俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

物語

2015-08-02 10:23:04 | Weblog
 著作権という概念が未だ無かった時代の作品だから「イソップ寓話」として随分違った話が伝えられている。プラトンの「パイドン」でソクラテスが「私もイソップ物語を作った」と語っているが、イソップ寓話は特定の作者による作品ではなく「寓話」という意味の普通名詞に近く、無数の作品が多くの人々によって作られたと思われる。日本人にとって最も馴染み深い「ウサギと亀」も若干ではあるが根本的に意味が異なる話が伝えられている。通常、ウサギが眠っている間に亀が追い抜いて勝つという努力を奨励する陳腐な話だ。ところが異本においては驚くべき物語になっている。
 森の消防団を作ることになった。消火はゾウ、警備はワシ、警報はライオンと続々決まった。しかし伝令にウサギと亀が立候補してどちらも譲らない。そこで駆け比べをして亀が勝った。ところがある日、山火事が起こった。水中ではともかく陸での亀は遅い。森は丸焼けになり亀は焼死した。この教訓はよく知られている話とは全く逆であり、偶然に基づく勝利の価値を否定する。
 「アリとキリギリス」の結末は意図的に改竄されている。夏の間、毎日歌って遊んでいたキリギリスは冬になって飢えと寒さに困り果てた。日本で流布している話ではアリが食料を分け与えて解決するが、原本では「夏は歌っていたのだから冬は踊っていろ」とアリが突っ撥ねる。「そうすれば少しは暖かくなるだろう」という意味だ。ラ・フォンテーヌによるフランス語訳では「歌っていた(chanter)から踊れ(danser)」が韻を踏んで痛快な幕切れになっているのに日本版にはそんな味わいは全く無い。
 物語では作者が好きなように結末を導ける。メデタシメデタシと終えれば美談になる。物語の結末に必然性は要求されずドンデン返しも許される。論理はそうではない。それまでの経緯から結論を導かねばならない。好ましくない結論であってもそれを承認せねばならない。朝日新聞などのメディアはしばしば作話をする。つまらない事実であれば脚色をして感動のドラマに仕立て上げようとする。物語であれば許される手法だが報道機関としてはやってはならないことだ。これは不愉快な事実よりも面白い作り話を喜ぶ読者・視聴者の責任でもある。

戦後

2015-08-02 09:38:51 | Weblog
 今尚、戦後だ。日本の国際的立場はサンフランシスコ平和条約によって定められたままだ。これに逆らうことはできない。日本は敗戦国だからだ。EUの盟主とも言えるドイツが国連の常任理事国でないのも敗戦国であり、国連(Uited Nations=連合国)憲章第53条に敵国条項があるからだ。
 日本は敗戦国としてアメリカを中心とする連合軍の言いなりになった。そして今尚アメリカの属国のままだ。憲法改正について国内で幾ら議論しても虚しい。実は憲法よりも優先する国際条約が3つある。1つはサンフランシスコ平和条約であり、他の2つは日米安全保障条約(以下「安保」)と日米地位協定(以下「地位協定」)だ。この3つを破棄すれば日本は敗戦国であるだけではなくアメリカの敵対国になる。憲法より重要なこの3つの国際条約について日本人は余りにも無知だ。
 本音として私はサンフランシスコ平和条約に大反対したい。しかしそれはできない。だからせめて安保と地位協定ぐらいは見直して欲しいと思っている。
 実は安保と地位協定は日本国憲法と整合しない。もし安保と地位協定を改訂しないのであれば憲法を改訂する必要がある。どちらも改訂しなければ日本の根幹が矛盾したまま放置される。だからこそ日本国憲法は空文化している。
 マスコミも含めて割と安易に「日米同盟」という言葉を使う。この日米同盟とはどういう意味だろうか。当然、日米軍事同盟という意味だろう。
 日本は米軍による治外法権を認めている。米兵に対する司法権は限定され、米軍機による深夜・早朝の騒音に関して司法は判断を下さない。これは今尚、被占領国だからだ。
 サンフランシスコ平和条約は絶対に覆せない。これは敗戦国日本と連合国48か国との講和条約だからだ。これまでに幾つかの国との関係は見直されたが大枠の変更は不可能だ。
 常識的に考えれば、安保と地位協定はあくまで日米間の条約であり両国が合意すれば改訂は可能だ。しかい不退転の覚悟でこれを改訂しようとする政治家がいるだろうか。これに手を出すことは虎の尾を踏むことに等しく、政治生命を失いかねない。この2つの条約を見直さないのであれば憲法改正が必要だ。根幹が矛盾しているから政治は弥縫策に終始せざるを得ない。現代の日本が抱える矛盾は戦後体制が招いたものであり、「戦後」は全く終わっていない。歴史的背景を理解しなければ現代政治について語ることはできない。