ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『 アースダイバー 』 - 5 ( 女性天皇の誕生 )

2022-01-29 13:19:52 | 徒然の記

 最後の11章、「森番の天皇」です。

 「自然といわず生命といわず、あらゆるところに、自分の原理を浸透させていこうとする押しつけがましさが、キリスト教と資本主義と科学主義という、西欧の産んだ、グローバリズムの三つの武器には共通している。」

 「このうちの資本主義と科学主義を受け入れてきた日本は、それによってずいぶん得をした反面、心の内部の深いところまで、その原理の侵入を許してしまった結果、今や、大いに苦しめられている。」

 近代化という言葉で自然を破壊し、「森ビル」が金の力で、庶民を土地から追い立て、東京を無惨に作り替えていると語ります。この意見には、うなづかされるものがあります。

 「僕たちの心情の中に、グローバリズムへの反感が根強くわだかまっているのは、そのためである。僕たちの心の奥には、経済的合理主義に合うように作り替えられるのを拒否しようとする頑固な部分が、まだ生き残っている。」

 そして氏は、この主張の延長線上に天皇を持ってきます。

 「もしも天皇制が、グローバリズムに対抗する聖なる空間の場所として、自分をはっきりと意識するとき、この国は救われるかもしれない。」

 「そのとき天皇は、この列島に生きる人間の抱いているグローバリズムに対する否定の気持ちを表現する、真実の〈国民の象徴〉となるのではなかろうか。」

 なんとなく共感するのは、ここまでです。千葉日報に記事を配信する共同通信社が、「知の巨人」として賞賛する氏の意見の、独特の展開が始まります。

 「女性天皇の誕生をもって、明治天皇に始まる近代天皇制は、終わりを迎える。そのとき北方ツングース的な、男系原理に代わって、南方的・縄文的な双方原理が、皇室の中によみがえり、都心の森に住んでいることが、文明開花や富国強兵や、」「八紘一宇や経済大国などを、自ら否定して乗り越えていく、新しい〈森の天皇〉の生き方を、象徴するものである。」

 言論の自由な日本ですから、氏の意見に反対しませんが、中身には賛成しません。氏の意見は日本の過去の否定であり、歴史と文化の否定に繋がる極論です。双方原理という言葉は、天皇は父系でも母系でも良いという意味ですから、私には受け入れ難い意見になります。

 ご先祖さまが継承してきた、父系天皇の流れを守ろうと多くの国民が考えているとき、氏は双方原理という意見を出します。

 「そのとき初めて天皇制は、この列島の大地に根を下ろすことが、できるのではないだろうか。」

 しかし一方では、そうなった時に日本の皇室が崩壊すると考える人もいて、私もその一人です。

 「天皇を頭にいただく朝鮮半島からの移住者を、この列島の先住民である縄文人たちは、何はともあれ受け入れたのである。その時から、異質な文明同士が混じり合って、お互いの長所を引き出しながらこの文明を作ってきた。」

 日本には、今から約1万6000年前から約3000年前まで、北海道から沖縄本島にかけて、縄文人が住んでいました。狩猟・漁労の採取生活をしていたところへ、稲作文化を持つ弥生人が渡ってきたと習いました。それを朝鮮半島からの移住者と断定して良いのか、古代史には諸説がありますので、私は氏の説を是としません。

 「朝鮮半島からの移住者」と書けば、朝鮮人であるように聞こえますが、半島経由で渡ってきたのは、ユダヤ民族だという学者もいます。こんなところにも、氏の学問的な曖昧さがあります。

 「天皇制の中には硬い北方的な殻が生き続け、この列島の多様な伝統と真の融合を阻んできた。その歴史が変わるのだ。」

 「硬い殻」というのは、「父系制の天皇」を指していますが、このことがどうして日本の多様な伝統や、融合を阻んできたのでしょう。「大地の歌」の翻訳にしても、ここまで飛躍しますと、疑問が生じます。

 この本が出版されたのは、平成17年の5月です。ちょうどこの頃、小泉総理が有識者会議を作り、「女性宮家」の創設を図り、皇室の崩壊に力を入れていました。

 先日のブログで、12月22日に出された『有識者会議報告書』をブログで取り上げ、青山繁晴氏の言葉を紹介しました。

 「小泉内閣時代に、女系天皇にしてしまおうとし、日本の天皇家を終わりにするとしたことが、全部覆されたに等しい内容です。」

 平成18年の9月6日に悠仁様が誕生されたため、「女性宮家」の検討が中断され、現在に至っていますが、その最中にこの本が出版されていたというのは、単なる偶然でしょうか。

 中沢氏は今でも著名人で、信奉者も多数いますが、私には縁遠い人です。反日左翼とは違うとしても、吉田元総理の言葉を借りて言いますと、「曲学阿世の徒」ではないかという気がします。

 本日で終わりますが、関心を持たれる方は、自分で氏の本を手に取り、お確かめください。

コメント (3)
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