横溝正史の「幻の女」という作品を読みました。
横溝といえば、最近“新刊”が出て話題になってますね。
ミステリー書き、特に、本格ミステリーを書く人にとっては、レジェンド的な存在。私も、横溝作品には強く影響を受けている自覚があります。
さて、横溝正史といえば金田一が有名ですが……「幻の女」は金田一シリーズではありません。
横溝作品は、由利麟太郎という探偵役もいて、これが“由利先生”シリーズという金田一とは別のシリーズになっています。「幻の女」は、この由利先生シリーズの一作なのです。
金田一ももちろんいいんですが、私は由利先生も捨てがたいと思っています。
由利先生シリーズは主に戦前に書かれていて、話の舞台はもちろん戦前。
時代風俗や社会制度がかなり違うので、金田一シリーズとはまた違った意味で異界感があります。そこで展開される横溝ワールドがたまらないんですね。一説には、こういう草双紙趣味はその当時でも古臭いものであり、あえてそういう趣向を用いたのは、帝国化する日本に対する横溝のささやかな抵抗だったともいいますが……
ともあれ、そうした草双紙趣味は、「幻の女」でも顕著でした。
筋立てとかトリックのことを考えると、僭越ながらちょっと雑だなという部分も多々あるのですが……しかしやはり、東京を“帝都”と表現したり、“子爵”が出てきたりするところがいいわけです。
そして、この作品はヒロインがじつに素晴らしい。
あまり詳しいことを書くとネタバレになるので控えますが……このヒロインを作り出したのは、さすが横溝御大です。
猟奇殺人、忍び寄る怪しい影、そして魅力的なヒロイン、活劇……やはり、エンタメとはこうありたいものです。