俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

手段の目的化

2013-07-08 11:19:16 | Weblog
 人は生きるために働く。目的は生きることであって働くことは手段だ。ところが働くことが生きがいになっている人がいる。こういう人にとっては働くことが目的であって生きることは手段だ。
 こういった手段の目的化を全面的に否定しようとは思わない。大きな目標を設定した場合、中間目標を設けることは必要だ。例えばプロ野球のチームなら日本シリーズ制覇が大きな目標になるだろう。そのためにはリーグ優勝をする必要があり、そのためには6割近い勝率が必要となり、そのためにはこの試合に勝つこと、そのためにはこの回に失点しないこと、とどんどん小さな目標が生じる。いしいひさいち氏の漫画にあった話だが、ピンチを迎えた投手に監督が「優勝するのだ!」と叱咤激励してもアドバイスにはならない。
 大きな目標を達成するためには日々実践できる小さな目標が必要だ。勉強であれ減量であれ、最も効果的なのは小さな積み重ねだ。小さな目標は大きな目標のための手段に過ぎないが、それを達成できなければ大きな目標は絶対の達成できない。
 但し目的と手段を混同すべきではない。例えば小売店のポイントカードはしばしばそれを集めることが目的化してしまう。100円で1ポイントが付き、1ポイントで1円の買い物ができるポイントカードなら、99円の買い物をした時に1円損したように感じる。これは錯覚だ。仮に1円値上げして貰って1ポイント獲得してもプラスマオナス0円にしかならない。ポイントカードはこの錯覚を利用して購買を促している。

長所は短所

2013-07-08 10:56:09 | Weblog
 数年前、クロックスのサンダルが社会問題になった。エスカレータでの事故が相次いだからだ。
 クロックスの素材には3つの長所がある。滑りにくい、柔らかい、丈夫ということだ。これらが事故の原因になった。滑りにくいからエスカレータの壁に吸い付く、柔らかいから捻じ曲がる、丈夫だから千切れずに足まで引き摺り込む。エスカレータでの事故では総ての長所が災いした。
 マラソンの野口みずき選手の長所はストライド走法だ。歩幅が長ければ歩数を減らせる。距離=歩幅×歩数だからだ。ところが歩幅を伸ばせば筋肉に負担が掛かる。そのために野口選手は故障が多い。
 長所は即、短所になり得る。薬の場合ならメリットとデメリットと分けられることが多いが、野口選手やクロックスの場合はメリット=デメリットだ。実はこういう構図になることは意外と多い。
 円安になれば輸出は有利になり輸入は不利になる。これはコインの表裏のようなものであり、両者を同時に有利にすることはできない。どちらかを満たせば必然的にもう一方は満たされない。メリットとデメリットが表裏一体になっているのだから両方を受け入れるか両方を拒絶するかのどちらかしか選択肢は無い。片一方しか見ない批判は余りにも幼稚だ。
 日銀の白川前総裁は副作用を恐れる余り、景気対策を小規模かつ小出しにした。そのために円高が放置されて景気は更に悪化した。八方美人が美人でないように失点を避けようとすれば得点も得られない。サッカーでフォワードまで守りに回れば失点しにくいが絶対に得点できない。こんな作戦はリードを守り切る時にしか使えない。攻撃が最大の防御かどうかは分からないが、守勢一方では得点できないことは確実だ。ノーリスクはノーリターンだ。