銀ステ根なし草

銀のステッキ旅行・スタッフの雑記帳

5月8日、ウィーンの第九

2015年05月30日 | のほほん同志Aの日常

「まさか5月のウィーンで第九を聴けるなんてね」

目の前の体育座りのお客さまが振り向き、ヒソヒソ声で言いました。

「本当に。第九なんて、年末のホールでしか聴けないと思ってました」。

私も深くうなずきながら、ヒソヒソ声で返しました。

ツアーのタイトルは「プラハの春・音楽祭」。
ですから旅のメインは、チェコが生んだ国民的作曲家スメタナの命日に開かれる
「プラハの春・音楽祭」のオープニングコンサート。

けれどもさすがは音楽の都、旅の前半に訪ねたウィーンで、
さっそく飛び入りでコンサートを聴く機会がやってきたのです。

旅の3日目、ハンガリーのブダペストからウィーンに入った5月8日のことでした。
お世話になった博識のガイドさんが、車窓から見えた王宮を指さしながら、こう仰ったのです。

「今日は終戦から70年の節目の日で、
 その記念コンサートがそこの王宮広場で7時半からあるんです。
 ウィーン交響楽団の演奏で、ウィーン市長も来るはずですよ」

夕食後にでもよかったらどうぞ、と勧められたのですが、
夕食が終わったのが8時すぎでした。

「もう間に合わないかもしれないけれど…行きますか?」
「行きましょう!」

少人数のいいところで即座に話がまとまり、
お互いはやる心を抑えつつ、急ぎ足で王宮広場を目指しました。

夜8時を過ぎてもまだまだ明るい5月のウィーン。
次々に現れるモーツァルトやゲーテの像に挨拶をしながら、
ここまで来たらもう近いはずと思うのに、でも何の音楽も聞こえてきません。



不安になったところに王宮広場の門が現れ、そこのくぐると――人、人、人。
芝生の上に大勢の人が座り、先の一点を見つめています。

そこには特設ステージが設けられ、
ウィーン市長でしょうか、ひとりの男性が演説の真っ最中でした。

私たちも芝生の上に腰を落ち着け、演説に耳を傾けてみました。
ドイツ語はさっぱり分かりません。
それでも、ひとつだけ聞きとれる言葉がありました。

……デモクラティ……デモクラティ……

そう、これは終戦70年の記念式典なのです。

つづいて、檀上に指揮者が現れ、ウィーンフィル交響楽団によるコンサートが厳かに始まりました。

ステージの左手には巨大なモニターが設置され、そこに指揮者の表情も大きく映し出されます。
…と突然、そのモニターの画像が切り替わりました。

土色の殺風景な建物。鎖。格子の入った窓。

――どうやらそれは、ホロコーストの収容所のようでした。

音楽はいつしか聞き覚えのある、ベートーヴェンの「第九」のメロディーになっています。

聴衆のなかには若者も多く、みな、寝転んだりあぐらをかいたり、
思い思いの姿勢で音楽に耳を傾けています。
友人と集っている楽しさからか、小声でのおしゃべりも絶えません。

隣のお客さまが、そっと足を揉みはじめました。
石畳の上を急いで歩いてきたので、足がつったのかもしれません。
そうこうするうちに、私も足のスネのあたりが何やら気になってきました。
どうやら虫に刺されたようで、むしょうに痒いのです。

ぽりぽり…。

ようやく日も暮れてきたのをいいことに、ズボンの裾をめくり、
靴下の上から盛大に掻きつつ、ふと振り返ると
――夕暮れ空に紫色に染まった雲がたなびいていました。

ソプラノ歌手の朗々とした歌声が空に響き、「歓喜の歌」の大合唱が始まりました。
芝生のあちらこちらからも、口ずさむ声。

隣のお客さまは、まだ時折、足を揉んでおられます。
何がそんなに楽しいのか、若者たちの小さな笑い声も途切れることがありません。

私のスネも、掻けば掻くほどかゆみが増してきて、
気づけば私も口ずさみながら、クスクスと笑っていました。

 

★6周年記念旅行 丹波へBBQランチ ご案内はコチラ★

フェイスブックいいねお願いします

***************************************
貸切バス・オーダメイド旅行のご相談は…
銀のステッキ旅行
TEL 0797-91-2260(平日8:30~17:00)
■銀のステッキは会員制の「旅サロン」を主催しています。
■公式ホームページ:http://www.gin-st.com 

*************************************

 

 


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする