(シラカバの新芽)
夜明けの早い毎日。
毎晩、目覚ましをふたつかけて寝るものの、
それより先に、カーテンの隙間からさしこむ薄日で目が覚める。
これが最近のわたしの生活です。
では、一日中、太陽が沈まない「白夜」のアビスコではどうだったかというと…。
出発前の説明会でのこと。
「アイマスクは持ってきてください。あちらは白夜で一晩中、真っ昼間のように明るいですから」と私。
――カーテンはないの?とお客様。
「あるにはありますが、申し訳程度のぴらぴらです。
夏が白夜ということは、冬至のころは太陽が一日中昇らない『極夜』なんですよ。
そんな冬を過ごす北欧の方にとっては、せっかくの太陽を遮るなんて、思いもよらないことなんです」
…と、これはアップデートされないままの十数年前の記憶でした。
ストックホルムから北へ1,100キロ。
スウェーデン北極圏のアビスコ国立公園は、私にとって初めて海外添乗で訪ねた土地です。
ぴらぴらのカーテンは、そのときの強烈な思い出でもありました。
さて今回、十数年ぶりの再訪となった白夜のアビスコ国立公園。
宿は前回と同じ、一軒宿の「アビスコ・ツリスト・ステーション」です。
ここは、南へと全長440キロにわたり続く「Kungsleden(王様の散歩道)」と呼ばれるトレッキングルートの起点となっており、
世界中のハイカーが訪れる地なのです。
だからでしょうか、記憶のなかの簡素な山小屋は、ホテル並みにとまではいきませんが、
ずいぶん快適に、おしゃれに、生まれ変わっていました。
毎日ニシンの酢漬けとジャガイモ料理のバイキングだった夕食は、
日替わりの洗練されたスリーコース・メニューになり、
パイプベッドだけがぽつんと置かれて病院の一室のようだった部屋は、
リニューアルされて木のぬくもりが漂い、テーブルにはティーセットまで。
(朝ごはんのバイキングも充実!)
さらには窓に申し訳程度にぶらさがっていたぴらぴらカーテンが――
海外からの宿泊客に不評だったのでしょうか、
立派な遮光カーテンに換わっていました。
やれやれ、これで眠れる、と思うと同時に、一抹の寂しさも感じました。
便利さや快適さは、安易に「どこも同じ」に行きついてしまいますから。
さて、アビスコは今回のツアーのメインでしたから、3泊しました。
到着したその夜は雲が低く立ち込めており
(といっても、部屋で明かりをつけないでも本が読めるぐらいには十分に明るいのですが)
沈まない太陽は明日以降に期待…として、その日は皆さん、早めに休まれたようです。
翌朝、分厚い雲を割って、太陽と青空が出てきました。
日差しに誘われるように、キンバイソウやチョウノスケソウ、ベニバナイチヤクソウなど、
小さな花も足元でいっせいに咲いています。
そんななか、日暮れを心配することなく(次の日没は2ヶ月後です!)、花ざかりのハイキングを楽しみ、
早めにロッジに戻ってお隣の国フィンランド発祥のサウナを試し、そして夕食。
シャワーを浴びて、時計をみたら、午後10時すぎ。
太陽は、ややオレンジ色をおびてはきましたが、まだまだ高い位置にいます。
あと2時間後の深夜0時ごろには、太陽が地平には沈みきらずに、また昇りはじめる――
今夜はそんな「沈まない太陽」を見るチャンスです。
私の部屋は、ちょうど西側に面していました。
部屋の窓から太陽の動きを追うことができそうです。
カーテンは少し開けたままにし、目覚ましを11時45分に合わせてベッドに入りました。
――翌朝。皆さん、なんだか興奮気味。
「ゆうべお会いしたよね。あのあと、どこで見た?」
「いや、ぐるぐる林のなか歩いてたら迷いそうになって、あわてて戻ってきたんよ」
どうやら皆さん、沈まぬ太陽の写真スポットを求め、湖までいったり、丘にのぼったり、真夜中の散歩となったようです。
「散歩というより、まるで深夜の徘徊だったよね(笑)」
「ほんと。日本でやったら、通報されてエライことやわ」
深夜の徘徊? 通報? それって――いえいえ、午前0時のシンデレラ、とでもしておきましょう。
私はというと、「今晩こそは」と意気込んでカーテンを開けたままベッドに入るものの、
一晩中降り注ぐ日差しに眠りを遮られることもなく、夜中にセットした目覚まし時計もまったく役に立たず、朝までぐっすり。
(日本でなら夜明け前の薄明かりで目が覚めるのに…)
毎晩よく眠り、滞在中ただの一度も「沈まぬ太陽」を目にすることはありませんでした。
朝起きて、食べて、動いて、夜になったら寝る。
それが人間の営みの基本。
太陽が沈もうが、沈まなかろうが、まったく動じない自分の体に、ちょっぴり敬意を覚えたのでした。
ワン!
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