シリーズも長くなりましたが、まだ98ページのところです。
「冷戦終了後、基本的には東南アジア諸国が抱える、国内治安問題は、」「大幅に減少した。」
ということは、社会主義国ソ連が、東南アジア諸国を勢力下に収めるため、各国の共産主義勢力をいかに支援していたかという話になります。直接に介入せず、その国にいる不満勢力を使い、反政府活動をさせ、武器や資金を支給していたという説明です。
「ベトナムのカムラン湾における、旧ソ連軍・現ロシア軍が、」「極めて限定されたことに象徴されるように、大きな軍事的脅威も無くなった。」「旧ソ連軍の、東南アジア、インド洋からの撤退に伴って、」「米国がフィリピンに基地を維持しておく必要も、無くなった。」
「ピナツボ火山の噴火を機に、クラーク空軍基地のみならず、」「かっては米国の世界戦略に取り、かけがえのない存在とみなされていた、」「スービック・ベイ海軍基地と、それに付随する航空基地まで手放し、」「米国はフィリピンを去っていった。」
マスコミが大きく取り上げていましたので、火山の大噴火と、機を同じくした米軍の基地撤退について覚えています。その時の報道は、自立を目指すアキノ大統領が米軍基地を拒絶したと、そういう書き振りではなかったかと思っています。
江畑氏の説明で、米ソ冷戦が終結した結果だと、知りました。ソ連崩壊は、それほど大きな変化をもたらしていたのです。現在の東南アジアでは、ソ連に代わり、習近平氏の中国が同じことをやっています。各国内の不満勢力に資金と武器を提供し、これらの国々を自分の支配下におこうと頑張っています。
これについて触れると、本論を外れます。氏の著作の時点ではなかった事態ですし、今は氏の意見に耳を傾ける方が大切です。
「かっては米国とソ連の庇護下にあり、またこの両大国が対峙していたため、」「東南アジア諸国はその下で、ある程度の安心と安定が保障されていました。」「いきなりその傘がなくなり、いつ雨が降るかわからない空の下に、」「放り出された自分たちを、発見することとなったのである。」
先に述べました、東南アジア各国の軍の近代化と、装備の見直し拡充の原因は、ここにありました。自分の国の安全は、自分の力で守らなければならないという目覚めです。
「日本も同じような状況であるが、日本はまだ日米安全保障条約により、」「自国の防衛力で補いきれない状況には、米国の戦力を期待できるし、」「それが抑止効果を発揮しているのだが、東南アジアの国々には、」「日米安全保障条約ほど有力な、安全保障関係がない。」
日米安全保障条約を敵視し、撤廃を叫ぶ共産党と、同調する野党もいますが、軍事専門家から見た場合の見方は、違っています。日本共産党が、今もソ連と繋がっているのか、中国に傾きつつあるのか分かりませんが、彼らの主張が、相変わらず、現実無視のプロパガンダであることは分かります。
専守防衛の自衛隊では、外国勢力の侵入を阻止することができませんから、条約を撤廃するのなら、憲法を改正し、軍の再建をする必要があります。ソ連崩壊後の東南アジア諸国の動きを見ればわかる通り、自国を守る軍は自分の手で整備充実させなくてなりません。これが、世界の常識です。
「ただ各国とも、これまで保有してきた軍隊が、」「主として国内治安維持用であり、対外的対応には、不適切なものであることは認めている。」
氏の説明は、そのまま日本に当てはまります。日米安保条約があるから、専守防衛の自衛隊でも機能していますが、条約がなくなれば、外敵に対応できない国内治安部隊では、国が崩壊します。
反日勢力の妨害のため、政府自民党が国民に説明できないのだとしたら、私たち自身が氏の著作で、「現実」を学ぶしかありません。
「1991 ( 平成3 ) 年の湾岸戦争によって、各国は、最低限の最新兵器、」「いわゆるハイテク兵器を持たなければ、相手と同じ土俵にすら上がれず、」「いくら旧式兵器を多く持っていても、なんら国家安全保障には役に立たない、」「という現実を、見せつけられた。」「いわゆる、ハイテク兵器ショックである。」
「その意味で、東南アジア諸国が進めているのは、」「軍備の近代化であって、量的に増強する軍拡ではないと言える。」
もしかすると中国の軍事費の増大も、この要素が大だったのかもしれませんが、今の所中国への理解は要注意の面が大です。
「しかし軍備は相対的であるから、ある国が増強に着手すると、」「その周辺国もそれに応じて、軍備の増強に着手せざるを得なくなる。」
どこまでが旧式装備の近代化なのか、どこからがそれを超えた軍拡なのか、外から見ては分かりません。どこまでが軍事力の「域内」なのか、どこからが「域外」なのか、客観的に定めることが難しいと氏が言いますが、まさにその通りです。
「ただ東南アジア諸国の場合は、非常に冷静なものであり、」「中東の最新兵器導入計画とは、かなり質を異にしている。」
「反面東南アジアが、現在世界で新型兵器が売れる数少ない市場であるため、」「冷戦終了後の先進国軍需産業が、売り込み先として、」「熱い視線を注いでいるのも、事実である。」
「軍備競争は、地域の軍事バランスを変化させ、」「紛争の危険性を高めるだけでなく、各国の経済的疲弊が生じるという、」「大きな問題がある。」「特に貧しい国にとっては、軍備競争の発生は、それ自体が大きな脅威である。」
全てもっともな意見ですが、実行するには困難が伴います。日本の政治家も、単なる左右の対立でなく、こうした問題を国会で審議して欲しいものですが、果たしていつになることでしょうか。
「貧しい国での軍拡張層の脅威、そうした国の代表に、ベトナムとフィリピンがある。」
次回は、ベトナムとフィリピンについて、できれば日本と比較しつつ報告いたします。