雪は無いけれども厳しい寒気の中訪れた夕刻、かの庵の案内にあるように、行き過ぎてしまいそうな佇まいであった。
生憎、千曲川も河川改修工事の最中で、川岸に近づくことも川面を見ることも叶わなかった。
移築されたわけでは無く、この地に建っていた古民家を改修した草如庵ではランプストーブの灯りが出迎えてくれた。
太い梁と畳と障子の部屋に椅子とテーブルの設えである。料理ともてなしに期待が高まる。
喉の通りを良くしてと麦酒を頂き、「酒無しで何の料理の味わいか」と、気炎を上げつつ先付の一品
赤飯の湯葉包みと蟹味噌の葛餡 である。
以下、料理名はお品書きが無い為、筆者が勝手に付けたものである。悪しからず。
蟹味噌をほぐしていくと湯葉に行き当たり、中から大粒の大納言と餅米がこぼれる。
蟹味噌と葛餡の味わいと湯葉と赤飯の舌触りは思わぬ取り合わせで、期待に違わぬ滑り出しである。
お造りは、鯛とイナダを海苔の佃煮を醤油に替えていただく、初めての趣向であった。
濃い目に炊いた海苔の佃煮とワサビを合わせると魚の味わいが素直に舌に乗ってくる。
汁物は麹の効いた白味噌が、先ずは舌に乗る。カリっと揚った餅とほろ苦いウルイが汁の甘さに溶け合い滋味となる。野生のウルイだとのこと、向春の感を抱かせる。
八寸がまた豪華である。
お節料理に供されるであろう食材と料理は、正月膳を意識されているのだろう。
ぬる燗酒の水尾が進む。
揚げ物で甘鯛にカラスミを塗して揚げたのにスダチを垂らして頂く。
カラスミの塩味とスダチで味を絞めて、甘鯛のホロリとした触感と叩き牛蒡の噛み応えが、料理の味を高める。
鍋物と云いつつ、喰い気に押されて料理姿を損なった写真である。
土鍋で運ばれ、注ぎ分けられる。
出汁の効いた豆乳仕立てで、海老芋と軍鶏を煮てある。海老芋は揚げてるのだろう触感が残されている。
軍鶏は如何にも筋肉質の触感と滋味を感じる。
相方の所望した焼酎さつま無双のお湯割りは、納得の選定である。
続く食事も鯛を丸ごと土鍋で炊いた、鯛めしなのだが写真撮り忘れたものである。
つくづく喰い気に押される卑しさに、我ながら呆れる思いである。
此処まで食すると満たされた胃腹は、女将のお代わりの勧めもお断りしつつ・・・・
何とか食したい欲望に負けて、湯漬けで鯛めしを所望
一度は謝絶されたものの、板さんの計らいで出汁とワサビで、鯛めし湯漬けを供された。
期待通りの味わいと、もてなし対応に感極まった筆者である。
最後は、甘味と抹茶である。
ふっくら炊いた黒豆とムースは優しい甘味だがボリュームを感じたし、果物のゼリー寄せは流石のサッパリ感である。 濃く入れた抹茶は和食の粋とコースの〆を知らせて、至極満足の時であった。
我儘な所望に謝辞を述べて、店主の見送りを得た。
寒い季節に汁物の滋味と温もりを、意識された料理であったのだろうと感じた。
接客と設えと料理の季節感と味わいは、量の満足も含めて再訪の想いを強くするものであった。