seishiroめもらんど

流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

エンターテイメントと経済危機

2009-03-08 | 雑感
 映画「おくりびと」が公開25週目にして興行成績1位となったことが大きく報道されている。米国アカデミー賞の外国語映画賞に輝いたことが大きな要因であることは確かだが、慶賀として素直に喜びたい。
 きっかけは何であれ、作品の存在が人々に広く知られ、その価値が認知されたということが重要なのである。
 このことは近年の邦画製作本数の増加がもたらした結果と見る向きもあって、確かに作品数が増えればそれだけ優れた作品が生まれる可能性も高くなる。無論ことはそれほど簡単な話ではないだろう。粗製濫造に陥ることは厳に戒めなければならないし、資金調達や市場開拓の問題、次代の人材育成など課題は山積している。
 しかし、そうした中でも、日本的感性や心性に根ざした作品が内外に受け容れられたことは何よりも喜ばしいことだ。
 反面、わが国での洋画の相対的な停滞ぶりが話題となっている。これはどういうことか。

 米大手映画会社が邦画の製作・配給に相次いで進出しているとの話がある。ワーナー・ブラザースやソニー・ピクチャーズ、20世紀フォックスの日本法人が製作委員会の一角に加わるなど、邦画に参入している。これに最近、ウォルト・ディズニーも加わったとのことである。
 これは文化帝国主義の凋落というべきか、従来のようにハリウッド映画をそのまま日本に持ち込む方式に限界がきたということであるが、別の見方をすれば、わが国の多くの観客が邦画独自の面白さや価値に気付いたことの確かな現われでもあるだろう。

 さて、かたやミュージカルの名所、ブロードウェーの話題であるが、人気作品が次々と公演打ち切りに追い込まれているとのことである。深刻な不況を受けて、娯楽費を抑える家庭が増え、観客の減少に歯止めがかからないためであり、「100年に一度」といわれる経済危機が華やかなショービジネスの街に暗い影を落としている、と日本経済新聞は伝えている。
 こうした事態への対策は次のようなものだ。
 1つは、チケット代の値引きであり、以前と比べておよそ30から50%の値下がりとのこと。また、ディズニーは大人用チケット1枚購入につき、子ども用1枚の無料キャンペーンを実施している。
 第2に、当たり外れの読めない新作よりも、実績のあるリバイバル作品を重視する戦略。
 第3が、製作費のかさむミュージカルではなく、有名俳優を起用した演劇にくら替えしてコスト減を図るという方策。
 さらに第4が、アジアを中心とした新規市場に期待して出稼ぎ公演を行い、海外市場を開拓するというもの。
 すでに演劇ガイドの雑誌などでは大きな広告が目を引いているように、「ヘアスプレー」「レント」といった作品は今年の初夏以降、日本での公演が決まっている。

 新たな収益機会を伺ったこれらの戦略であるが、不況はいずれの国においても深刻化しつつあり、すでにエンターテイメントの飽和状態にあるともいえる日本において、わが国独自の価値への目を開かれつつある観客がどのような動きを見せるのか、様々な意味で興味は尽きない。