今から18年前の、1994 ( 平成6 ) 年の情勢ですから、そのままではありませんが、変わらない部分もあります。現在の日本を考える上で、大切なことが沢山ありますので、江畑氏の著作から紹介します。
「ソ連や東欧の共産圏の崩壊によって、共産ゲリラによる国内治安の不安定化は、」「大幅に縮小したが、東南アジアにはなお多くの、不安定要因が残されている。」「代わりに、民族の自立・自治の主張による、」「小規模な武力浸透問題が増加した。」
こうして氏は、各国の状況を語ります。
〈 カンボジア 〉( カンボジア王国 ) ・・立憲君主制国家
・ホルポト派がなお、新政権への協力を拒否している。
・新政権が軍事圧力を強めると、彼らは再びタイやラオス、或いはベトナムへ逃げ込み、周辺国の軍隊との軍事的緊張が高まる恐れがある。
〈 ラオス 〉( ラオス人民民主共和国 ) ・・社会主義共和制国家
・ラオスはなお、いくつかの小規模反共ゲリラ組織の支援を行っている。
・これらの組織は、外国からの資金援助が途絶え、衰退の一途を辿っている。
・世界情勢の変化で、再びこれらの組織が勢いを盛り返すことがあれば、彼らを支援するラオスと周辺国の緊張が高まる。
・とりわけ、ベトナムやミャンマーとの関係は緊張するかもしれない。
・1975 ( 昭和50 ) 年に、ベトナム寄りのパテトラオ政権となって以来、国内にも不安定要因が残っている。
〈 ミャンマー 〉 ( ミャンマー連邦共和国 ) ・・共和制国家
・多数の民族で構成される国であるため、旧ユーゴスラビアと同様、民族・宗教による分裂、紛争が生じる危険性をはらんでいる。
・軍事政権の強権政治で、現在のところ民族武装集団 ( ゲリラ ) は抑え込まれている。
・ミャンマー政府自体が、多くの民族で構成されているため、ゲリラ制圧に過激な手段が取れない、という矛盾もある。
日本のマスコミは、欧米の報道がメインで、アジアの出来事をあまり頻繁に取り上げません。私たちもそれに慣れ、アジアの国々のことに関心を払いませんでしたから、氏の説明を読みますと新鮮な驚きと共に、自分の知識の偏重と視野の狭さを教えられます。
〈 タ イ 〉 ( タイ王国 ) ・・立憲君主制国家
・ラオスにパテトラオ政権が誕生して以来、緊張関係にある。
・ラオスを追われた反共グループが、タイ側に逃れ、ラオス軍がタイとの国境に展開している。
・反共グループの中には、ラオス軍に攻撃を仕掛けているものもあるが、タイ政府が黙認しているため、両国間に緊張が高まっている。
・タイ湾での領海問題で、マレーシア、カンボジア、ベトナム、シンガポールとの問題を抱えている。
・周辺国が本格的に、経済専管水域の利権保護に乗り出すなら、南シナ海に劣らない緊張関係となる恐れがある。
〈 マレーシア 〉 ( マレーシア ) ・・連邦立憲君主制国家
・世襲ではなく選挙で選ばれる、任期制の国王である。( 選挙君主制 )
・フィリピンと、南沙諸島の領有権だけでなく、サバ州をめぐって対立関係にある。
・1968 ( 昭和43 ) 年に、フィリピンのマルコス大統領が、サバの反政府勢力を援助し、マレーシア政府に軍事攻撃させようとしたが、事前に洩れ、以来両国関係は悪化した。
・フイリピンが、サバの領有権を放棄しない限り、両国間の問題は解決しないと強行な態度をとっている。
・現実的には、両国間に大規模な軍事衝突が起こる可能性はない。
・インドネシアとの間でも、二つの島の領有権が未解決である。
・現状維持で合意が成立したが、1992 ( 平成4 ) 年にマレーシアが、一つの島の開発に着手し話が難しくなった。
・しかしこの問題で、両国関係が悪化する心配はない。
〈 インドネシア 〉 ( インドネシア共和国 ) ・・共和制国家
・インドネシア最大の問題は、東チモールとイリアン・ジャヤでの反政府活動である。
・武力衝突が他国の介入を招く心配はないが、人権を表に出した国際的圧力に、政府が苦しめられることはあるだろう。
・すでに米国の圧力により、兵器調達計画の修正を余儀なくされている。
〈 フィリピン 〉 ( フィリピン共和国 ) ・・立憲共和制国家
・冷戦後もゲリラ勢力に悩まされ、世界の中でかなり特異な存在となっている。
・政府は懐柔策と、治安維持の強化という飴と鞭の政策で鎮圧を図っている。
・1993 ( 平成5 ) 年に、政府と反政府イスラム教徒ゲリラ「モロ民族解放戦線」との間で、暫定停戦協定を調印した。
・だがこの国の貧困や、国が多数の島で構成されているという条件と結びつき、共産ゲリラの活動を封じ込めることは、近い将来は不可能と見られている。
ベトナム、シンガポール、ブルネイについて書かれていませんので、今回はここで終わります。
日本との比較で感じたことは、中国を除けば、これらの国々は国際社会では中小国です。日本も同じですから、韓国・北朝鮮の言いがかりに、あまり神経質にならず、中国の尊大な脅しにも、過度に反応する必要はないのでないかと、そんな気もしてきました。