず口を真一文字に結んだまま仁王立ちという抗議を敢行し、テレビから干されたという。パンクスたる者かくあるべしというエピソードだろう。そのハワードがバズコックス脱退後につくったバンドが、マガジンで、バリー・アダムソンはそこでベースを弾いていた。また、マガジン解散後、バリーはヴィサージというバンドを結成。このバンドは、ニューロマンティックの開祖とも目されている。
 曲は、Parade。マガジンの曲はほとんどハワード・デヴォートが作っているようだが、この曲はバリー・アダムソンがキーボードのデイヴ・フォーミュラとともに作った。まあ、私個人としてはハワードが作った曲のほうが好みなのだけれど……一応、今日はベーシストに焦点をあてようということなので。

Parade (Remastered 2007)


ピーター・フック
 ジョイ・ディヴィジョン~ニューオーダーのベース。
 ストーンローゼズのマニ、スミスのアンディ・ルークとともに、ベース三人組のユニット Free Bass でも活動した。ローゼズに関しては、シングル曲をプロデュースしたという関係もある。伝説的なクラブ“ハシエンダ”にも関与していて、いわゆるマッドチェスターの立役者とも目されている。
 バズコックスが最初にライブをやったとき観客は42人しかいなかったが、その42人のなかの一人はピーター・フックだった。彼は、同じくその42人の一人であるバーナード・サムナーとともにジョイ・ディヴィジョンを結成。
 ジョイ・ディヴィジョンといえばイアン・カーティスのカリスマ性というところが注目されるが、その結成にいたる経緯からも、ピーター・フックは実質的中心人物といえる。ベースというポジションは代替可能性が高い一方で、音楽的な土台であり、しばしばサウンドの中心であるということもまた真理なのだ。だからこそ、イアンの死後ニューオーダーというバンドが成立したわけである。ピーター・フックいわく、「俺のいないニューオーダーは、フレディ・マーキュリーのいないクイーンのようなもの」だそうだ。
 曲は、ジョイ・ディヴィジョンの Atmosphere。

Joy Division - Atmosphere [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

  お前の混乱
  俺の幻想
  自己嫌悪の仮面のようにくたびれはて
  争い、そして死んでゆく
  歩き去っていかないでくれ

 こんな歌詞に、この曲、そしてこの動画……まさに唯美主義の極致である。


ジャン・ジャック=バーネル
 The Stranglers のベース。
 名前からも察せられるようにフランス系の人。三島由紀夫の愛読者であり、石橋凌氏がやっていたARBに一時参加したことがあるなど、日本とも縁が深い。YUKIOという歌があったり、佐川一政をモチーフにした曲があったりもする。
 ストラングラーズは、どちらかというとクラッシュのような熱いパンクに対して冷笑を浴びせかけるようなタイプ。
 ピストルズ、クラッシュ、ダムド、ジャムとこのストラングラーズをあわせてUKパンクの5大バンドといったりもするが、反体制的なメッセージを前面に押し出しているのは、このなかでは実はクラッシュぐらいのものかもしれない。パンクといえば反体制というイメージは間違ってはいないが、その一方で、ともすれば極右につながりかねないような唯美主義系の流派も存在する。ストラングラーズは、パンクムーブメント初期にそういう方向性を示したバンドといえるだろう。
 ちなみに、ストラングラーズといえばキーボードが重要な役割を果たしているが、そのキーボード奏者デイヴ・グリーンフィールドは、昨年新型コロナ感染症で死去している。これを受けて、今年バンドは、デイヴを追悼する If You Should See Dave...という曲を発表した。「もしデイヴにあったら、よろしく」……まあ、本来ストラングラーズはこういうしんみりとした歌を歌うバンドではないと思うが。

The Stranglers - And If You Should See Dave... (Official Video)


ブルース・フォクストン
 The Jam のベース。
 ジャムといえばポール・ウェラーであり、あまり他のメンバーの印象がないが……しかしUKパンクといえばこのバンドを取り上げないわけにはいかない。
 ジャムは、モッズの後裔とも目され、パンクバンドのなかでも特殊な立ち位置にあった。
 中心人物であるポール・ウェラーは政治的に保守ともとれるような発言をすることがあるが、どちらかというとそれは、多くのパンクバンドが体制批判を売りにしていることに対する反発……いうなれば、アンチのアンチというスタンスからくるものとも思える。
 そんなスタンスをそのまま歌にしたような Going Underground。

The Jam - Going Underground (Official Video)

 あんたたちは指導者を選び 信任を与える
 やつらの嘘はあんたを失望させ 約束は錆びついていく
 人工腎臓が銃やロケットに置き換えられていくのを目にするだろう
 大衆は、手に入るものを欲する
 だけど俺は社会が求めるものなんか欲しくないんだ

 俺は地下に潜るよ
 ブラスバンドが演奏すれば、行進がはじまる
 地下にむかって 

 この渇いた達観は、モッズの先輩であるフーの「無法の世界」なんかに通ずるものがあるだろう。
 右も左も否定した結果、全否定に行きつき、もう地下にでももぐるよりほかなくなるということか……まあ、それがパンクというものの本来のあり方なのかもしれない。パンクスが日の当たる場所に出てきてどうする?




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