俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

鬱病

2015-08-12 10:22:00 | Weblog
 8日付けの「薬物療法」の記事について、鬱病と欝状態を混同していると思った人がいたかも知れない。混同しているのは私ではなく精神科医だ。安易に鬱病と診断し過ぎるから医原病が後を絶たない。
 サラリーマン時代、鬱病に罹った係長を預かったことが2度ある。勿論、私が鬱病に罹らせた訳ではない。他の部署で持て余していたから私の所で預かったという次第だ。二人共鬱病と診断されていたが所謂「新型鬱病」であり「真性鬱病」ではない。真性鬱病であれば精神エネルギーが枯渇した状態であり到底出勤できない。普通に生活できるが突然出勤できなくなるという割とお馴染みの症状だ。
 ただの上司であり医者ではない私にできることは限られていた。余りプレッシャーを掛けないことと、学生時代に学んだ心理療法の知識に基づいたアドバイスをすることぐらいだった。どちらのケースも私が人事異動で他の部署に移ってしまったために最後まで面倒を見られなかったが、二人共その後、中途退職をした。
 こんな新型鬱病とは違って真性鬱病は恐ろしい病気だ。最も印象に残っているのは読売ジャイアンツ在籍のまま急死した湯口敏彦投手だ。岐阜短大付属校出身で甲子園でも活躍した湯口投手は「高校三羽烏」と呼ばれたほどの逸材で1970年のドラフト1位で入団した。しかし思わしい成果を残せないまま72年の11月に鬱病で入院し翌年3月に急死した。当時大学で哲学と心理学とを二股掛けて勉強していた私が大学で入手できた情報は「自殺もできないほど精神が崩壊していた」とのことだった。
 鬱病が統合失調症と並ぶ代表的な精神病であるのは精神崩壊に至る重病だからだ。安易に鬱病と診断することは瘤やイボを腫瘍と呼ぶようなものだ。私が最も主張したいことは、軽度の欝状態に対して安易に鬱病と診断して危険な抗鬱剤を処方すべきではないということだ。抗鬱剤は危険な抗精神病薬であり、真性鬱病以外に安易に使うべきではない。新型鬱病に使うことは、蚊の刺し傷の周囲の肉まで抉り取るような過剰医療だ。将来、単に性格が悪い人や空想癖のある人を「新型統合失調症」と名付けて薬漬けにするようにならないかと危惧する。血圧が基準値よりもほんの少し高いだけで高血圧症と診断されている現状を見れば、そんな恐ろしいことが起こりかねないほどに医療は堕落している。「未病」という概念を悪用して病気でない人まで病人に仕立て上げて医療の市場規模を拡大しようとしているのではないかと勘繰りたくなるほど、グレーを黒扱いした有害な医療が巷には溢れている。

相対性

2015-08-12 09:40:28 | Weblog
 何度も書いたことだが、合成保存料はデメリットよりもメリットのほうが遥かに多い。殆んどの加工食品に合成保存料が使われているのは当然のことだ。ところがかつての「買ってはいけない」と同じような論法で、つまり合成保存料を基準値の数百倍から数万倍使って有害性を証明するという馬鹿げた内容の本が今でも飽きずに出版されている。基準値は閾値から算出されており、閾値を超えたら有害になるのであれば、その基準値も閾値も正当であることの証明になる。彼らは危険性が相対的であることを理解していない。
 絶対的に見れば総ての食材が危険物だ。米も野菜も肉も有害物を含んでいる。酸素は元々猛毒であり起爆性もある危険物だ。水でさえ飲みすぎれば水中毒を招く。有害な部分にだけ注目すれば何でも有害物になる。
 飛行機を怖がる人は少なくないが、距離当たりの死亡率は二番目に低い。一番低いのは日本の新幹線だが、その新幹線で事故があれば大騒ぎして荷物チェックをせよなどと言い出す始末だ。
 血圧が141㎜Hgであれば高血圧症と診断される。しかしこの程度の血圧が原因で病気になる人よりも降圧剤の副作用で医原病に罹る人のほうが遥かに多いだろう。
 エスカレータでの事故は奇妙なほど騒がれる。しかしもし移動距離当りでの事故率の統計があれば、エスカレータが階段より数十倍安全であることが証明されるだろう。
 誰が言い触らしたことが原因なのかよくわからないが、エアコンが体に悪いと信じている人がいる。この迷信のせいで板橋区の老姉妹3人が熱中症で亡くなった。エアコンのせいで死んだ人など一人もいない。私が子供の頃は、扇風機の風を1時間以上受けると死ぬ、という嘘が蔓延していた。
 皮膚癌が怖いと言って紫外線が毛嫌いされている。紫外線を避けることによるビタミンD欠乏症や日焼け止めクリームの副作用のほうがずっと危険だ。
 何にでも危険性はあるのだから、何と比べて危険であるかの比較対象を明確にする必要がある。
 秦の始皇帝は不老不死を求めて様々な薬を常飲していた。その中には水銀や砒素まで含まれていたらしい。彼は健康オタクであったために49歳で病死した。もしかしたら世界で初めて医原病で死んだ人なのかも知れない。