今回は、中沢氏の説明をそのまま紹介します。
「歴代の天皇たちは、こう言う開かれた土地に暮らしていたのであるが、時々深い森の中に身を潜めるという奇怪な行動を行なった。」
「その頃熊野や吉野は京都から見ると、死の支配する、野生の領域と考えられていて、多くの天皇は、その〈野生の森〉に出かけて、何日も籠ってしまうのだった。」
その理由は、平地の皇居の暮らしで衰弱した「天皇霊」のパワーを、死霊の領域である深い森に籠ることによって、復活させようとしたからだと言います。初めて聞く珍説ですが、こう言う説を唱える学者もいたのでしょうか。
「そう言うわけで、天皇が森の奥に籠ると言う行為には、どこかしら、不穏なものが付き纏っている。」
「実際、壬申の乱でも、南北朝動乱でも、クーデターを企てた皇子や天皇は、森の奥への退却行を実行している。」
深い森が、身を隠すのに好都合だったと言うだけの話で、「死霊」や「天王霊」のパワーとは無関係ではなかったかと、そんな気がします。しかし氏が、このような「大地の声」を聞いたと主張するのなら、反対する根拠もありません。
天皇が深い森に籠られるのは、「天皇霊」のパワーを復活されるためであるが、それは特別の場合の話で、日々の生活は別だと説明します。
「あくまでも、日常の政務や生活の空間としての皇居は、広々と開け放たれ、庶民たちの暮らしと地続きにある、都市の一角に据えられていた。」「皇居はむしろ文明の象徴として、緑の少ない空間になければならなかったのである。」
氏は明治以降の天皇が、なぜ深い森の中の皇居に住われているのかについて、「大地の声」を利用し、解明しようとしているようです。ここで氏は、意外な説を展開します。
「文明開化とともに形を変えた近代天皇制は、野生の森を、土地の中心地に据えて、そこを皇居と定めたのだろうか。」
「それとも近代天皇制そのものが、一種のクーデターから生まれた〈鉄砲から生まれた政権〉なので、森の奥に皇居をすえることで、後醍醐天皇さながらに、魔術的な戦士としての、臨戦意識を持続しようとしたのだろうか。」
ここまで来ますと、「幽霊の正体見たり、枯れ尾花」です。「壬申の変」を「壬申の乱」、「南北朝の争い」を「南北朝動乱」、「明治維新」を「クーデター」と言い変え、〈鉄砲から生まれた政権〉と貶めるのは、反日左翼学者のすることです。「革命は、銃口から生まれる」と言った、毛沢東の言葉をそのまま使っています。
公平を期すために述べておきますと、『 アースダイバー 』の中身は、「天皇の森」に重点が置かれているのではありません。
新宿、渋谷、上野、浅草、銀座と、都内の各地を満遍なく語っています。第1章から第11章までありますが、目次を転記すると一目瞭然です。
第1章・・ ウォーミングアップ ( 東京俯瞰 )
第2章・・ 湿った土地と乾いた土地 ( 新宿 ~ 四谷 )
第3章・・ 死と森 ( 渋谷 ~ 明治神宮 )
第4章・・ タナトスの塔 ( 東京タワー )
第5章・・ 湯と水 ( 麻布 ~ 赤坂 )
第6章・・ 間奏曲 ( 坂と崖下 )
第7章・・ 大学・ファション・土地 ( 三田・早稲田・青山 )
第8章・・ 職人の浮島 ( 銀座~ 新橋 )
第9章・・ モダニズムから超モダニズムへ ( 浅草・上野・秋葉原 )
第10章・・ 東京低地の神話学 ( 下町 )
第11章・・ 森番の天皇 ( 皇居 )
目次を転記しますと、今まで気づかなかったことが見えてきます。第3章の「死と森」、最終章である第11章の「森番の天皇」( 皇居 ) と言う配列の意味です。
上皇陛下の「お言葉」以来、眞子さまのご結婚問題など、現在の皇室はゴシップの渦中にあります。昭和天皇御在位の時は、皇室への尊敬と感謝の気持が国民に共有されていました。あの頃天皇は、国民の心の中心にありましたが、今は大海の嵐に揉まれているように見えます。
もしかすると氏の著書は、こうした世間の風潮を助長したのではないかと、そんな気持になってきました。国民の心にある皇室の尊厳を、粗雑な言葉で壊そうとしているのではないのか ?
毛沢東の「革命は、銃口から生まれる」と言う言葉で、「壬申の乱」や「南北朝」の対立を「クーデター」と呼んでみたりし、目次の最後が「森番の天皇」と来れば、氏の悪意が何となく見えます。
新宿、渋谷、上野、浅草、銀座と、都内の各地を満遍なく語っていても、こう言う場所の話は付け足しで、氏がターゲットにしているのは、「皇居と皇室の、権威破壊」・・ではないのでしょうか。
そうしますと、「大地の声」も、読者を惑わす手品師の小道具でしかなくなります。毛沢東の影響を受けた反日の文筆家が、平成17年に出版した「悪書」でしかないと、そう言う気がしてきました。
これでまた、good事務局のスタッフの方々から「警告」を受けるのかもしれませんが、どうか、私の言論の自由も認めて頂きたいものです。私のブログはマイナーで、たった83人の読者の方しかいませんから、世間への影響などありません。
著名な中沢氏の出版物に比べれば、日本の何人に伝わるのか、計算すれば分かる、と言うより、計算するまでもなく分かります。
息子たちと、「ねこ庭」を訪問される方々にだけ、次回のお誘いをいたします。興味のない方は、スルーしてください。