たまたま、途中から見はじめたテレビ番組が面白くて、最後まで見ました。さきほど、BSフジで放映していた「塙山キャバレー物語」。茨木県日立市にある飲み屋街の話です。5月と6月に放送された番組の再放送らしい。
飲み屋街と言っても一軒一軒は、ちゃんとした家ではないそうで、地面にポンと箱が載っているだけなのだとか。基礎の土台のない家。だからこちらは「屋台」として営業許可の下りている店なのだそうです。店は狭くてカウンターだけ。そういう店が10数軒並んでいます。それが塙山キャバレー。まわりは、高いビルやマンションが林立していて、そこだけ終戦直後の闇市のよう。
店のママたちの歩んできた人生は、現代のものとは思えないほどすさまじい。キャバレーのリーダー格の女性は、17歳の時、目が覚めたら置屋にいて、母親から売られていたと知り、脱走したという経歴を持つ人。20代でこの街に流れてきて、店をはじめました。年齢は私と変わらないみたいなのですが、まるで戦前の話のよう。人身売買が行われていたということは、貧乏のせいで、闇社会とつながってしまったということなのでしょうか。
闇社会と言えば、その筋の人が出入りしたことがあり、いま最長老のママ(82歳)が彼(ら?)と勇敢に対峙して追い払ったということもあったとか(この部分はネットで知った)。このママはほかの年下のママたちから慕われている、いわばママのママ。彼女の所にやってきた別の店のママが、酔っぱらって彼女に甘えるシーンもすごかった。
パンデミックのため、当然彼女たちの店も自粛を余儀なくされ、きびしい状態が続いています。その月の家賃も払えない店もあり、「来月年金が入ったら払う」といって、家主を帰すシーンもありました。
常連のおじさんたちも、それぞれの理由があって、このキャバレーに通ってきます。ひとりの老人男性は、数年前までこの街でラーメン店を営んでいましたが、自店の失火で自分の店と周囲の店数軒を焼失させてしまいました。その後、彼は死のうするのですが、死にきれずにいたところを、この街のママに救われます。いまは、周囲の草むしりをし続けてすごし、夜になると店に来て酒を飲むのが唯一の楽しみ。酒を飲むというより、ママやほかの客と一緒にいるのが唯一の慰めになるようです。
5か月にわたる取材で完成したというこのドキュメンタリー。収録中に、すごいハプニングがあります。ある一人のママが10数年前に捨てた娘さんが訪ねてくるのです。彼女は母に対する愛憎をかかえたまま、他の客の前で母とやりあい、二度と会わないと言って店を出ていきます。ママは、娘の「なぜ、私たちを捨てて出て行ったのか」という問いに、最後まで答えません。
そして数か月後、取材スタッフの所に娘さんから連絡があります。彼女は、あらためて母との和解を試みることを決意したのです。
この街の空き店舗に、新しく若いママがやってきます。水商売は初めてにみえるその女性が、自分でペンキを塗って店をきれいにし、開店します。そこに他の店のママたちがお祝いに訪れます。彼女たちはほんとにうれしそう。「だって若い人がいるっているだけでうれしいじゃない」娘のような年の若いママの誕生をこころから祝っていました。手ごわい競争相手ができたという雰囲気はまるでなし。人情があるというのは、こういうことなんだな、とおもったことでした。
ママたちも客たちも、みんなのっぴきならない状況で生きていることがひしひしと伝わる映像でした。
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