話題の映画「ブラックスワン」を見てきました。自分に潜む悪魔の存在を感じつつ認めたくない葛藤、それを認めるには天使の自分を消し去らねばいられない潔癖故の悲しさ、を描こうとしたのだと思いますが、演出がホラー映画のようでした。フランス映画だと少し違ったのかもしれません。
ナタリー・ポートマンは9キロ減量したそうです。バレリーナはほとんど食べずに激しい動きを課せられ、男性の強い力でリフトアップされるため、腰回りはアザだらけ、ときに肋骨を折ることもある過酷な職業です。
ウィノナ・ライダーがでていたのでほっとしました。彼女は数度の万引きで起訴され、その後どうしているかと思っていたのですが、罪を償った者にセカンドチャンスが与えられる社会は素晴らしいですね。
美しいナタリー・ポートマンに、バレリーナを目指していた学生時代の友人の姿が重なりました。遠い祖先にロシア人を持つらしい彼女の容姿はポートマンによく似て長身・色白で美しく、薄茶色の目と髪、長い手足が日本人離れしていて、まさに白鳥を踊るため生まれてきたように清楚な人でした。(彼女にブラックスワンは無理だったかも・・)
明確な目標に向けて日々努力し、授業中レッスン疲れで寝ていることが多いのに、クラスの誰も解けない数学の難問をすらすらと黒板に解き明かす彼女は、他のグータラ学生にとって羨望の的であり、公演・レッスンのため欠席がちな彼女のために、皆協力して代理で返事をし、先生方もみえみえの代返を見逃してくれました。(あれだけ目立つのだから、いなければすぐわかります)
当時の旧ソ連に留学の話もあったらしいのですが、彼女は結局バレリーナにはならず、残念がる周囲をよそに「もうバレエはやるだけやったから」と、とてもさばさばしていたのが印象的でした。
才能はともかく、おおらかで優しくお茶目な彼女の性格が、バレエ界に向いていなかったのかもしれません。そして、とても幸せな結婚生活を送っていたのですが、昨年五十半ばの御夫君を亡くされました。心身共に美しき者になぜかくも悲しい試練があるのか、人生は不条理です。
バレリーナになっていたらこんな悲しい思いをしなかったかもしれませんが、また別の苦しみがあったかもしれません。また、バレリーナなど目指していなければ、学校帰りに甘い物を食べようと誘う私達に「太るから・・」と淋しそうに一人帰ることもなく、どこかの大学に行って数学者になり、大人気の教授にでもなっていたかもしれません。
でも人生に「たら」も「れば」もありません。作家の田辺聖子は「たらは北海道、ればは肉屋」といったそうです。人生にあるのは今とまっさらな明日だけなのです。そんなことを思った一日でした。