俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

怪物

2015-07-27 10:28:38 | Weblog
 「怪物」と呼ばれる1年生スラッガー清宮幸太郎選手が所属する早稲田実業が甲子園出場を決めた。0ー5の劣勢から、8回に一挙に8点を奪うという派手な逆転勝ちだった。
 ところで「平成の怪物」と呼ばれた松坂大輔投手は相変わらずファーム暮らしで、3年12億円と言われる大型契約をしたソフトバンクにとってはとんだ高い買物になったようだ。松坂投手が平成の怪物と呼ばれたのは「昭和の怪物」がいたからだ。そんな元祖・怪物とは江川卓投手だ。実は彼が怪物と呼ばれたのは単に力量がズバ抜けていたからではなかった。藤子不二雄氏の漫画「怪物くん」の主人公と耳がよく似ていることからクラスメイトが付けたあだ名とのことだ。このことを知れば江川氏が妙に可愛く感じられる。
 江川氏はドラフト制度の「空白の一日」という盲点を突いて不正に入団しようとしたせいでダーティなイメージを持たれ勝ちだが実はフェアな投手だった。プロ野球の9年間での与死球はたった23回。頭部を掠めるような際どい球は見た覚えが無い。際どい球を「投げなかった」のか「投げられなかった」のかは定かではないが、高校1年の時に受けた死球がトラウマになっていることは間違いなかろう。秋の関東大会の対前橋工業戦で頭部に死球を受けて入院したという苦い経験を持つだけに死球の怖さを人一倍知っていたのだろう。
 ベースに被さって構える打者にインハイの球を投げることは許されている。仮に当たってもそれがストライクゾーンであればデッドボールにはならずストライクになる。ケンカ投法とも評された東尾修投手であれば迷わずにインハイに投げた。ルール上、当たるほうが悪いからだ。インハイに剛球を投げれば打者に恐怖心を植え付けて投手が有利になる。しかし江川氏はそれをしなかった。勝負に徹しない姿から「手抜き」とまで言われたがこれは氏の優しさの表れだろう。
 江川氏のイメージを悪化させたプレイがある。ピッチャーライナーから逃げたからだ。あの大きな体で形振り構わず逃げる姿は滑稽だった。9人目の野手であることを放棄したこのプレイは散々非難された。しかしその後、何人かの投手がピッチャーライナーを捕ろうとして怪我をしたことを考えるなら、これは決して間違った対応ではあるまい。硬球の怖さを誰よりも知っているから迷わずに逃げたのであり、格好悪いが1つの勇気ある行動とも言えるだろう。

Yの悲劇(3)

2015-07-27 09:51:03 | Weblog
 無性生殖をする生物は自分のクローンを作る。放射線などの影響で遺伝子が傷んでいれば変種のクローンが生まれる。これは殆んどが環境に不適応であるために淘汰されてしまう。偶然、環境に適応した個体であれば新種として増殖するがそんな僥倖は滅多に起こらない。変異体の殆んどが淘汰される運命にある。
 有性生殖をする生物の場合、子供はオス・メス双方から1つずつ異なった遺伝子を受け継ぐ。常染色体の基本構造はお互いに等しいからどちらかにエラーがあれば対応する他方の染色体によって修復される。一対の染色体の内、顕現するのは片方の染色体の性質だけであり他方は修復に使われる。有性生殖をする生物は2種類の遺伝子を受け継ぐことによって遺伝子を修復し続けている。オスとメスが存在して双方の遺伝子が次世代の個体を作るから、過大な変異は抑えられ、適度な個体差は温存される。当たり前のことのようだが、オスとメスの存在は極めて優れたシステムだ。だから総ての高等生物は有性生殖によって増殖する。
 人類は22対の常染色体と一対の性染色体を持つ。メスの性染色体はⅩだけなので23対の染色体が螺旋構造を作る。問題はオスだ。ホモである常染色体やXXであるメスの性染色体は修復され得るが、オスの性染色体はXYの2種類でありヘテロだ。だからオスにおいては性染色体が修復されない。X染色体はXXであるメスの個体において修復されるが、YYという個体は存在しないからY染色体は修復される機会が無い。修復されなければ個体の変異がそのまま保存されるし、コピーをコピーしていれば徐々に不鮮明になるように劣化し続ける。
 人類のY染色体は既にかなり退化しているようだ。Y染色体が持つ遺伝情報量はX染色体の1/10以下と言われている。このままでは将来、オスが滅ぶ。オスが滅べば人類も滅ぶ。滅びないまでもオスが劣化し続けることは間違いなかろう。取り返しが付かなくなるまでに人類は遺伝子医療によって劣化を止めようとするだろう。その時重要なのは、余り退化していないY染色体を見つけることだろう。多分、退化のレベルは民族や個人ごとに異なっているだろうから、元々の機能を多く温存しているY染色体を使って遺伝子治療を行うことになるだろう。人類に対する遺伝子操作は危険な科学技術ではあるが、自然任せでは行われていないY染色体の修復のためと割り切る必要があるだろう。