「国民がみな幸福になること」を国是としているブータンの映画。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%96%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%B3_%E5%B1%B1%E3%81%AE%E6%95%99%E5%AE%A4冒頭は草原で歌う女性のうしろ姿。草原に広がる歌声が美しい。
主人公は、まったくやる気のない若い男性教師。ブータンの首都に住んでいます。奨学金をもらうための義務なのか、教師として5年勤めなければならないのに、4年でギブアップ。教師には向いていないとあきらめ、オーストラリアへの移住に夢をはせています。家族は年老いた祖母だけ。
しかし政府の要請には逆らえず、残り1年の教職の仕事は勤め上げるしかありません。そんな彼に与えられた任務は、ブータン一小さくて貧しい村、ルナナの学校に冬がくるまで赴任すること。長時間バスに乗りガサという村につきます。そこで村の村長の代理だという男性とその助手らしい男性が、ラバ?に荷物を積んで待っています。主人公は、彼らとともに、この場所から7日間かけて村まで歩きます。
峠で行われる、旅の無事を祈るためのささやかな祈りの儀式。村人が敬虔な祈りをささげるのを主人公は意に介さず、先に進みます。道なき道を進んでようやくたどり着いたのは、標高4500m、人口56人?の寒村です。村人総出で出迎えて、新任の教師を歓迎するのですが、当の本人にはありがた迷惑。長いこと使われていなかった教室は汚く、窓ガラスの代わりに「伝統紙」が貼られています。教室に併設された彼の住居も同様に粗末。近代的な生活が当たり前の都会で暮らしていた彼には到底耐えられない環境です。すぐに、彼は村長に職を退くことを申し出ます。
村長たちは、教師を「未来を拓く(だったかうろ覚えですが)人」として尊敬しています。子供たちに教育を施すことが、村の明るい未来につながるとかんがえるのでしょう。その教師に村を出ると言われた村長たちは、落胆しますが逆らわず、彼を町へ送る手はずをと整えます。
ところがその後、子供たちとかかわるにつれ、彼らの純朴さに次第にひかれていき、彼は冬が来るまでこの村にとどまることにします。ノートすらないので、窓ガラス代わりの紙をはがして、子供たちに配り、街の友人に頼んで、教材や遊び道具、歯ブラシなどの日用品まで送ってもらいます。こうして村になじみ、子供たちとの交流を重ねるうちに、貧しいけれど素朴で心豊かな山の生活が次第に彼には大事なものになっていきます。
冒頭に出てきた女性は、村一番の歌い手。彼女は彼に、「ヤクに捧げる歌」を教えてくれます。西洋の音楽しかしらない彼には、伝統的なブータンの旋律がしだいに耳に心地よく響き始めます。
学級委員の女の子が、とてもかわいくてほほえましかった。村の女性たちのはにかみ方、笑い方が素朴で、好感が持てました。もしかしたら彼らはほんとにルナナ村の住人なのかも。昔の日本の女の人たちも、こんなだったと思われました。
映像がしっかりしていて、退屈するところがありませんでした。必要最低限の内容だけをお互い口にし、あとは表情やしぐさで補っているところが、環境は過酷ではあるけれど、刺激の少ない穏やかな暮らしをし続けてきた村人たちならではの態度なのだろうな、と思わせてくれました。
ただし、村を囲む山々は温暖化の影響で雪がぐんと減り、村人がじわじわと危機感をもち始めている様子も、ちゃんと描かれていました。秀逸な映画でした。
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