晴耕雨読とか

本読んだり、いきものを見たり。でも、ほんとうは、ずっと仕事してます。

奇跡の1日 ~ヤマトイワナ産卵観察 その3~

2012年10月22日 | 生き物
昼食のあと、ひとりで川に戻る。

ゆっくりと遊歩道を歩きながら川をのぞき、つがいのイワナを探す。
すぐに見つかるが、もっと観察しやすい場所をもとめてさらに移動する。
陽が当たっていてイワナがよく見え、
アプローチがしやすくて、じっくり観察できそうな場所。

いた。いい場所!

15cmほどの小さなメスと、20cmぐらいのオスのペア。
オスの背びれが水面に出るほどの浅瀬で定位している。



ゆっくり近づいてみる。

自分たちの行為に集中しているようで、まったくこちらを気にしない。
予定通り(?)匍匐前進してじわじわと近づき、そのままうつぶせで観察する。

その距離、なんと約30cm。
なにしろデジカメの28mmレンズだと、2匹のイワナがはみ出るぐらい。
近い。とにかく近い。

近すぎるし、角度的に水面が反射するので、結局しゃがんで観察する。
当然、しゃがんでも逃げない。




小さなメスが尾びれで砂を掘る。
オスがすっと寄り添って、ぶるっと体を震わせる。
オスが離れる。またメスが砂を掘る。

午前中も見た、この一連の行動がセットになっている感じだが、
産卵そのものはしていないようだ。
卵も、水が白濁することもあるという放精も観察できない。
この距離ならわかるはずだ。

どれぐらい見ていただろうか? あるとき、いつものオスの「ぶるっ」が、
「ぶるぶるぶる」になった。時間にして2、3秒ぐらい。

そのとき、ぽろぽろっと、水中に白い卵が流れた!

ああ、産卵だ! これが産卵だ!!
石の間に真っ白な卵が見える。



ああ、ほんとうにこれが産卵なのだ…。

産卵が終わると、それまで砂を掘る以外は
砂底にお腹をつけるように定位していたメスがにわかに動きはじめた。



ひと仕事終わったのかな。

そろそろこちらも行かなければならない。
おどかさないように腰を低くしたまま後ずさって、その場を離れた。


*****


流れが緩やかな浅瀬に5cmぐらいの幼魚がいた。



このサイズだと、おそらく今年生まれのイワナだろう。
去年、知人が産卵を見たというときの卵がふ化をして、成長した個体かもしれない。
毎年、この流れで産まれ、この流れで育つヤマトイワナ。

流程400mほどのサンクチュアリというべきこの川で、
いったいどれだけのヤマトイワナが生きているのか。

この場所、この秋の1日。それは奇跡としか言いようがない。


(終わり。あとは番外編と必見の動画リンク編。)