参議院選挙結果は与党勝利の結果となった。
しかし、その争点を経済再生に設定したにも関わらず、その後の政府与党の動きは、憲法改定論議へまっしぐらである。 予想した通りとは言え、国民を愚弄、目くらましの政治手法に振り回されてはならないのだ!!
以下に、立憲デモクラシーの会が発表した声明を全面的支持の下に、全文転載します。
2016年参議院議員選挙を受けての声明
2016年7月15日
立憲デモクラシーの会
このたびの参議院議員選挙を受けて、立憲主義の回復・強化を目指す立場から、所感を示したい。
1 憲法改正について
安倍政権は、2012年と2014年の衆議院議員総選挙、ならびに2013年の参議院議員選挙において、集団的自衛権の行使容認を争点として明示しなかったにもかかわらず、2014年には従来の定着した閣議決定を覆し、2015年には一連の安保法制を立法化して、憲法の枠内で政治を行うという立憲主義の基本原則を根底からゆるがした。
今回の参議院議員選挙の選挙運動においても、安倍首相と与党は、憲法改正にほとんど言及せず、憲法改正が有権者の信を問うような争点ではないとの主張に終始した。これに対し、野党側は、従来からの政権の政治姿勢に照らして、選挙では憲法を争点として明確化することを回避した上で、参議院でも憲法改正発議に十分な議席数を得れば、一転して憲法改正を推進するのではないかとの危惧から、もし憲法改正を志すのであれば、正面から論争を提起し、選挙戦で議論すべきだと訴えた。
しかるに安倍首相は、そうした当然の要求をはねつけておきながら、選挙後には、憲法改正についても民意による承認が得られたかのごとき発言を行っている。さらに、憲法改正を行うこと自体はもはや既定方針であり、改正項目の選択の問題であるとか、改正内容を決めるのは国会の権限であり、国民ができるのは国民投票で賛否を示すことだけであるとの一方的な決めつけをしている。
また、世論に多大な影響力を有するマス・メディアは、政権の意志を忖度してか、選挙前には政治報道を縮小し、今回の選挙結果が憲法改正に及ぼしうる効果についても事前に伝えなかったにもかかわらず、選挙後には一転して、参議院でも「三分の二」が確保されたと喧伝し、憲法改正が既定方針であるかの世論形成を助長している。
立憲主義擁護の観点から、こうした一連の経緯について、以下の諸点を指摘する。
第一に、憲法改正のような国政上の最重要事項について、それを選挙に際して最重要の争点として明示しなかった以上、選挙に勝利したからといって、民意による承認が得られたとすることは許されない。そのような「争点隠し」を憲法について行うことは、主権者である国民を欺瞞し、愚弄するものである。
第二に、何らかの意味で改憲に積極的な議員数が衆参両院で「三分の二」を超えたという事実は、憲法改正手続に照らして無意味であり、これを喧伝して憲法改正の方針が固まったかのように主張することは虚偽である。現時点では、各政党間で、改正項目についての合意が得られておらず、特定の項目について、両院で三分の二の議員が賛成する見込みは全く立っていない。国会による憲法改正の発議は、「関連する事項ごとに区分して」行われることになっているため(国会法68条の3)、雑多な提案を抱き合わせにして、一括して国民投票にかけることもできない。安倍首相らは、自民党の改憲案が議論のベースになるとも主張しているが、この改憲案は立憲主義の基本原則をふまえず、憲法そのものの否定につながりうるものであり、与党内においてさえ、これをベースとする合意が得られるとは思われない。
以上から、現状では、憲法改正の条件は全く整っていないことを確認したい。
2 安保法制について
当会が繰り返し主張してきた通り、一連の安保法制は、実質的に憲法9条の改正に等しい規範内容の変更をもたらすものとして、違憲であり、廃止されるべきである。同法制をめぐる閣議決定と、強行採決を含む立法手続きは立憲主義をふみにじるものであり、容認できない。
安保法制により、武力の行使には当たらない「国際社会の平和と安定への一層の貢献」として、他国軍の後方支援やPKO活動の任務が拡大された。しかし国会審議にあたっては、それら自衛隊の海外での活動に関する議論は不十分にとどまり、国民共通の理解が深まっているとは言いがたい。
そうした中、自衛隊が派遣されている南スーダンの治安情勢が急速に悪化している。法制上は想定されていない事態が発生した結果として、隊員や在留邦人そして現地住民の命が無用な危機にさらされ、あるいは奪われるおそれが高まることが懸念される。この事態に際し、自衛隊の撤退を含む措置が緊急に必要である。
それに加えて、この機会に、いわゆる集団的自衛権の行使容認がもたらす効果について、国会で再検討がなされ、安保法制の廃止と立憲主義の回復が実現されることを強く求めたい。