世間は今日から、仕事始めです。武漢コロナに暮らしを掻き回されながらも、新しい年が、本格的に始まりました。私の仕事の一つが「ねこ庭」での勉強ですから、仕事始めの一番目は、言うまでもなく『共同幻想論』です。
〈 全幻想領域 〉・・人間の思考全体
1. 自己幻想 ・・芸術理論 文学理論
2. 対幻想 ・・家族 セックス 男女関係
3. 共同幻想 ・・政治 国家 法律 宗教
前回の復習になりますが、氏はこの三つの幻想の内部構造と相互関係を考えると、世界の全てが理解できると主張しています。
私はこれを、「氏特有の思考回路」と呼びます。氏特有の言葉も、おいおい出てきますが、まず目につくのが「位相」と「逆立」です。わざわざこんな、聞きなれない言葉を使わなくても良さそうなのに、使わなくておれない性分なのでしょう。
〈 位 相 〉
・繰り返される現象の一周期のうち、ある特定の局面のことである。
・波動などの周期的な現象において、ひとつの周期中の位置を示す無次元量でもある。通常は角度で表される。
〈 逆 相 〉
・三相交流回路の相回転が逆になった状態で、三相誘導電動機が逆回転となること。
・電源を投入されてもモーターが起動しない場合は、電源の逆相が考えられるので、電源線3本の内2本を互いに入替えること。
位相も逆走も、意味を調べると、いっそう不可解になります。電気の実験が好きな、理工系の若者には普通の言葉でしょうが、私にはさっぱり分かりません。
こんな言葉を使ってしか、自分の考えが伝えられないのだとしたら、その人物は馬鹿か天才かのいずれかだろうと考えます。まだ36ページしか読んでいませんので、書評を述べるのは、早すぎます。
思い出すのは、学生時代に読んだある哲学者の言葉です。誰だったのかは、もう思い出せません。
「私の言葉が、分からないという人がいる。」「もっと簡単に言えないのかと、苦情を言う人もいる。」「しかし私は、こう言う言葉でしか表現できないことを、考えているのだから、無理な注文だ。」
「人から理解されたいとは、思っている。」「しかし、誤解されることの不快さに比べれば、理解されないことの安らかさを好む。」「多数の馬鹿な人間に理解されなくても、理解してくれる少数の人がいれば、それで十分だ。」
随分傲慢な哲学者だと思いましたが、時々、なるほどとうなづく気持ちもありました。吉本氏の著作を読んでいますと、なぜか哲学者の言葉が思い出されてきます。
氏はいったい、どう言う経歴の人物なのか、知りたくなりました。
「大正13年東京・月島生まれ、平成24年87才で没。」「日本の詩人、評論家」「漫画家・ハルノ宵子は長女、作家・吉本ばななは次女。」
存命とばかり思っていましたが、鬼籍の人でした。吉本ばなな氏が娘さんだとは知っていましたが、長女の漫画家・ハルノ宵子氏は、今回初めて存在を知りました。
難解と思われる本を沢山書いている氏ですが、生まれ育った環境を知ると、謎を解く鍵が見つかります。天才かバカかなどと、失礼なことを考える必要もなくなります。『共同幻想論』の文章を思い出しながら、氏の経歴を読むのは、楽しい作業です。胡桃のような硬い殻が、少しずつ柔らかになっていくのを感じます。
「氏は、兄2人、姉1人、妹1人、弟1人、の6人兄弟。」
すごい子どもの数だと驚くのは、最近の若者で、私の年代では当たり前の話です。父の兄弟は10人でしたし、母の兄弟は6人でした。子供二人の核家族が一般化したのは、戦後経済が復興し、職を求めて人々が都会へ集まった頃からです。
「実家は、熊本県天草市から転居してきた船大工で、」「貸しボートのような小さな船から、一番大きいのは、」「台湾航路で、運送航海をするような船を作っていた。」
私の両親が熊本の田舎から、鉄の都と呼ばれた八幡に越してきたように、氏の親たちも、天草から月島へと移り住んでいました。変わった文章を書き、難しい言葉を使っていても、氏は私の両親と同じく、戦前戦後の激動の日本で生きています。
焦土となった日本を復興させ、苦労した日本人の一人だと知れば、「難しい言葉」を使う氏にも、親近感が湧いてきます。
「吉本隆明氏とは、何者なのか。」
謎解きはこれからですので、関心と時間のある方は、次回も「ねこ庭」へ足をお運びください。