フリードリヒの日記

日常の出来事を、やさしい気持ちで書いていきたい

薪ストーブについて

2012年01月18日 09時01分28秒 | 日々の出来事・雑記

 薪ストーブといえば、今回泊まった破風山避難小屋を思い出す。
 その日は甲武信小屋まで行く予定だった。ちょっと休憩するために避難小屋に寄った。10人くらい泊まれる比較的大きな避難小屋で、薪ストーブが設置したあった。薪は避難小屋の裏にきれいに積み上げられている。
 甲武信小屋に行ってもテントを張って寝ることになる。だから、寒いことには、変わりがない。ここで薪ストーブを使えば、気持ちよく寝れる。時間は13時を回ったところである。まだ早い。迷ったが、薪ストーブの魅力に負け、避難小屋に泊まることに決めた。
 
 荷物を降ろし、早速、薪ストーブに火をつける。何回も焚き火をやっているので、火をつける要領はわかっている。まず、種火をつくって大きな薪に燃え移らせる。種火はゴミでつくる。ビニールなんかは原料は石油なので薪に絡み付いてよく燃える。ゴミも減らせるし一石二鳥だ。
 すぐに薪は燃え上がり、暖かくなる。コッヘルいっぱいに雪を入れて、ストーブの上に乗せる。雪が溶けて水になったところで、また雪をいれる。そして、お湯を沸かしコーヒーを入れる。久しぶりにゆっくりくつろぐことができた。
 火が燃え上がるのを見ながら、ジャック・ロンドンの「火を熾す」という短編小説を思い出していた。マイナス50℃の極寒の地で、火を起こすことに失敗して死んでいく男の話。
 この男ほどではないが、寒いところに長くいると、火の重要さが痛いほどわかる。火は私たちの命を守ってくれる。火を見ているを気持ちが和んでくるのはそのせいかもしれない。何時間見ていても飽きない。
 人間が動物から進化したのは、火を使えるようになったからである。火を恐れながらもそれを克服し利用した。火の利用によって、生活が著しく向上する。寒さをしのげるようになり、衛生状況は良くなった。だからかもしれないが、火は人間の本質的な部分を刺激するようだ。
 こんなことを考えていたら、ドンと音がして、人が入ってきた。

「こんにちは」
「こんにちは」と挨拶する。
 50代くらいだろうか。身長は180センチ弱。スラっとして痩せている。
 心の中で矛盾する感情が起こる。つまり、静かに一人で居たかったなぁと思う部分と人が来て少し安心したという部分である。
「火を起こしておきましたよ」
「もうけっこう暖かいですね。火はすぐつきましたか」と彼。
「ゴミを燃やしたんで、すぐつきました」
 このくらい会話すれば、だいたいその人の人柄がわかる。この人は大丈夫だ。安心した。たまに、偉そうに返事もしない奴がいる。そういう奴と一緒になると、大変だしめんどくさい。
 よく考えると、避難小屋で人と一晩過ごすということは、かなり奇妙なことである。全く知らない人と一晩過ごすわけだから。
 それが、楽しい経験になるか最悪になるかは、相手との相性による。それはまったくの運だ。

「私は、ここの薪ストーブが好きで、よく泊まりに来るんですよ」
「ああ、そうですか。じゃあ、代わりますか」
「はい、すいません。いいですか?」
「どうぞ」そう言って、薪をくべるのを代わってもらう。

 私はカップラーメンとアルファ米を食べ、寝袋にはいって本を読む。彼は、薪をくべながら、ウイスキーを飲んでいる。薪の遠赤外線が体の芯まで温める。穏やかなゆったりとした時間が流れる。

「火遊びしながら、酒を飲むのが好きなんですよねぇ」と彼。
「わかりますよ。火って、何か人の気持ちを揺さぶるものがありますよね」
「お酒は飲まないんですか」
「はい、まったく飲みませんね。けっこう飲むんですか」と私。
「かなり飲みますよ。酔っぱらいで、ごめんなさいね」
「全然、大丈夫です。楽しんでください」 
 
 彼のろれつが回っていないことに気づく。かなり飲んでいる。大丈夫かなぁと少し心配になる。アルコールを必要以上に飲む人は問題のある人が多い。しかし、話の感じからすると、この人は心配はなさそうである。だた、優しい人ではあるが、ちょっと弱いところがあるのかなとも思う。単なる勘だが。
 薪を入れすぎてストーブの蓋が閉まっていない。だから、煙が部屋に充満してきている。このままだと一酸化中毒で、朝になったら気持ちよくあの世に行っていたなんてことになりかねない。
 この人もしかしたら、自殺しようとしているのではないだろうかと、頭をよぎる。まさかね。ただ、こういう山の中は特殊な状況だから、つい変なことを考えてしまう。
 ちょっとだけ注意しておくことに越したことはない。
「あのー、煙いんで少しドアを開けておきますね。一酸化中毒であの世に行ってしまうかもしれませんからね」とそう言ってドアを少し開ける。
「すいません、薪入れすぎちゃって蓋が開いてるんです。気をつけます」と彼。
 私は、そのまま記憶がなくなってしまう。
 田舎のこたつは、堀ゴタツで、練炭を使っていた。朝、つけはじめの時は寒いから中にはいって暖まっていたら、そのまま記憶がなくなってしまったことがある。私は知らないが、危ない状態だったらしい。一酸化中毒は苦しまず死ねる。経験的に。
 その恐怖が、少しだけ蘇ってきた。

 朝、まだ暗いうちに、強風の音で起こされた。彼はお酒をかなり飲んでいたので、ぐっすり寝ている。もう、薪のぬくもりはない。寒くて厳しい朝だ。でも、昨日の薪ストーブのおかげで疲れがとれている。よし、出発の準備をするぞと起き上がる。体からエネルギーがみなぎっていた。
 薪ストーブありがとう。また来るね。

 

コメント
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