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最近、昼によく散歩をする。JR西日暮里駅裏の崖の上にある諏方神社
に上がり、谷中界隈を散策して日暮里駅脇の坂を下って帰宅するコース
が主だったが、何となく西日暮里の駅前から田端台を上り、田端駅前に
出るコースを歩いてみたくなった。
田端の高台は後世「田端文士村」などと言われ、大正~昭和の初め頃、
芥川龍之介他、様々な方面の芸術家・作家・文化人が住んでいた土地で
もある。最初の画像は、芥川の終の住処跡に立つ記念碑である。三階建
ワンルーム・マンションだかの敷地の隅っこに建てられている。
芥川の旧居跡碑は、JR田端駅の西側の高台に上ってから、童橋を左折
して数分の場所にある。其の辺は入り組んだ狭い路地のような地形で、
今は新築の家屋ばかりが立ち並び、昭和初期の往時を偲ばせるものは皆
無に近い。
坂口安吾は田端の芥川邸を「陽当りの良い暗い家」と評したが、当時、
見晴らしはさぞ好かったのだろう。高台なので隅田川の流れが光って見
えていたかもしれない。それでも何故か「暗い家」だった処に、芥川の
屈折した心ばえだか、何らかの反映が家相にでも浮かんで見えたのかと
も訝しく思う。
二枚目の画像は、旧居跡に通じる道すがらに立つ、古めかしいコンクリ
ート塀である。町内会の掲示板が掛かっており、古い木立が並び、この
鄙びた風情にだけ、唯一昭和30~40年代頃の臭いがしたが。
芥川は昭和2年にこの旧居で服毒自殺した。「ぼんやりとした不安」に
襲われて自死したとされる。今、田端台を歩いても、芥川のような人物
を偲べる場所は、既にどこにも見当たらない。古い町並みが残っていな
いという物理的問題だけではなく、今のような豊かな時代の彩りが溢れ
る中では、芥川のような陰翳は見出しにくいという感じだ。
芥川の死後、歴史の歯車は日本を自滅への戦争へと急傾斜させていく。
彼の感じていた「ぼんやりとした不安」が的中したものか、評価は定か
でないが、今日の世界では、テロとの戦争が火を噴き始めている。
今また歴史は、「ぼんやりとした不安」の時代に、差し掛かっているの
だろうか?
そんな新旧の陰翳を過ぎらせながらも、昼下がりの高台に上り、下界の
街並み、遠距離列車の通過する様やら、青い空と雲の形を眺めつつ、何
か永遠な相に触れ合う現在を感得しながら、気ままな散歩の、この自由
とこの時間を、この平和を、限りなくいとおしみたいと思う。