アンティマキのいいかげん田舎暮らし

アンティマキは、愛知県北東部の山里にある、草木染めと焼き菓子の工房です。スローライフの忙しい日々を綴ります。

本「明治維新という幻想」

2018-08-19 15:07:45 | 映画とドラマと本と絵画
   洋泉社という出版社から出ているこの新書、一昨年出版されたものです。最近、この手の歴史を見直す本がいろいろ出ていて、そのひとつ。とても面白く読みました。

   本を開くと、表紙の裏にこんな対比が書かれています。

  「世の中の常識  幕末、国内では一揆や騒乱が頻発し、海外からは列強が開国を求めてやってくるなど、幕府はその対応に苦慮した。もはや幕藩体制は限界を超え、明治新政府の登場は必然であった」

  「本書の核心  平和で豊かな江戸文化・道徳を否定した明治新政府軍は、非道な方法で戊辰戦争を勝ち抜いた。開明的で希望あふれる「明治の世」を目指したという彼らの正体を、民衆が作った「風刺錦絵」や旧幕府軍側の視点を通して検証する」

   たとえば江戸城無血開城。西郷隆盛と勝海舟が談義の末、江戸の町が火の海にならずに済んだ、とわたしたちは学びました。しかし著者は「これは明らかにあやまりである」と明言します。新政府軍に、「町や民衆を守るという発想はなかった。この事実を前提としなければ、維新期実態は見えてこ」ず、江戸の町を救ったのは西郷ではなく、勝や篤姫など幕府側の人たちの功績だったと。

   西郷隆盛については、上野の銅像もよく知られている写真も彼の本当の姿ではない、とはよく知られている事柄です。本書では、当時の人々に人気のあった錦絵に描かれた西郷が、もっとも実物に近いのではないか、と主張しています。描かれた西郷は髭もじゃのこわもて。自らが形容する「無類の戦好き」を絵にしたような姿です。  
  
   私たちの知る、ひょうひょうとした穏やかそうな西郷の姿は、明治政府の作ったイメージ戦略によるものといいます。西郷は西南戦争で自刃。いったん朝敵になりはしたものの、民衆の、新政府に対する不満から、突如西郷人気がたかまったため、朝敵西郷として非難するのはやめ、急遽政府側の仲間として公認したというのです。その後できたのがあの銅像。軍服姿ではないところが巧妙。

   おどろいたのは、ペリー率いる黒船に対する幕府の対応についてのくだり。「江戸城内は上を下への大騒ぎになったという話は・・・否定できない事実と信じられているようである」が、実際は「幕府内では混乱は起こらなかった」というのです。ただ彼らが驚いたのは、ペリーの、武力を背景にした乱暴な態度。でも、それも混乱を生むようなものではなかったといいます。

   私たちが知る「上を下への大騒ぎ」的逸話は、ペリーの「日本遠征記」に書かれていたものが根拠になっているらしく、こちらの文書は明治政府が出版を制限せず放置したのだそうです。ペリーは自分の功績を誇大にアピールするため、幕府役人を中傷した内容になっていたというのです。

   一方、ずっと隠蔽されていたのが幕府側の文書「墨夷応接録」。ペリー一行と応対した際の議事録なのだそうですが、「ペリーがやむを得ず自国の要求を取り下げたことや、艦隊の軍人たちの不法行為を咎められ、うろたえる様子がなまなましく記録されている」とのことです。難解な書き下し文でかかれているにもかかわらず、かつて一度も現代語訳されたことがなく、いまに至っているのだそうです。一方のペリーの文書は何度も翻訳されている、というのに。

   明治維新後だいぶ長い間薩長藩閥政府の時代が続き、政権に都合の悪い文書の閲覧がしづらかったこともあるかもしれませんが、戦後になっても、この文書が歴史学者たちによって解読されなかったということにまたまたびっくり。怠慢としか言いようがありません。

    戊辰戦争や会津戦争についても、わたしたちはほとんど何も知らないことを知りました。最近のことですが、テレビで国会中継を見ていたら、ある件に関し野党議員が与党議員に質問をしている最中。質問の最後、彼は「以上、会津から長州にものもうしあげます」といった意味の言葉で締めくくりました。

    「会津から長州に」のことばからは、150年たっても消えない怨念といったものを感じ、一般人の知らないところで、明治維新前後の争いは続いているのかもしれないなと、なかば冗談のようにおもったことでした。でも、この本を読んで、あれは単なる冗談じゃないかもしれないな、と気づきました。

    ところで、本書は江戸時代を手放しで礼賛しているわけではありません。ただ、明治政府が「日本の歴史を「断罪」させたこと」に罪を問うています。興味深い事柄が満載の一冊でした。
コメント
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